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攻略戦⑩ 自称弟子


/小町視点/


「舐められたものね!」


 空気が震える。

 距離を超えた刺突が飛んで来るのを感じ取る。


 電撃が纏う刺突は必殺の一撃。 

 人体のどこに突き刺さっても致命傷になる。

 人体の内部で雷が伝えば、血管は破裂し、神経は焼き切られ、心停止するだろう。


「視えていますよ!」

 

 相手が狙う場所はどこか、どんな魔力が込められているのか、全てが手に取るようにわかる。私の目には、それが視覚化されて映し出されていた。

 

 『異能』の流れを表層化させる。

 

 本来視えず、捉える事の出来ない流れを見定めた。


 その刹那、私は刃を振り抜いた。

 異能がひとひらの刃に斬られるのを感じると、セリーナの驚愕の声が耳に届いた。


「どうなっているの……」

 

 私は彼女の下まで走り込むが――


 次の瞬間、無数の刺突が迫る。

 点・点・点と、連続する刺突。

 それはまるで弾丸のように、風のように、私に向かって飛んできている。

 

「これは奇襲だ……」


 心の中で自分に言い聞かせ、冷静さを保つ。

 相手の意図は分かっている。

 今の私は、どんな攻撃もただの流れとして捉えることができる。 


「私は、視えているんです」


 先輩に指摘された、この眼は異能を直接無効化するだけではない。

 

 周囲の魔力の動き、スキルの反応、アーツの挙動。


 セリーナの雷を纏った細剣が、私の前で疾風のように振るわれる。それを、まるで予測していたかのように防ぐ。彼女の攻撃が激しくなるが、私はそれを全て無効化していく。


「チッ!?」

 セリーナの舌打ちが耳に残る。

 その声には、かすかな怒りが混じっていた。


「ふふん。こんなものですか!? 聖教会筆頭騎士! セリーナ・アリエル!」


「小娘が!」

 その声には、怒気が滲んでいた。

 

 私は柱の物陰を繰り返し往復しながら、冷静に次の手を考える。先輩の教えを忠実に再現するだけで、これほどまで楽に立ち回れる自分に驚いている自分もいる。


「次はどうやって距離を詰めるか……」


 本来、剣士同士の戦いは距離を詰めて戦う。

 しかし、目の前の女騎士は一向に距離を詰めない。

 距離を無視する特殊な技能から放たれる刺突を得意とする。

 彼女は、剣士でありながら、実のところ遠距離型。

 どちらかというとスナイパーに近い。

 

「剣技では、恐らく私の方が一歩先を行く」


 彼女が得意としているのは。

 雷のエンチャントと距離を無視する特殊な刺突だ。


 しかしマホロ生の上位勢に比べればそこまでの無慈悲さはない。


「何より先輩より圧倒的に弱い!」


 セリーナの何度目かの刺突を防ぎ切る。


「なんで!? どうして防げるの!?」

 セリーナの声には焦燥が混じってきた。


 世界最高峰の高みに居る可能性がある先輩には比べるまでもなく、彼のアホみたいな地稽古に比べれば全てが遅く、拙く、弱弱しく感じられる。


「貴方が弱いからでは!?」

 そう言って挑発しながら、私は冷徹に攻撃をかわす。


「なにを、一介の剣士風情が!」


「私は天内先輩の一番弟子ですよ! 舐められては困りますね!」


 セリーナの反応が激しさを増し。

 攻撃がさらに速く、強くなってきた。

 しかし、私にとってそれは脅威ではなかった。

 

 先輩の方が鋭く速く洗練されているからだ。


「ああ。うざい! うざい! うざい! うざい!」

 セリーナは先輩に何もさせて貰えず敗北したのを思い出したのか、怒りを滲ませた。

 

 私は意地悪そうに笑みを作る。

 全部先輩のマネだ。


「冷静さを欠いた方から負けるんですよ。三流さん!」


「ごちゃごちゃうるさい!」


 その瞬間、セリーナの雷撃が私の眼前で放たれる。

 しかし、私は迷わず、彼女の攻撃をかわす。




 私は先輩の剣術を常に横で見てきた。

 先輩に教わった『守破離』の考え方。

 基礎的な筋力や体力作りをして。

 技術を模倣し、研究する。

 真似て、取り込んで、自分に合わないものは切り捨てる。




 先輩との会話が思い出される。


 ――――

 先輩は稽古終わりに。

『全てを真似る事は出来ないぞ小町』


『今更ですか?』


『当たり前じゃん。そもそも俺とお前じゃ体格も性格も能力も違うんだ』


『前は真似ろって言ってたじゃないですか』


『ただ単に能無しに真似ても意味ないだろ。出来る事と出来ない事を取捨選択して自分なりに洗練させていくんだよ。それが俺の教えね。はい。受講料3000円』


『うるさいなぁ! またそれらしい事ばっかり言って後輩からカツアゲして恥ずかしくないんですか!?』


『恥じ? なにそれ美味しいの?』


『コイツ!』


『早く払え。あ! 今為替が変わって3500円になったぞ! 早く払わないと大変な事になるぞ!』


『そんな訳ないでしょ! それに私が前貸したお金返して下さいよ!』


『うるせぇな。インチキ自称弟子の癖に。新しい情報を小出しにして搾取する俺の情報ビジネスに、やいのやいの言いやがって』


『あ! 今! 情報ビジネスって言いましたよね!? コイツ!』


『言ってねぇよ! 俺が言いたいのは! 補いながらオリジナリティを出してくの。理解!?』


『ムカつくなぁ。その『理解?』って語尾感じ悪いですよ!』


『すまんすまん。はい。じゃあ受講料追加で2000円ね。合わせて8000円。把握?』


 私はキィーと髪の毛を掻きむしった。

『払う訳ないでしょ! それに値段上がってるし!』


『いや。払えよ! お前全然受講料払わねぇじゃん』

 

『あー。うるさい! うるさい! うるさい!』

 ――――


「……なんだコイツ」

 私は頭を振るった。


 回想に出てくる先輩がどうしようもない瞬間しかない。こんな時だと言うのに、守銭奴の馬鹿が脳内をうろついているのだ。


「あんまり参考にならない! 私は先輩みたいな思考力はない! だったら!」


 私は目一杯走り出した。


 難しい事なんて私には出来ない。

 先輩のような器用なマネはしない。

 先輩みたいに出来ないなら。


 先輩に出来ないけど、私に出来る事をする!

 

「この眼をフル活用するしかないんだ!」 


「さっさと死ね!」


「嫌です!」 


 セリーナの凶刃を避ける。

 刺突が飛んで来る。

 細剣に纏わる電撃が辺りを走る。


 視える―――

 抜刀7連で斬りながら―――

 ただ走る。


「ふっ!」

 セリーナの顔が驚愕に染まる。


 遂にセリーナを捉えた。

 私はセリーナの脳天に向けて抜刀を放つと。

 目を見開いた彼女の顔が良く見えた。

 


 咄嗟にセリーナは後ずさり。



 抜刀が空振りする。


 しかし―――私は、突きのフェイントを添えて下段から上段斬りに切り替える。

 

 彼女にすぐに追撃を仕掛ける。

 一歩踏み込んだ。


「近接戦で、引く瞬間が最も技量が出るんです」


 彼女の雷撃がまるで意味を持たないように、私は間合いを詰めていく。


「なにを!?」


 セリーナの突きが飛んで来ようとしている。

 さらに一歩踏み込む。


 先輩に言われた言葉を胸に、私はただひたすらに前進する。『怖い時こそ、前に進むんだ』と。

 

 間合いがズレた事でセリーナの突きは射程が狂ったようであった。ここまで迫れば距離を無視した攻撃などあってないようなものだ。


 電撃の魔力を―――斬り伏せた。


 先輩に言われたように、単純な剣術の勝負に持ち込む。 

 ここからはただの剣の技量の勝負。


「下手に引くと大きなスキを生みます。それをするぐらいなら鍔迫り合いに持ち込んだ方がいい。貴方、弱いでしょう!」


「このガキ!?」


 またも刺突が飛んで来る。


 さらに一歩踏み込んだ。


 セリーナの突きが、私の眼前で繰り出されるが、私はその攻撃を間一髪でかわす。


 顔のすぐ傍を彼女の刺突の軌道を描いていた。


 これで終わりだ。

 一振り、抜刀を放つ!


 一閃―――

 

「!?」

 セリーナの息を呑む呼吸音。

 

 刹那の世界で――― 

 彼女の腹部に思い切り抜刀を撃ち込んだ。

 バチンっという鋭い音が響き渡ると。

 彼女の胸当てが砕け散る。


 

 セリーナは膝から崩れ落ちた。



「峰打ちです……とは言っても、この速度で当てたので……」

 命の保証はできないけど……


 だが、その瞬間。

 まるで地鳴りが体中を貫き。

 骨まで震えるような不気味な音。


 ――『ゴゴゴゴ……』と宮殿全体を揺らすその音に、勝利の余韻はかき消された。


「なに……」


 天蓋が崩れる落ちる。

 瓦礫が降って来た。

 ゆっくりと、まるで何かが動き出す気配が感じられる。

 私は慌てて振り返り――そこにいたのは。


「あれ」

 

 巨大な蜘蛛のような脚。


 異様に長く、関節がいくつもねじれており、節くれだった脚が冷たく光る床に食い込んでいた。脚先は黒く鈍く輝き、まるで無数の短剣が床を突き破るような力強さ。


 脚の先端には眼があった。


 私は無意識に後ずさる。

 喉の奥が乾き、全身の血の気が引くのを感じる。


「来る!?」

 

 目玉から発せられたのは。

  

 ――殺気――

 

 異能の流れを感じ取ると。

 慌てて超常現象『斬り』伏せ、殺気はねじ曲がり、柱の先に激突する。


 咄嗟に物陰に隠れ様子を伺う。


「なに、この臭い」


 腐った卵のような。

 肉を腐乱させたような酷い臭気が鼻をつく。

 臭いの先へ、ゆっくり振り返る。


 恐怖した。

 

「酸で溶けているんじゃない……」


 殺気が放たれた先。

 石で出来た柱は……

 ドロドロのゼリー状の腐乱した肉塊に変化していたのだ。

 

 

 

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