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攻略戦⑧ 外骨格型武装『アイゼン・スカルド』


/3人称視点/


 辺りに広がる高温の蒼い炎。

 空気が熱にゆがみ、爆風とともに血飛沫が舞い上がる。しかし、それらの血液は瞬時に蒸発し、跡形も残らない。


 マリアはメイスを振り下ろし、青い炎を放ちながら叫んだ。


「大人しく倒れればいいものを!」


「そんな事をしたら戦いが出来なくなるでしょう!? 戦場を楽しむには、倒れる訳にはいかないでしょう!? お嬢さん!」


 己の強さを誇示するようにハインケルは能力で地雷を破裂させる。

 

 

 蒼い炎と紅蓮の爆破が、荒れ果てた戦場を彩りながら、二人の攻防はますます激化する。

 


 マリアとハインケルの攻防は佳境に差し掛かっていた。


 マリアの体には、既に無数の火傷や傷が刻まれていた。

 左顔面は赤黒くただれ、四肢には瓦礫や破片が突き刺さり、痛みが彼女の体力を容赦なく奪っていく。それでも彼女は立ち続けた。彼女の体は限界を超えてなお、気力だけで動いているのだ。


 

 人体から勢いよく燃え上がる炎の中。

 ハインケルは痛みを楽しむかのように狂喜乱舞しながら高らかに叫んだ。


「もっとだ! もっと燃えろ! 戦場はこうでなくては! これこそが戦いの本懐だ!」


「一体、どうすれば……」

 

 通常の戦闘ならば―――

 マリアは既に何度も致死の業火をハインケルに浴びせている。戦士としての技量、魔術師としての格だけ見ればマリアの方が上なのだ。

 

 しかし、何度も致命傷から再生する。

 人ならざる者を体現するかのように復活する。何度焼いても、致命傷に成り得る業火を浴びせても、再生を果たし凶悪な爆撃の反撃を繰り出してくる。


 ハインケルは片手剣を空に振るうと。

「紅蓮!」

 破裂音が炸裂した。


 彼は火だるまになりながらも、紅蓮の爆撃を空間に放つ。

 

「は!?」

 爆発音が響き渡り、マリアはその威力に息を飲む。

 

 彼女へと爆風と熱波が押し寄せる。

 手で顔を覆うが、瓦礫が刺さり彼女の衣服を焦がし皮膚は焼け(ただ)れ赤く腫れ上がる。


 閃光の中で―――


 不死身を思わせるハインケルが走り出していた。


「一度でも触れられれば、それでよいのですよ! 貴方は美しく爆破される!」


 剣の切っ先を地面に這わせながら、触れたものを爆発物に変換する『タッチデトネーション』が発動していた。


 剣の先端が触れた場所、そのすべてのタイルが地雷に変わり、一瞬で爆発する準備が整う。

 

 マリアは距離を詰められないように火の魔法で対処しようとするが……

 

 一歩遅かった。

 

 目の前にはハインケルの燃え上がる笑みが浮かんでいた。


「終わりだ。醜い顔の女!」

 ハインケルの嘲笑にも似た声音。


「あ……すみません」

 

 彼女の心に絶望が押し寄せる。

 その瞬間―――

 彼女の脳裏に浮かんだのは、天内の姿だった。


(彼ならば、こんな相手、苦もせず倒してしまうだろう。

 彼が伝説の「極光」ならば―――

 このような相手と何度も対峙してきたのだろうから。どれほどの修羅場を潜り抜けてきたのか、どれほどの頂きに居るのか。


 どのように不死の敵を屠って来たのか。

 何でもないように語っていた気がする。

 本当に分かり辛いのです。

 重要な事を、まるで『初めて料亭に行って来た』の調子で語るせいなのです。なぜ、しっかり聞いておかなかったのか)

 


 ・

 ・

 ・ 


/マリア視点/


 私は刹那の中で―――

 彼と共に歩いていた時の事を思い出していた。

 

 ――――――過去の言葉を思い出すように。 

 

 天内さんはふと語り出した。

「そういや、今から倒す予定のダンンジョンモンスターと同じような奴が居たなぁ」


 隣を歩く私は彼に問いかけた。

「そうなのですか? 一体どのような魔物なのですか?」


「コピー能力持ちです」


「模倣? ですか……」


「ですね。かつて似たような奴は『食った術者の能力を奪う能力』でしたね。しかも何度斬っても蘇る再生付きです」


「それはなんとも……凄いですね」


「チート野郎ですよ。コピー能力持ちの不死身」

 彼は思い出すように語る。


「不死身ですか……」


「なんとソイツ。プラナリアみたいに分裂するんですよ。半分に斬ると2人になって。さらに斬ると4人になる」


「人の話ですか? 魔物でしたっけ?」


「う~ん。人を超越したものです」


 含みを込めた言い方であった。


「なんとも。それは本当なんですか?」

 

 一瞬疑ってしまう。

 彼が何でもないように語る功績の内容。


 相対して来た敵が余りにも非現実的過ぎて虚言のように聞こえてるから不思議だ。


「信じられないのも無理はないでしょうね」


「……」

 私は押し黙った。


 いや、信じてはいる。彼を信用しているし、信頼もしている。だが、あまりにも荒唐無稽なので、つい確認する言葉を吐いてしまったのだ。

 

「今から倒す予定の魔物は分裂しないですが……コピーはしてきます。しかも高度な魔術まで」


「は、はぁ」


「まぁアレですよ。分裂しないだけマシですよ。だって、分裂コピー野郎は、最終的に100人以上に分裂して『メタルクウラかよ!』って思わずツッコミましたからね」

 

 メタルクウラが一体何なのかわからないが……


「あの~。それは、どのように打倒したのですか?  そんな不死身に分裂など、余りにも絶望的ではないですか」


「ああ。それは―――」 

 

 なんと仰っていたの?

 

 

 

 思い出しなさい私。


 

 

「不死身には致命的な欠陥があります」


「それは、そうなのではないですか。そんな事に代償がない訳がない。そんな事が容易く出来たら自然法則を歪めていますもの」


「ですね。その通りです。マリアさんの言う通りなんです。間違いないのは、この世に不死は存在しない」


「そんなのは当たり前の事です」


 彼は頷く。

「ですね。不死はなく、しかして不死の如く再生する。実際には不死身に見えるだけだったんです」


「どういう意味でしょう?」


「逆転の発想ですよ。本体と思っていたものが、本体ではなかった」


「えっと」

 私はその言葉の真意を当てかねる。


「エネルギーの供給源。例えば術者本体が人の形をしていれば、人が本体だと思うでしょう?」


「え、ええ」


「しかし人外に至っているのであれば。そもそも人間体が本体というのが盲点。その時の本体は―――」


 ・

 ・

 ・


 思考が現実に引き戻され、目の前の戦闘に集中した。


 目の前の狂気の騎士……

 この人型が本体ではないとすれば?


 目の前の化け物は再生する。

 人体をどれだけ焼こうとも。

 なぜなら人体が本体ではないから。

 

 遅延魔法を重ね掛けし、ハインケルの放つ爆撃の斬撃をメイスで受け止める。


「ほう!?」

 ハインケルは驚いた顔をする。


「私は魔術だけではありません事よ」


 天内さんがヘッジメイズにて発刊していた肉弾戦の指南書がここで活きる。執拗に体術の鍛錬を課した彼の(げん)は間違いなかった。


 もし体術の鍛錬を怠っていれば、随分前に終わっていたのだから。


「見事。どこで習った!? 魔術師風情が!」


「世界最高峰の剣士からですわ!」


 私は騎士のような体捌(たいさば)きで、ハインケルの懐に入り込む。

 メイスにありったけの魔力を込めた。

 

 メイスの先端が燃え上がり―――

 

 ロケットブースターを付けたかのように加速する。

 

 技名などない。

 単なる燃焼で加速させたメイスの殴打でしかないからだ。


 続けて宣言するように。

「貴方の本体は……」


 私は真実を見つけ出した。黒く禍々しく光る全身を着飾る見た事のない黒い甲冑(かっちゅう)。ムカデの外骨格を思わせる異様な様相。

 

「これだ!」


 体術と魔術を駆使し。

 剥き出しになった頭部でもなく。

 甲冑のつなぎ目でもなく。

 

 直接プレートを思い切り叩く。


 ピシッと―――音が奏でられると。

 甲冑にひびが入った。

 

「がっは!?」

 

 今まで出した事のないハインケルの呻きに似た声が上がる。


「ようやく、いい顔をするようになったではありませんか?」

 私は白眼を剥く騎士に語り掛け。


 容赦なく再び力の限りメイスで甲冑を殴りつけ、甲冑を破壊した。


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