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√2

 

 俺はご都合主義というものを考えていた。

 俺は運が悪い。

 それは俺なのでわかる。

 人生を通して痛感してきた事。

 突然絶体絶命のピンチで覚醒もしないし、曲がり角で美少女とぶつかる事はなかった。

 この世界は異常だ。

「何でもありやんけ」

 ギャルゲ時空に関わらず、全ての作品は異常事態が発生しがちだ。

 例えば、俺がこの世界に来た事。

 例えば、主人公はハーレム邸家主になる事。

「そして、なぜか俺は本編介入から少しズレるという事」


 名探偵俺は、ふと、なぜ俺は入寮できないのかという疑問が頭に浮かんだのだ。

 

 俺は寮に入寮するはずだった。そういう設定だったはずだ。

 そして、そこでニクブとガリノという親友を得るはずだった。

 書類を事前に申請"していない"という、マジで謎の理由で俺は入寮できなくなったわけだが。

「それはなぜだ?」

 なぜ申請"できない"?

 よくよく考えればおかしくないだろうか?

 あの時はお役所仕事はクソ。

 と思っていたが。

 それはおかしいのだ。


"できない"と"できていない"は言葉のニュアンスの違いだが大きな違いがある。


 そもそも、学園側からすれば俺が転入試験をパスして入学できるかできないかは、わからない状態だったはず。

 なのに、なぜ入寮できない?

 因果関係があべこべだ。

 まるで俺が入学できる前提で、すでに入寮できない布石を打たれていたとしか思えない。

 言い換えるならば、

 俺の本編介入を遅らせるような……

 本編のキャラクターや環境から無理矢理引き離されているような奇妙な感覚。


 無理矢理この(ルート)()()()()()()()ような感覚。

 

 第三の手の介入を感じる。

 "名探偵俺"はこの謎を解く事ができなかった。

「陰謀だ」

 そういう事にしておこう。

 それなら、学生の転入を受け入れる体制を取るなよ。

 寮の空きがなかったと言ってくれた方がまだ得心がいく。


 まるで、俺が未来への介入を果たすのを予期して邪魔している者、もしくは……その逆に俺を支援している者が居る事になってしまう。


 目的がわからない。


「ストーリーが読み解けなくなりそうだ」

 だめだ。

 単なる思い込みなのかもしれない。

 考えるのを止めよう。

 この世界はギャルゲ時空。

「ツッコんだら負けだ」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 学園の敷地に入り、車で飛ばして2,30分程度のところにモリドール氏の家はあった。

 俺は森林モリドールという存在を誤解してたのかもしれないと思ってたが、そうでもないかもしれないと思ってしまった。

 どんどん森の中に入って行き、学園の本拠地から離れるにつれて俺は不安になった。

 わだちはできてるが、道なき道を通って行くにつれて俺はミスったかもしれんと思った。

 想像を凌駕してきたからだ。

 彼女の住む社宅は社宅と言えなかった。

 元用務員室と言っていたから、流石にある程度マシな建物を想像していたし学園から近いと思った。

 このメガシュヴァの世界観は前世の世界と同じ21世紀時空だ。

 スマホもあるし、インターネットのあるそれなりに発展した世界観である。

 森林モリドールの住む家は、一気に200年、300年遡ったような家だった。

 ここだけ中世の世界観である。

 小屋だった。

 というよりも物置とか廃屋とかそういうモノに近いかもしれない。

 木造の小屋。

 別に小屋が悪いわけではない。

 まぁなんというか落差の問題だ。

 山の中で山小屋を見ても何とも思わない。

 ただすぐそこに現代文明の家屋があるのに、何百年前の小屋を見ると、まぁなんというか『あ、うん』となってしまう。

 それにこの森の中は現代文明からまるで切り離されたような空間。

 電気は繋がっておらず、水道も通っていない。

 灯りはロウソクかランタン。

 飲み水や洗濯は井戸から汲むシステム。

「あの……スマホの充電とかはどうすれば?」

 文明人には電気は必要不可欠だ。

「ああ。学園の図書館とか教室でできるよ」

 モリドール氏はあっけらかんとそう言った。

「そっすか……」

 俺を歓迎するかのように至る所に飾り付けがされており何とも言えない気持ちになった。文句を言うのは違うような気がしたからだ。

「あの風呂とかトイレは……?」

 予想はできてるが訊かずにはいられない。

「ああそれね。じゃじゃーん。五右衛門風呂です。そしてトイレはあそこです!」

 ドラム缶の五右衛門風呂に工事現場とかで見る簡易トイレが家の真裏にあった。

「そっすか……」

 カルチャーギャップで『そっすか』しか言えないロボットになってしまいそうだ。

「じゃあ、ささやかだけど歓迎会をしよう!」

「そっすね」

 どうやらボキャブラリーに『そっすね』が追加されたようであった。


 歓迎会なるものはささやかに行われた。

 最初は『オワタ』っとなったが、時間が経つとさながらキャンプをしているようで少し童心にも戻り『こんな生活も悪くないかもな』なんて思ったりもした。

 そもそも、ファントム暗躍計画をする上でアジトは非常に重要だ。

 森の中に逃げ込めるというのはよくよく考えればアリ。

 寮生活では暗躍できないかもしれない。

 必ずボロが出る。

 ・

 ・

 ・

 最初の方は良かったんだ。

 モリドール氏の手元にあったビールの缶が1杯空いた時は普通だった。

 赤ら顔で『天内くん。一緒にお風呂入ろっか』や『一緒に寝よっか』など冗談を言ってたりする時はまだ話ができた。

 少し頭のおかしな発言をするようになっていったがまだ意思疎通ができた。

 ある程度食事を摂り宴も酣となり、用を足したくなった俺はトイレに行ったんだ。

 戻ってくると、モリドール氏の周りにはいつの間にか空き缶が5,6本転がっていた。

 俺は目を疑った。

 ほんの数分の世界だ。

 俺は下戸だから全く飲まないが、前世の酒豪の同僚でもこのスピードで飲む奴は居なかった。

 それからはひどかった。

 突然泣き出したかと思ったら、大声でゲラゲラ笑い出して雄たけびを上げたり、突然怒り出して掴み掛かってきたりした。


 ここまで良くしてくれた人だ。

 悪い人ではないだろう。

 しかしあまりにも酒癖が悪すぎる。

 躊躇ったさ。

 俺も女性を殴る趣味はない。

 できれば穏便に済ませたい人間だ。

 だが、処した。軽く処した。

 余りにもあっけなく処した。

 俺の一撃で気を失ったモリドール氏を小屋とういうか、部屋まで運び毛布を掛けた。

 それが今である。

 もうすぐ朝日が昇る。

 朝チュンが木霊している。

「そういやベース建築できてねぇじゃん」

 すっかり忘れていた。

 はぁと、クソでか溜息を吐いて俺の部屋と思われる場所に置かれた荷物を外に運び出す。

「作るか……」

 完徹だ。最悪である。

 もう明日は入学式だ。

 俺は出席しないが登校は明後日からだ。

 少し修行もしときたかったが出来そうにないかもしれない。

「いや、まじでさっさと本編開始しろよ。本来入寮してるはずなのになぜ酔っ払いの世話をせにゃならんのか」

 入寮はしときたかった。

 寮は複数あるが色々なキャラが居る。会いたかった。

 友達になれる存在も居たかもしれない。

 まぁ設定でおおよそ知ってはいるが。

 残念ながら入寮はできない。

 俺はこの酔いどれと一蓮托生という悲しい結末を迎えるかもしれない。

「くっそ。貴重な俺の知らない幕間イベが回収できないのか」

 入寮して起こる幕間イベントは複数あると思われる。

 それを拝めないのかと思うと歯がゆかった。

 俺は気を取り直すしかなかった。

「とりあえず、これは何とかしないとな」

 俺はダースで買われたビールを全て隠す事にした。

 俺にはまだ食える飲めるものを捨てる事はできなかった。貧乏性であるなとは思った。

 社会人にとっての息抜きを奪うなんて事は俺にはできなかったとも言える。

 酒癖が悪くなるタイミングはある程度わかった。

 とりあえず、1日1本という約束をしよう。

 俺がこのビール達を管理すればいい。

「いや、何様だって話ではあるな」

 自分でも何をやってるのかよくわからなかった。

「なぜ俺はこんな事をしてるのだろう」

 そう呟かずにはいられなかった。



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