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攻略戦⑦ 天内家とかいう魔窟


/システリッサ視点/


「なによ。あれ!」

 南朋は飛んで来る瓦礫を防ぎながら声を上げる。


 彼女は私の防衛に徹してくれていた。イノリもまた、被害が最小に済むようにボルカーが動き回る度に放たれる衝撃波を魔盾で抑え込む。


 風音と黒い影に加勢する魔術師や騎士が増えてきた。

 彼らの殆どはボルカーから放たれる『威圧(スキル)』でまともに動けないが、スキルの影響下が最小に留まる遠距離から魔術を行使する。


 魔人の背中に火炎や水流や氷雪がぶつかる。

 しかし―――それが果たして効いているのかはわからなかった。


 

 私はそんな光景を横目に、風音に最大限の加護を与えバックアップを続ける。



 風音の身体を包み込むように強固な結界の防衛を張り巡らせ、彼に魔力のパスを繋ぎ魔力を貸与し続ける。精密な作業の連続で額に汗が滲む。


「シス大丈夫?」


 イノリが心配そうに声を掛けてきた。


「私は大した事はありません」


 本当に大変なのは、前線で戦っている風音だ。私は後方支援に過ぎない。



 その戦いは――まさに人間が手を出していいものではなかった。

 神域の戦闘。

 一歩でも戦場に踏み込めば、紛れもない死が待っている。


 


 風音・黒い影・魔人の3者による人知を超えた戦いが繰り広げられていた。




 私の加護で絶えず強化され続ける風音。

 彼が聖剣最大の秘術。

 『星の息吹』が唱えられると白き閃光が放たれる。


 巨躯の魔人の腹部に白い閃光が直撃すると、町中に響き渡るかのような断末魔が上げられる。

 

 すかさず、痛みに耐えかねた魔人の反撃が飛んで来る。


 反撃の猛攻が飛んで来る―――黒い影が魔人の攻防を上回る猛威で相殺し押し返した。まるでどのように魔人の攻撃を無力化させれば有効かわかっているかのようであった。

 


 風音は間違いなく世界屈指の実力を誇る。

 山肌すらも削り取る聖剣最大の火力『星の息吹』を会得している。加えて、眼で追う事すら困難な闘いの渦に身を投じても、戦況を分析しながら的確にボルカーに致命傷を与え続けていた。

 


 では、それと肩を並べるアレは何だ?



 ボルカーが恐るべき怪力で投げ飛ばした家屋の破片が―――


 

 両断――された。

 

 

 すかさずボルカーは周囲の鉄骨を豪快に引き千切ると、それを両手で持ち、辺り一帯を薙ぎ払う。瓦礫と粉塵を巻き込みながら、周囲に絶望を描こうとするが……



 木っ端みじんに鉄骨が切り裂かれた。

 


 ボルカーの放つあらゆる暴力。

 それらを全て切り裂く存在が立ちふさがっているのだ。

 


 隣の南朋は周囲に飛んで来る破片を弾きながら。

「ホントに……化け物しか居ない!!!」

 目を疑いながら声を漏らす。

 

「ですね……」


 ボルカーは足下の岩盤を引き剥がす。

 大地が震え、地形が変形すると。

 巨大な岩塊(がんかい)を投げ飛ばそうとする―――

 魔人が放つ規格外の暴力が……



 切り裂かれた。


 

 衝撃波を纏いながら、風音に迫るボルカーが放つ拳。

 拳から火花が舞い散る。

 不可視の斬撃の数々が軌道を変えた。

 

 魔人の攻撃は斬撃を以って無効化されていく。


 殴打も、蹴りも、投擲も、衝撃波すらも。


 切り刻まれる―――

 立ち塞がる全てを絶え間なく切断し続ける。

 甚大な被害を引き起こす斬撃の雨が魔人の暴力を相殺していく。


 まるで意志持つ災厄が風音と共闘しているかのようだ。


 黒い影は恐ろしい速さで動きながら、追従するようにノーモーションで斬撃を生み出している。

 10や20ではない。100、200、300――

 それ以上の斬撃の数々。



 (まばた)きをした後には、斬撃の痕跡が周囲に刻まれているのだ。



 次々と世界に刻まれる不可視の斬撃。

 世界を絶え間なく切り裂き続ける虐殺の斬撃。


 黒い影の両手の武器から放たれる斬撃だけでは説明できない。


 ふと、南朋が口を開いた。

「……ヤバいんじゃないの……」


「そう……ですね」

 私は息を呑みみながら同調した。

 

 あの黒い騎士は魔人と同等か、それ以上に危険な存在なんじゃないだろうか? あんなものが人類に敵対すれば、国家など容易く転覆出来てしまう。そんな予感すらあった。 

 


 魔人の身体は硬く、黒い影から放たれる斬撃は致命傷を与えてはいない。皮膚からは火花が散るに留まっている。


 どちらかと言えば、魔を切り裂く事に特化した風音と聖剣が放つ攻撃のみ有効打のようである。


 

 ボルカーの凶悪な目線の奥には焦りが垣間見える。着実にダメージを蓄積させる風音と聖剣にも注意を払っている。しかし最も厄介だと認識する黒い影にのみ眼の焦点を当てている。魔人は邪魔な黒い騎士に攻撃を集中させているのだ。


「はっ!?」

 と、南朋が突然息を呑んだ。


「どうしたの?」


「笑っている……」


「え?」


「あの黒ローブ……笑っているのよ。楽しんでいる……このありえない戦いを」


「……そうですか」

 風音に魔力を注ぎながら背中に寒気が走った。


 ・

 ・

 ・


/3人称視点/


 ―― 礼拝堂 ――


 身の丈ほどの大きな盾が地面に突き刺さる。


 大盾の主はメイド。


 彼女は深々とお辞儀をする。

 所々、拙い動作であるが優雅な所作であった。


(わたくし)の勝利でよろしいですか?」

 

 フランケン18号:『天内フラン』その人であった。

 

 天内によって生み出された人造人間フランは彼の合理的な性格を色濃く受け継ぎ、魔物の非情さを継承している。


 彼女は天内と同じく、こと殺し合いにおいて最も容赦のない性質を持つ。

 

 人ならざる硬度。

 驚異的な再生力。

 天性の戦闘センス。


 それらを誇る彼女は全くの無傷。

 刃物と弾丸では彼女の肌に傷を付ける事は出来ず。

 骨は鋼鉄のように固い。

 炎や紫電といった特殊な攻撃は大盾により防がれた。



 仮に、攻撃が通っても自動(オート)で治癒される。 

 


 フランによってボルカー配下の中でも屈指の実力者であるアレクシオンは成す(すべ)なく圧倒された。

 

 彼が操った人形兵の残骸が至る所に転がる。

 

 アレクシオンは虫の息になりながら無数の骸骨で出来た十字架に(はりつけ)にされていた。

 

 両手両足、急所を外した腹部には、杭の代わりに鋭く研がれた大腿骨(だいたいこつ)が突き刺さる。


「邪悪なる……者め……」

 串刺しにされたアレクシオンは吐血しながら恨み言を吐く。


「よくご存じで。人類の御仁」


 彼女は冷笑するようにを見上げ、値踏みするように足元に転がるスケルトンの残骸を拾いあげる。

 

 最も鋭く尖る刃物ような骨を選び出すと。

「これがよろしいですかね?」

 

 手元で軽く弄んだ後――


 ゆっくりと腹部の肉を裂く。

 痛みがしっかりと伝わるように、じっくりと肉を裂く。


「あっが!?」

 呻き声を上げるアレクシオン。


 フランは何の躊躇いもなく(はりつけ)にされたアレクシオンの腹部にチクチクと鋭利な骨を突き刺し始める。


 絶叫が木霊した―――


 何度も何度も、チクチクと刺す。

 まち針を鉢山を刺すように。


 生かさず殺さず。

 決して致命傷にはならぬ小さな穴を開けていく。


「あああああああああっ!!!」


「おやおや。よく鳴くではありませんか」


「き、きぃ……貴様。何が目的だ。このような拷問などして」


「拷問? はて」

 

 彼女は不思議そうな顔をした。

 何を言われているのか心底理解出来ない顔であった。


「……ッ!?」

 アレクシオンの喉に言葉が詰まる。

 

「拷問など酷い事、この私がする訳ないじゃないですか。これは『調理』ですよ」

 彼女は微笑を浮かべる。


 そして―――再び。

 全身をチクチクと刺し始める。


「ぐっが!?」


「ご安心をご老人。私は一番優しいので、貴方を決して殺したりはしませんよ。ほら」

 

 フランは穴を開けたアレクシオンの腹部を治療する。

 徐々に傷は塞がると血が止まった。


「何を……」


「こうやると何度でも……」

 と、フランはチクチクではなく、グサグサとアレクシオンの腹部の肉をそぎ落とし始める。


「がっ!?」


 生ハムの原木の肉を削ぎ落すように。


 刺して、(えぐ)って、肉を削いでは、治療を施す。

 

 何度も何度も再びそれがループされる。


 調理でもするかのようにフランは微笑を浮かべながら何度も切り刻む。


 フランの(げん)通り、アレクシオンは殺されない。

 彼女によって死ぬ事を許されていない。

 何より本心でフランは男を殺す気などなかった。


「さて……そろそろでしょうかね?」


 フランは待っていた。

 死霊術の使い手であると同時に治療のスペシャリストである彼女は待っていたのだ。


 ――― 漆黒を。


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