攻略戦② 演出家
ボルカーとの戦いは、俺を追い込んでいた。
すでに守りに徹するので精一杯だ。
宮殿を離れ、戦場は首都の中心部へと移っていた。
空中を舞うのは、崩れた建物の破片。
その向こうには、まるでおもちゃのように『建造物』だったモノを持ち上げる魔人:ボルカーの巨体があった。
「知ってたけど……無茶苦茶だな」
彼の力はまさに“パワーがすべて”を体現している。
石の塊が地面に激突し、轟音とともに大地が震える。
車両は彼の蹴りの一撃で宙を舞い、建物の破片は巨大な投石機のように飛び交う。地面さえもその腕で剥ぎ取られ、一歩踏み込むだけでクレーターができる。
「現実だとこんなにヤバいのか」と実感させられる。
ボルカーが本気を出せば、ビルすらも軽々と持ち上げるだろう。
まるでマップ兵器。
街が次々と廃墟になっていく。
この光景を見ながら、住民を事前に避難させていなければ、どれだけの犠牲が出ていたか考える。
ボルカーの猛攻を避け、俺は素早くその死角に回り込む。しかし、その巨体は容赦なく鋭い尾を伸ばし、建物を根元から切り裂いていく。
崩れ落ちる瓦礫の音の中、ボルカーが低くつぶやく。
「聖剣使いを待っているのか?」
「ご名答」
教会の尖塔を両手で抱えるようにしながら、ボルカーは冷たい眼差しを俺に向けた。
無言でやり投げのようにそれを投げ飛ばす。
「チッ!」
俺はそれを避けるが、尖塔は家屋に突き刺さり、さらなる崩壊を引き起こした。
俺は防御態勢を整えながら静かに口を開く。
「勇者ってのは、大義名分がなければ動かない。いや、正確には動けない」
ボルカーは一瞬押し黙った。
彼もすでに、この後に何が起こるか予期しているのだろう。
「そう、『正義』には縛りがある。納得感が絶対に必要なんだ」
彼は不機嫌そうに低く言葉を漏らす。
「まるで外側から見ているような物言いだな!」
「ああ! 俺はお前より……遥か高みからこの世界を見ている!」
俺は火の手が上がる街の一角を見やり、ボルカーの返答に答えるように叫んだ。
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プライマの街は業火に包まれ、帝国の騎士団は避難誘導に追われている。まさに動乱の予兆だ。この混乱は好機だ。ガリアの宰相が魔人であることは一部に知られているが、アレは国家の中枢にまで入り込み、直接手を出すのは危険。だが、今この混乱を利用すれば……
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そんな風に、風音が考えるように俺は誘導していた。
善側は混乱が起こらない限り動けない。
悪事が露見し、状況が悪化しなければ行動できないのが、ヒーローの限界。
俺はファントムとして彼らの前に立ち、徐々にその役割を刷り込んだ。俺が悪役であると納得させ、物語の歯車が回り始める。
辻褄と動機を意図的に操作する演出。
主人公補正に縛られる彼らが動き出すための理由を、俺は初めから作り出してきたのだから。
「俺は善人じゃない! 非道なことだって平気でやる! だからこそ、俺は常に一手先を行ける!」
エクストラバレットをボルカーに向けて撃ち込む。
そう、これは初めから俺が仕組んだ『マッチポンプ』だ。街を破壊し、混乱を引き起こし、宮殿を破壊する国家犯罪を犯すことで、動乱の引き金を引く。
さもなければ、主人公は動かない。
人々が追い詰められなければ、決して立ち上がることはない。
それがヒーローの宿命である。
「だからこそ、この状況を作り出した!」
街を破壊するボルカーと黒い影の俺。
その周囲には―――
ガリア兵や滞在していた魔術師、騎士たちが集まっていた。
その中、後方にはシステリッサの姿がある。
「さて、ステップ3は完了だ。間もなく、お前を倒す者が来る」
「ふむ…」
ボルカーは周囲を見回す。
ガリア兵たちは街を破壊する龍人形態のボルカーに警戒し、慌ただしく動き出しているのだ。
「言っておくが、お前の配下は来ない」
ガリアの指揮系統を担っているお前の息が掛かった配下は来ない。ボルカーが外野からこの場を治める事を封じている。
ボルカーの配下は、今頃俺の仲間が引き受けているはずだから。
魔人は冷静に俺を見据えると。
「そのようだな。貴様どこまで計算している?」
「お前が踊り狂って果てるまで全部」




