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攻略戦① 暴力の化身




 ――― 決行日未明 ―――



 俺は全身を黒い(きり)で覆う。


「さてと」


 双眼鏡で、魔人が巣食う宮殿を鋭く見据える。そこには何重にも張り巡らされた結界があり、視界を歪め、魔術も封じる強力な障壁が立ちはだかっている。しかし、俺の表情は変わらない。


「システリッサの結界に比べれば、大した事はないな」


 俺は冷笑を浮かべ、細剣を静かに抜いた。

 剣先に魔力を集中させ、淡い青い光が剣全体を包み込む。


 刀身を金の魔法で強化。

 風を纏わせ空気の揺らぎを作る。

 音魔法で振動させる。


 3つの魔法を混合。


 細剣は超音波カッターのように変貌する。

 

 静寂な街並みを俯瞰する。

「油断している……とは思わん」


 一瞬の静寂が訪れる。

 そして無線機を手に取り、影共に指示を下す。


「ターゲットには俺が先行して攻撃を仕掛ける。作戦通り、風音の誘導を任せるぞ」


「「「了解」」」


 複数の返答が合わさった。


「さて、エンディングは間近だ。行くか攻略戦……」

 

 俺はハイタカに強化させた12枚の武装を周囲に展開させる。

 それらは全て不可視の特別製。


 俺は意識を一点に集中させると、屋上から無音で飛び降りた。

 

 風の抵抗を受けず。

 

 

 俺の視界は瞬く間に高速で流れ――――



 標的が巣食う宮殿へと距離が縮まっていく。


 3キロ ―――

  2キロ ―――

   1キロ ―――


 周囲の景色が目まぐるしく変わり、人々の驚いた顔が一瞬だけ映り込む。だが、俺の視線はボルカーの背後に固定されている。


 彼の存在を捉えた瞬間、俺の集中は頂点に達した。


 結界を叩き割る破壊音が空気を裂く。

 

 俺は窓を突き破り、まるで雷鳴の如くボルカーに向けて叫ぶ。


「ゲームセットだ」


 驚愕の表情を浮かべるボルカーが一瞬だけ言葉を漏らす。


「……貴様」


 その言葉に応えることもなく。

 俺は脳天目掛けて細剣を振り下ろし斬りつけた。

 

 咄嗟に後ろに下がったボルカー。


 彼は反撃をしようと―――

 

「させるか!」


 周囲に展開された、不可視の刃が舞う。


「ぐっ!?」


 ボルカーの関節と言う関節を串刺しにする。

 全てに5属性の魔術を付与。さらにハイタカのエンチャントによる超強化が施されている。


 続けざまに武器弾幕をボルカーに向かって解き放つ。


「エクストラ……バレット」

 

 暗闇の中で星が煌めいたかのように、無数の刃が出現すると。

 絶え間ない弾丸が掃射され始める。

 

 10――粉塵が空間に舞い上がる。

 20――床と壁が激しく崩壊し始める。

 30――部屋は完全に瓦礫と化し、一瞬で無に帰す。

 40――床が崩れ、ボルカーが下へと落ちていく。

 50――だが容赦はしない。


 俺は更なる弾幕を雨の如く撃ち続けた。

 

 警笛が鳴り響く中。

 

 俺の攻撃は止まらない。

 

 70、90、100、200、300――

 

 数は増していく。

 弾道ミサイルのように威力は加速していく。


 宮殿が崩壊し始める。

 瓦礫が崩れる中。

 周囲などお構いなしに攻撃の手を緩めない。


 すべてを破壊し尽くす勢いで撃ち込み続ける。


「ここで終われ!」

 

 内心では、これで決着がつくことを願っている。

 だが同時に、ボルカーがこの程度で終わるはずがないという予感もあった。それでも、俺は一片の躊躇もなく、貫通する刃の嵐でボルカーを追い詰め続けた。

  

 ・

 ・

 ・


 ロウソクの火が揺らめきながら、徐々に宮殿の絨毯に燃え広がっていた。豪奢だった宮殿の一角は今や瓦礫の山に覆われ、崩壊寸前だ。


 カチャリ、と金属音が一瞬鳴り響いた。

「エクスプロージョンマインド……」


 暗闇から低い声が響き渡る。


 その声に反応するように―――


「少し邪魔だ」

 片手を上げると、不可視の12枚の羽翼が即座に反応する。


 声の主に向けて凶刃が放たれた。


 息を呑む声の主は。

「なん、」

 と何事かを言おうとして。

  

 声を遮るように、ミサイルのような刃の自動追撃が雪崩のように襲いかかり、瞬く間に掻き消した。


 警笛が鳴り続ける中。

 あらゆる場所で爆破が引き起こった。

 

 美しい宮殿に火が放たれたのだ。


 けたたましい程の轟音が鳴り響き続けると地鳴りがした。

 

 突然、寝込みを襲う。

 俺の十八番。

 ペンタゴンや首相官邸、ホワイトハウスを突然襲撃して、宣戦布告なしにミサイルを撃ち込み続ける。


『騎士道精神? なにそれ美味しいの?』である。

 

 やってる事は大犯罪者。

 それが俺である。

 初めから『よーいドン!』で勝負なんてしない。

 馬鹿みたいだから。


 音魔法で、周囲を索敵し直す。

 この空間での鼓動は俺ともう一つだけ。


「やはり、今ので削りきれてなかったか。さて、どうでる? 人間の形態では敗北必至だぞ?」


 個体、液体、粘体、気体、流体……どれでも変化するが。


 瓦礫の山から黒い(もや)が漏れ出し、その瞬間にボルカーが瞬時に再び人型の姿に戻る。黒い髪のオールバックを整え、顔には冷笑が浮かんでいた。


 ボルカーは崩れる天蓋を見ながら。

「随分大胆だな。帝国全土を敵に回す事になるぞ」

 

 フンッと鼻を鳴らし。

「お前とその周りだけ斬って帰るから気にするなよ」


「という事は私の正体、それと……いや野暮な事を問う所であった」

 

 頭のいいボルカーは全てを理解しているかのように言葉を中断した。


「ああ。知ってる全部。そして、これが最も効果的だとも」

 

「計画の妙すら感じられない……とはいうまい」


「へぇ」


「強襲を仕掛けてきたという事は、段取りが済んだという事かね?」

 

「ああ。お前らお得意の情報操作と煽動は既に水面下で済んでいる」


「そうか……だが奇襲は愚策だ。特にこの地ではな。大戦の火種を作るだけの結果に終わるだろう」


 ボルカーは奇襲を受ける事、それすらも織り込み済みであるかのようであった。


「ふ~ん」


「貴様がどこの誰であれ関係ない。この時をもって、戦争の火種を作った。この事実だけでいい。国民感情は戦争支持に向かう。そのように仕向ける。大戦の口実を作ってくれて感謝しよう」

 

「白々しい。その内、勝手にマッチポンプする気だった癖に」


「ほう」

 ボルカーは嫌らしく口角を吊り上げる。


「それに気にすんな。そうはならねぇよ。お前も、強欲なタカ派もすぐに全員斬り伏せる。不運な事故って事で処理させて貰うから。国家に仇成すテロリストだったっていう汚名付きでな」


 ハイタカにエンチャントを頼んだ分の武具が自動的に俺のスキルに格納されていく。


「貴様1人……という訳でもないか。いつから動いていた?」

 

「初めから」


「初めから……ほう。驚いた。それは、」

 と、ボルカーが口を開こうとした瞬間。


 会話の途中であった。

 俺は容赦なく。

 


 神速 ―― を以ってボルカーの背後に回る。



 ボルカーは反応出来ないのか。


「チッ!? (しつけ)のなっていない狂犬だ」

 

 大きく舌打ちした後。

 驚愕の眼を見開き悪態を吐く。



 首を刎ねた――― 



「そんな余裕ぶっこいてていいのかよ。俺は会話を楽しむ気はないんだぜ」


 刎ねられた首は黒い液体になると蒸発し、残った首から下の肉体も蒸発する。すると頭上に黒い(もや)が出来ていく。

 

 黒い不定形の『雲』になったボルカーは。


「帝国の増援も来ない……か」


「ああ。来ない。それどころじゃないはずだぜ」


 そう告げた瞬間に何度目かの爆破音が鳴り響いた。


 計画は二重に進行している。水面下で進めていた三つのステップは既に完了し、本日、決行日は六つのステップが同時に進行中だ。

 

「良い事教えてやるよ。間もなくお前を打ち倒すゲストが来るぞ」


「……興味深いな」

 

 ボルカーは静かに呟き、黒雲の中から姿を変える。

 隆起する筋肉と毒々しい緑と黒の肌。

 現れた巨体は、人型ながら、明らかに人間を超越していた。

  


 二足歩行の龍人。

 


 所々鱗で覆われた皮膚。

 棘の生えた鋭い尾。

 悪魔のような青白い顔。

 鋼のように堅固な拳と両足の爪は、いかなる防御も容易く貫く力を宿している。


『暴力』という単語を現実に描いたような存在。

 暴力の化身。虐殺の権化。

 常軌を逸した暴力の象徴。


 彼の睨みが周囲に恐ろしい圧力を掛ける。

 

 

 肩を鳴らすボルカーは鋭い牙を剥き。

「久々にこの形を取った」

 

 低く呟くその声には、途方もない力と狂気が宿っていた。


「いいね。最も強い形態だ」

 俺はニヤリと笑いながら細剣を構えた。


 ボルカーは他の魔人とは異なり搦め手はない、あるとすれば形態変化と唯一成長するボスという点のみ。


 コイツは単純で純粋な暴力のみしか介在しない。

 それ故に小細工が効かない。

  

 奴は先程の奇襲で相当削った。

 なぜなら既に最終形態。

 つまり、これ以上削られるとアイツも致命傷になるという事。

 

 ボルカーは、一瞬の静寂の後こちらを見た。



 尾を地面に叩きつけ――












 ―― 目の前から消えた ―――











 一瞬遅れて、拳が目の前にあった。


 空間が捻じ曲がるかのような威圧。 

 殺気の篭った右ストレート。

 俺の体感すらねじれるような圧迫感が襲ってくる。


 それは風圧を生み出し、周囲の瓦礫を巻き込みながら空打ちされる。


 行き場を失った力の渦は遥か後方の宮殿の城壁を発泡スチロールのように吹き飛ばした。


「ほう。今のを避けるか」


「俺の方が速いんだよ」


 俺はボルカーの一撃の合間に音波の斬撃を32発打ち込んでいた。

 そう。速さだけなら俺はコイツよりも数倍はある。


 その言葉を確認するようにボルカーは腹部に一瞬だけ目線を落とす。


「なるほどな……あながち嘘でもないか」


 32の神速斬(偽)は。

 ―――ボルカーの鱗を一枚削るに留まった。

 

「クッハ」


 ボルカーは歯を剥き出しに笑うと、大きな口を開き、頭蓋を噛み砕こうとする。その顎がゴムのように伸び、歯が俺の頭を狙う。

 

 ガチリと歯が噛み合う音が響いた。


「っぶね!?」

 

 俺は反射的に身をかわし、口が再び開いた瞬間。

 隙を突いて20本の魔力の宿った槍を一気に口の中に突き刺した。

 

「がっは!?」


 口が裂け、顎が外れたように頭が肥大化したボルカーは呻くと、一瞬怯む。大きく仰け反りながら反撃の上段蹴りと尾が飛んで来た。



 それは衝撃波を伴い、後方左右の柱を粉々に打ち砕く。



 冷や汗が出る―――

 


 とんでもねぇ威力だ。


 崩れ落ちるバロック調の宮殿。


「行くぞ」

 俺は空いた左手に槍斧(ハルバート)を出現させる。

 

「来い。名も無き人類」


 両手の2本の刃と羽のように周囲を旋回する12の刃。それらの切っ先が全身凶器で出来た肉体を持つ魔人に向く。

 

 両者によるただ単純な白兵戦が行われた。肉体を再生させながらボルカーは肉弾戦の攻撃を繰り出してくる。 



 繰り広げられる死闘。



 ボルカーの放つ一撃は人の脆い肉体に当たれば即終了。

 


 全てが致命傷になる。

 鋭い尻は金属をバターのように切断する。放たれるジャブは人間をトマトのように破裂させる。指先の爪の一振りは刀のような斬撃を生み、力の籠った蹴りは衝撃波を伴う。

 まるで、全てが殺戮の道具。



 気を抜く事など出来ない。

 


 彼の力が振るわれる度に、周囲の空間は暴力そのものに変わり、宮殿は次々に破壊されていく。


 

 ―――高速の世界で。 



「いいのか? 派手に暴れても」

 俺はボルカーに皮肉を投げかける。


「なに。この形態を私だとは思わんよ」

 不敵な笑みが返ってきた。


「ああ。そうかい」


 

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