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何年掛かっても。絶対に



 ――― 荒野のダンジョン内 ―――



 荒れた大地が広がっていた。枯れ果てた木々が無数に立ち並び、ところどころには毒の沼地が点在している。


 周囲には不気味な静けさが漂い、多くの魔物の渦がうねる。


 間もなくボルカー戦だ。

 

 本日は、ダンジョンでの調整三日目。

 

 それを終えた所であった。

 

 俺はフランを強化した。

 彼女のポテンシャルは凄まじい。 

 そんな風に感心をしていた。


「で? なんで今日も連いて来たんです?」


 俺は隣のお嬢様に質問を飛ばす。


(わたくし)も、決戦の日に魔人と戦うのだから当然ではありませんか?」


 マリアは長いまつ毛を揺らしながら平然とそう告げた。


「いやいや。マリアさんは俺を助けてくれるかもしれないユニーク保持者の探索をしてくれる、みたいな話ではなかったですか?」


「していますよ」


「え? そうなんですか」


 彼女は頷くと続ける。

「残念ながら(わたくし)一人の力ではどうにもなりませんでしたの」


「そうですよねぇ」


「なので! 我がアラゴン家の財力と権威、政界、経済界に圧力を掛けて総動員で探させていますわ。必ず見つけますもの」


「あ、はい。どうも、ありがとうございます」


 普通に感謝した。


「お気になさらないでください」


 彼女は以前と同じように、柔和な笑みを浮かべ接してくれるようになった。

 

 一体幾ら投じているのかは聞かないでおこう。

 俺はこの人に一生頭が上がらない可能性がある。

 なので、せめてもの礼儀として一生敬語で喋ろうと思う。


「し、しかしですね。これから命のやり取りをするんですよ。マリアさんも戦うってそんなのダメですよ」


「なぜです? 私は戦いたいのです。貴方と共に」


 彼女は覚悟の決まった目をしていた。


 ひゅー。クレイジー。


「死ぬかもしれないんですよ」


「死にません。そして、あなたも死にません」


「あ、はい。でも、殺す事だってあるんですよ……人を」


「仕方のない事です。命のやり取りをしてるんですもの。当然でしょう?」


「いやいや、ちょっと待ってください。ほら人殺しにもなるって嫌ではないですか?」


「忌避感がないと言えばウソになりますが、そもそも魔法学園に通っている者は、(みな)、いずれ(いくさ)に駆り立てられる事ぐらい理解していましてよ」


「そ、そうなんですか?」


「当たり前でしょう。(わたくし)だって祖国に戻れば、戦士として登録されますもの。なので気にしなくていいのです」


「えぇぇぇ」

 

 コイツ。礼儀正しいし。

 俺への好感度が高いから分かりづらいが。

 性格が強情なのだ。

 ゲームでもそうだったが。

 

 肝の据わった女。

 

 死ぬほど性格がキツイ設定だった。

 正直怖いのだ。苦手である。

 なんか色々と杞憂だったかもしれないわ。


「では。行きましょう。穂村さんが睨んでますわ」


「あの……」


「なんでしょう?」


 マリアが振り返る。


「なんでアイツらも……」

 

 小町も千秋もアホ面下げてダンジョンに居るのだ。

 昨日も一昨日も。そして今日も。


 マリアはスンとした顔で向き直る。


「天内さん」


「な、なんですか?」


「彼らにも頼るべきです」


「え、えぇ」


「私は約束を守って彼女達には、天内さんの『軌跡』も『思い』も言っていませんわ」


「そ、そのようですね」


「ですが。貴方はもう少し、彼らを信じてみてもいいのでは? と進言致します」


「でも、死ぬかもしれないし、人殺しをして欲しくは……」


「それは貴方が思い悩む事ではないのです。決断するのは本人なのです」


「いや、しかし」


「貴方の重荷を誰かに背負わせてもいいのです。私に託してくれたように」


 彼女は笑みを浮かべた。


「いや……俺は普通に過ごして欲しいと」


 彼女はうんざりしたように。

 それでいて諭すように。


「私は、貴方がようやく本音で語ってくれた気がして嬉しかったのです。それに貴方が行おうとしている事は後ろ暗い事ではないのでしょう?」


「お、おう」


「これが、単なる強奪や殺戮ならば、私も拒否します。決して貴方と共に歩もうなどと思わないでしょう。しかし違いますよね?」


「そうだけど……」


「ならばいいじゃないですか。私は貴方を信じている。貴方も私達を少しだけ信じてみてもいいのでは?」


「う~ん」


 彼女は大きなため息を吐いた。


「本当にお優しいのですね。(まった)く、本当に、つくづく呆れました。この期に及んで……」


「ハハハ」


 俺は空笑いした。


「でも……だからこそ、貴方の後ろに連いて来る方も多いのでしょうね。(わたくし)は貴方を好きになって良かった」


 彼女はもう包み隠す事なく好意を伝えてくるようになった。


「あ、はい。どうも」


「一つだけ残念なのは、貴方が(わたくし)の事を好きじゃないというのは不満ですね。なんとかなりませんか?」


「すみませんね。そういうのは考えられないなぁ」


 俺はもう死ぬ間際だし。

 それどころではない。

 正直あまり興味が無い。


「なので! 必ず貴方を振り向かせて見せます。何年掛かっても。絶対に」


「随分先の未来まで考えているんですね」


「ええ。貴方は生き残りますもの。当然です」


「そう……ですね」

 

 俺達は歩き出す。


 

 すると―――



 俺は目を疑った。


「どうしました?」


「先に行ってて下さい」


 マリアは不思議そうな顔をすると。

「わかりました」

 と、言って歩を進めていく。


 俺は気になったのだ。

 見た事のある物があったから。

 

 駆け寄ると、目の前には異様な光景が広がっていた。荒野の中にぽつんと佇むそれは、まるで異世界に迷い込んだようだ。

 

「ここはダンジョンの中のはずだ……」 


 辺りを見回す。荒野が広がり、空は真っ暗で星も見えない。

 立ち止まり、半分ほど砂に埋もれたそれを見て言葉を失った。


「馬鹿な……」

 

 忠犬ハチ公像。


 渋谷前に設置されていたはずの代物が、ボロボロになって目の前にあったのだ。


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