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ダンジョン④ ヒロインがヒロインする



 俺と小町は雷のドラゴン形態を取った魔物の四肢を切断する。鋭い刃が的確に入り、動きが止まった。


 一瞬のスキが出来る。


「今だ! 2人とも!」

 俺と小町は即座にその場を離れると。


「お任せを!」

 マリアはメイズを天に掲げる。


「わかった!」

 千秋の周囲に冷気が漂う。


 二つの異なる属性の魔術が発動された。

 どちらもお互いの魔術を阻害せぬように強力な熱と冷気の魔術が魔物に着弾する。

 

 マリアの炎熱。

 千秋の氷瀑。


 交互に繰り出される波状攻撃が逃げ場を無くすように何度も魔物に打ち込まれる。その光景は軍用ミサイルが次々と着弾するかのような威力であった。


 千秋の作り出した氷は、マリアの灼熱によって即座に蒸発し、信じられない熱波が押し寄せる。


「ここは私の出番ですね」

 フランはそんな風に呟くと。

「来なさい。我が(むくろ)なる下僕。冥骨(めいこつ)竜……滅骸竜(デストロイ・ドラグル)



 地面が隆起すると、巨大な骨の竜(スケルトンドラゴン)が墓場から蘇るように出現した。骨の竜(スケルトンドラゴン)は覆い被さるように壁になりパーティー全員を守る。



 熱波が押し寄せる――

 

 

 周囲の空気は一瞬で不安定になり、蜃気楼のように辺りの光景が歪み波打つ。膨張した空気と急激な温度変化により、局地的に気圧差が生じ暴風が巻き起こった。大地は干からび、まるで鉄板の上かと錯覚するように輻射熱(ふくしゃねつ)が立ち込める。


 

 何度目かの波状攻撃の後。



 ――― ゴォォォォォン ―――



 魔物が発する断末魔の叫びが轟くと、遂に討伐が完了する。

 

 ・

 ・

 ・


 何度も思案するが―――


 魔物・魔人。終末などの脅威度は大まかに4つ。

 下から順番に。


 脅威度1 作戦級:

 通常の魔術師や騎士の小隊程度と同等の戦力。

 

 脅威度2 戦術級:

 都市を壊滅させるレベル。

 

 脅威度3 戦略級:

 国家に甚大な被害を及ぼす。

 魔人クラスや上位の魔物が該当する。


 脅威度4 災害級:

 これは終末の騎士が該当する世界滅亡クラス。


 ただ魔人に関しては、優れた知能や組織力、固有能力、個々人の能力差や性格がある為、単純に戦略級の枠に入るか? というと必ずしもそうではない。


 さて、『戦略級』の魔物は国家に甚大な被害を及ぼしかねないという戦力指標の設定だが、今さっき倒した魔物もそうだ。


 この世界の人類では未踏のモンスターの一体だろう。


 というよりもだ。

 レベル40以下を麻痺(スタン)させるスキルは強力だ。


 これにより、通常の魔術師や騎士、民間人は成す(すべ)がない。そもそも戦闘に参加する事も逃げる事も出来なくなる。


 低位レベル保持者の足切りのような能力。

 

 このレベルを倒せるようになると十分にこの世界で強いと断言できるだろう。

 

 そもそも、この世界の民間人は基本的に魔術もスキルもアーツも自在に扱えない。レベル換算で1~5程度が平均。国家に属する優秀な魔術師や騎士ですら、メガシュヴァ基準で精々10~15相当のレベル換算だ。



 つまり、俺ら基準の雑魚の魔物ですら世界に解き放たれれば十分な脅威になる。



 付け加えるならば。

 現代の魔法学園の生徒は総じて異常者の集まりでもある。


 名も無き一般学生ですら地上では、ほぼ無双状態。


 特にマホロのメインキャラ勢は軍事的に恐ろしい戦力を保有している。国家の精鋭騎士よりも天と地ほどの差をもって圧倒的に優れている。まぁこの設定の下、風音や仲間達が世界の命運と相対(あいたい)するのだから当然と言えば当然だが。


 この世界にもミサイルや戦闘機があるが、たった1人の強者(つわもの)の魔術師相手では意味を成さない事が多い。


 ――――


 と、休憩を取りながら何度もそんな事を考えていた。



 先程の魔物を討伐した異常空間である荒れた大地が広がるダンジョン。



 辺りに目をやる。


 空間の天井は、外の世界と変わらぬ高い空。

 現在ダンジョン外の時刻は14時頃のはず。

 


 ――にも関わらず、夜空。

 


 星も月もないが、天には雲が流れている。

 辺りは暗いはずなのに、夜目(やめ)が効いたようになぜか視界ははっきりとしている、非常に表現のし(がた)い謎空間だ。


 周囲には煌々と焚火が灯されている。その傍には荒涼とした大地に似つかわしくない白いテーブルクロスが敷かれたテーブル席。


 香ばしい匂いが漂ってくる。

 ジュウッ、と肉や野菜の焼ける音が奏でられる。


 一本の枯れた木の傍で、フランが調理道具を取り出し、料理をしていた。小町はその姿を見て呆気に取られながらも、フランと会話をしている。


 以前は挑発的な態度を取っていたフラン。

 しかし、話してみると意外にも相性がいいようで、お互い時折笑顔が見えた。


 そんな光景を見ながら、ペットボトルの飲料水を喉に流し込んだ。



 一息()くと『はぁ……』と、大きくため息を()いた。



 離れた所に居るマリアがチラチラと俺の方を見ているのだ。視線を感じていたが、お互い微妙な距離感がある。あっちも話に来ないし、俺の方も行かない。


 だって……気まずいから。


「まだ喧嘩してるのかい?」

 見かねた千秋が俺に声を掛けてきた。


「喧嘩じゃないけどな」


「ふ~ん。まぁいいんだけどさ!」

 

 千秋は小動物のように俺の周りをクルクルと周る。


「ゾロゾロ連いてきやがって」


「それはこっちのセリフ。独断行動のしすぎ」


「いや、俺にも考えがあってだな」


 千秋は足を止め、俺の顔を覗き込んだ。

「前にも言ったよね」


「ん?」


「ボクらは仲間なんだよ」


「あ、ああ。ありがとな」


 千秋は満足そうに微笑むと。


(まった)く。偏屈で奇行ばかりするリーダーに、情緒のおかしなお嬢様。礼儀が正しい後輩。それと謎のメイドさん。そして……可愛いだけのボク」


「最後の奴の評価はおかしくないか? あと慇懃無礼な後輩と、ちょっぴり怖いお嬢様だな。それと変態メイドが正しい。間違いない」


「ボクの自己評価は正しいだろ? ほら。こんなに可愛いよ!」


 千秋は無邪気に笑顔を作る。


「うるせぇな。お前は三郎ラーメンが食べたくて(たま)らない可哀そうな頭脳の持ち主だろ?」


「あれは美味しい!」

 千秋は胸を張った。


「もういいから、あっち行けよ」

 俺は『しっし』と手払いする。


 千秋は微笑んだまま。

「少なくともさ。肩入れする訳じゃないけど……ボクは君の味方だよ。マリアや小町ちゃんには悪いけど……君の事を少しだけ贔屓(ひいき)してる。秘密だけどね」


「……」

 俺は押し黙った。


「正直。君がマリアに『特別な感情』を持ってないと聞いて安心したんだよね」


「何言ってんだコイツ?」


「まぁまぁ。だからさ。なんだっけ……」


「忘れてるじゃん」


 千秋は明朗快活な顔で。

「ボクが言いたいのは! 取り敢えず。マリアと仲直りしてきなよ! って事!」

 

 千秋は俺の背中を思い切り叩いた。



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