ダンジョン③ 遅すぎる5人での冒険
――まずい、なんで小町に見られてしまうんだ。というか……なんでお前ら居るの?
フランが項垂れて喜んでいる所を、我がパーティーメンバーの一人である小町に目撃された。そこからなし崩しに、無理やり、俺は嫌々ながらもパーティーメンバー全員をダンジョンに引き連れてくる羽目になった。
てか……勝手に連いてきたのだ。
―― ダンジョン深奥 ――
目の前には最上級の魔物が鎮座していた。
5人フルメンバーでの初の戦闘が始まった。
俺は音魔法で全員に指示を送るべく、チャネルを千秋、フラン、マリア、小町に合わせた。
目の前の敵は、黒い影のドラゴンだ。
全身が闇の瘴気に包まれ、赤い目が光を放っている。
「あれはドラゴンではない……モノマネ好きの魔物だ」
と、俺は1人呟いた。
――― ゴォォォォォォ ―――
ドラゴンの咆哮が空気を震わせ、耳を軋ませる。
凄まじい音圧が押し寄せ、まるで地面が裂けるような轟音が響いた。
スキル:恐慌。
魔物の威圧により、レベル40以下の術者は強制的に麻痺させられる。
周囲の状況を確認したが、全員が耐えていた。
「よし、誰も麻痺していないな」
「燃え尽きなさい!」
マリアが走りながらメイスを天高く掲げ、声を上げる。
固定砲台だった彼女が、今や移動砲台として進化している。
幾重もの炎の閃光が彼女の手元から天に昇り、ドラゴンの頭上に火球となって降り注ぐ。
―― 熱火球の豪雨 ――
大地に着弾するたび、熱風が押し寄せ。
俺は手で顔を覆った。
「やりましたか!?」
マリアの期待に満ちた声が響く。
「いや、まだだ」
―― ブゥォォォォォン ――
深く、太く響く声。
ドラゴンは威厳ある咆哮を上げ、土が焦げる音があちこちで鳴り響く。
ドラゴンの足元は溶け、赤く融解していたが、その姿は無傷だった。
「嘘でしょ……」
マリアの驚きの声が響く。
「いや、効いている。ここから形態変化だ」
俺の予想通り、ドラゴンは不定形の姿から粘体形態へと変わり、巨大なスライム状の怪物へと変貌した。
「な、なんなんですかアレ!? ただの魔物じゃない…」
小町が驚いて後退し、俺に問いかけた。
「クソ強い魔物だよ」
戦略級の魔物。
グリーンウッドで現れた巨人クラスの魔物だ。
あらゆる魔物に形態変化する怪物。
スライムが震え始めた瞬間。
「来るぞ! 小町、千秋、下がれ!」
酸性の粘液が濁流のように吐き出される。
「フラン!」
「かしこまりました!」
フランが素早く飛び出し、身の丈ほどもある盾で粘液を防ぐ。続けてスケルトンの群れを召喚し、粘液を土嚢のように堰き止めた。
「千秋、間髪入れずに凍らせろ!」
「う、うん!」
千秋が拳を大地に叩きつけ、無数の氷柱がスライムへ迫ると一瞬で氷漬けにする。
「小町! 次はフロストジャイアントに変化するぞ! 千秋みたいな攻撃をしてくる。抜刀で飛んで来る氷塊を切り刻んで、全員に被害が及ばないようにしろ!」
「了解しました!」
―― ギャアアアアァァァ ――
スライムは真っ白な巨人へと形態変化し、大地を踏み鳴らす。
巨人は、手のひらの上で氷塊を作り上げ。
それを雪崩のように投げつけてくる。
「参る! 抜刀12連!」
小町が魔眼を開眼させ、氷塊を瞬く間に切り刻んでいく。
「マリアさん!」
「お任せください!」
マリアは懐から黒曜石を取り出し、メイスで叩き飛ばす。
「炎隕!」
隕石が火炎を纏い、巨人の頭を打ち抜く。
頭部が瓦解していく。
―――― にも関わらず。
魔物は最適な形態変化を検索し、変化を繰り返す。
「な!? まだ倒せないんですの……」
マリアは再び驚愕すると、顔を青ざめさせる。
魔物は検索結果が出たのか。
実体を持たぬ不定形の雷のドラゴンに形態変化する。
肉体が紫電を纏い、何より身体が透けているのだ。
霊体系の魔物に変化した……
「こんなのどうやって!?」
千秋は困惑した。
「まだだ」
俺は細剣に地の魔法をエンチャントし、属性相性:五行相克を利用して討ち取る準備をする。
「千秋、小町を軽くできるか?」
「え!? 私ですか?」
小町は驚いた顔をした。
「うん、やってみる!」
千秋が重力魔法で小町を軽くし、彼女は素早く動き出す。
「す、凄い。身体が嘘みたいに軽い!」
小町は目を輝かせた。
「小町、飛んで来る紫電を斬れ。俺とお前であいつの足元を斬る」
「了解です!」
「フラン、あれは広範囲に攻撃してくる。全員を守れるか?」
「任せてください」
フランは微笑み。
「不死の門よ……開け!」
彼女の呪文に応じて。
地面からスケルトンたちが静かに姿を現す。
人数分用意されたスケルトンがそれぞれが俺たちの前に立ちはだかり、避雷針となって、雷の攻撃を受ける準備が整った。
「よし、いい感じだな」
俺は剣を握りしめ、ふと周りを見渡すと、皆が戦闘態勢に入り、俺の指示を待つことなく次の動きを理解しているようだ。
彼らの表情には決意と自信が見えたのだ。
俺は再度、全員に向かって声を張り上げる。
「アイツはもうかなり弱っている! 俺と小町で足を斬って、動きを一時的に封じる。その後、千秋とマリアさんで波状攻撃を仕掛けて完全に倒す! 全員でトドメを刺すぞ!」
全員が力強く頷いた。




