爆破の騎士
一方その頃
/3人称視点/
―― 首都の地下を走る地下道 ――
小爆発が連続して響き渡り、熱風が二人を襲う。
熱風と瓦礫が飛び散る。
翡翠と雲雀の2人は逃走していた。
「くっ……!」
翡翠は足を速める。
背後の爆風が身を震わせる。
爆破の余波が二人の逃げ道を次々と閉ざしていた。
雲雀は焦燥感を抱えながら。
「最大火力を使ってないようだわ。狙いは私たちを追い詰めることよ!」
「それだけでありません。この水道。魔術的な強化が施されている」
翡翠は壁を見上げる。
崩れそうで崩れない、計算された構造。
「簡単には崩れない。それに……あの爆発、ただの力任せじゃないじゃないでしょう。精密な制御がなされているんです」
革靴の足音が彼女たちの背後から響き渡る。
音が一つ一つ近づいてくるたびに、胸を締めつけるような圧迫感が増していく。
その瞬間、冷たい声が響く。
「タッチ・デトネーション」
ハインケルの不敵な笑みが思い浮かぶ。
彼の持つ片手剣が触れた物体。
それらは瞬時に爆破物に変わり。
周囲を爆破させる能力だ。
ハインケルの気配がすぐ背後に迫るのを感じ取った。
「まずい、追いつかれます!」
翡翠は焦る。
息を荒くしながらも次の退路を計算していた。
だが、その時、雲雀が静かに声をかける。
「出口まで、まだ時間がかかりそうね……準備するわ」
雲雀が懐から土器色の小瓶を取り出した。
その中には、土くれの小さな人形が収められている。
「これが最後の囮よ」
雲雀が地面に瓶を叩きつけると、粉々になった破片から土くれのゴーレムが巨大化し、そのままハインケルの方へ向かっていく。
カツカツというハインケルの足音が一瞬止まり。
「エクスプロージョン・マインド」
彼の声が響く。
周囲の空間が一瞬静まり、彼の意志によって全てが爆破対象に変わる。
次の瞬間。
―― 背後から爆発の連鎖に包まれた。
静寂に包まれると。
しばらくして、再び足音が開始される。
ゴーレムが瞬時に敗北した事を感じ取り。
「逃げ切れない……かも」
と、雲雀の声が震える。
翡翠は走りながら背後を振り返る。
彼女は『ふう……』と息を吐く。
絶望感が二人を覆う。
意志を持つ爆弾が迫っている。
「まだ道はあります……」
翡翠はなんとか言葉を振り絞り、全力で駆け出す。
しかし、背後から迫る音が、二人の心を締めつけた。
――― 爆破の熱風 ―――
「ッ!?」
遂に周囲に爆破が引き起こる。
背後の残響と熱波でしかなかった爆発が遂に追い付いた。
爆風に巻き込まれた2人は大きく仰け反ると、吹き飛ばされるが、態勢を整える。血が流れる額を拭い、再度駆け出した。
ハインケルの姿が目に視える後方にまで迫っていた。
彼女たちの逃走を許さない。
どこまで逃げても、その絶望的な力が迫っていたのだ。
「少しでも足止めできれば……」
翡翠は足を止め。
ライフルの銃口を背後に向ける。
――― バチンッ ―――
と銃口から放たれた重低音が響く。
音速の銃弾。
それはハインケルの額に穴を開ける。
しかし……
魔人化した青年は何でもないように。
笑みを浮かべた。
額に空いた穴は即座に再生されていく。
「化け物め」
翡翠は悪態を吐いた。
彼女の心に浮かぶのは、果たして逃げられるのかという不安が渦巻いた。




