『時間』との戦い
芝生の上で横たわり、星空を見上げながら考え事をしていた。
頭の中では計算がぐるぐる回っている。
予定している、ボルカーとの決戦まで残り6日。
ゲームクリアをやり切れる自信はある。
だが、決戦が目前に迫り。
焦りが出ていないと言えばウソであった。
「どうしよう。計算が合わないかも……」
再度頭の中で計算し直してみる。
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メガシュヴァのストーリーラインを『起承転結』で整理してみる。
起――(学園パート)
(4月、5月、6月、7月、8月)
入学して、ヒロインたちとの出会い。
冒険と修行、青春ラブコメが展開される。
承――(掘り下げ、キャラへの感情移入)
(9月、10月、11月)
青春や日常、お色気シーンが織り交ぜられ、日常が崩壊の序章に。陰謀に巻き込まれる。
転――(バトル展開)
(12月、1月、2月)
本格的なバトルが始まり、ルートボスマニアクスを倒す。勝利の余韻に浸るも、問題は解決していない。
結――(今までの仲間と総力戦)
(3月)
クリフハンガーとして終末の騎士が顕現し、最終戦が繰り広げられる。
エピローグ
総合成績の結果次第で、トゥルーエンド、ハッピーエンド、グッドエンド、バッドエンドが決まる。
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「これが基本的なストーリー構成か……」
ルートによっては、全てのマニアクスが出ない場合も、終末の騎士が顕現しない場合もある。つまり、俺は異常な速さでこのゲームを進めてきたことになる。
「もう11月なんだよなぁ……モリドールさんに挨拶しとけば良かったかなぁ~」
気づけば11月も中旬に差し掛かっていた。
時間が思ったよりも早く過ぎていく。
「もしかしたら、この地で俺は終わる可能性があるんだよなぁ」
手元には3枚の切り札がある。
・核撃の魔法陣
・オルバース
・究極俺
どれも使い切りのジョーカーだ。
「どうすっかなぁ~」
残りのボスは3騎しかいない。加えてダンジョンの破壊も控えている。もう終わりは間近だが、そこまで辿り着けるかどうかが問題だ。
「ボス戦よりも、深刻なのは時間との勝負だ」
指を折って数えてみる。
「11月、12月、1月、2月……残り3か月ちょっとか」
俺の予感とフランの診断結果、ブラックナイトの解析を総合すると、ここが限界だろう。
「俺は、これ以上先の未来に行くことは出来ない」
どっちみち、彼らを見送る側になる。
「う~む」
切り札の一つである『究極俺』を一回使用すれば、寿命が半分程度持っていかれるらしい。正確な予想はできないが、使用すれば残り1か月半ほどになるかもしれない。もしかしたら、それ以下かも。
「マジで死ぬまで5秒前って感じだ。だから使いどころなんだよなぁ~。早めに決着をつけないと。時間が足りない。どうすっかなぁ~」
思わず笑ってしまった。
計算が狂っている自分に呆れながら頭を抱える。
「最大HPを削りすぎて、微妙に計算が狂ってるな。過去に行って色々やったせいだ。俺が居なくなった後に最終戦になったら本末転倒だし、さっさと終わらせないとなぁ……でも……」
切り札は使いたくない。
しかし、彼らが危険な目に遭えば……
「『究極俺』は使いそうだしなぁ~」
星空を眺めながら悩む。
「もし、俺の知らない不確定要素が引き起これば、多分……負ける」
とはいえ。
「俺が負けてもいいように、風音を鍛えた。香乃も翡翠もいる。俺のパーティーメンバーも強くなった。フランも仲間になった。これから未来を歩む者たちにバトンを渡す準備はしてある」
少々詰めが甘い気もするが、そう信じよう。
後輩に仕事を引き継ぐ退職間近の先輩のような気分であった。
その時、ふと声を掛けられた。
「先輩! こんな所に!」
「え?」
視線の先には自称弟子1号、小町が立っていた。
「先輩に話があったんです」
何か言いたげな彼女に目を向ける。
「どうした? というか、よくわかったな」
「先輩は特別目立ちますから」
彼女の瞳が青白く光っている。
魔眼が開眼しているのか?
理由は分からないが。
「フィリスさんから聞きました! 明日帰らないそうじゃないですか!? 私、明日の帰りのチケット取っちゃいましたよ! もう! 教えて下さいよ!」
その問いには答えず、立ち上がると。
「小町……いいところに来たな」
「な、なんですか?」
「今、時間あるか?」
「はぁ?」
「最後の稽古だ」
「最後? 何言ってるんですか?」
「いいから、いいから」
そう言って、彼女を引き連れていく。
最終話までの大まかプロットは既に完成しています。




