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休息日⑥ ハーレム主人公(偽)



 親善試合の閉会式が荘厳な聖堂で行われていた。天井のステンドグラスが光を受け、鮮やかな模様が会場全体に映し出されている。


 俺は自慢のサングラスを掛け視線を悟られぬように周囲を見渡しながら眉をひそめた。

「全員は出席者してないか」

 

 マホロ組はほぼ勢揃いしているが、聖教会や士官学校の筆頭は不在だ。アドリアンとセリーナの姿も見えず、翡翠に確認させたところ、皇帝の宮殿に賓客として滞在しているらしい。


 式辞が終わると。

「行くか」

 と、1人呟いた。


 隣のフィリスは頷くと。

「どうやらこの後、催し物をするようだぞ」

 

「催し物ねぇ。フェアウェルパーティーみたいな?」


「そうらしい。4校集めたものだそうだ。自由参加だそうだが。行くのか?」


「行かねぇよ。俺には大事な用がある。お前らだけで楽しんで来い」


 フィリスは口元を緩めると。

「大事な用か。ふむ。では今夜行くのだな?」


「ん? 今夜?」


「私とのディナーだ。今夜行くから、催し物には行かぬのだろう?」


「あー。そうだったな。お前にはとびっきりのを頼んで良かったんだな」

 

 コイツは俺の大事な資産を蔑ろにした罪を償わせねばならない。


 フィリスは髪の毛を弄り出すと。

「そ、そうだ。奢りという約束だしな。今晩はその、まぁ……」

 と言い淀みながら。

「私も準備があるからな。何時に行く? 予約も必要ではないか?」


「待て。話を先に進めるな。つーか。フィリスは明日帰るんだっけ?」


 フィリスは一瞬戸惑いながら。

「え? ん? ああ。そうだな」


「じゃあ、帰った後でよくないか?」


「用とは私とのディナーではなかったのか……」

 と少し落ち込んだ様子のフィリス。

 だが、すぐに明るい声で続ける。

「では、帰国後行くか。いつ行くのだ? 明々後日ぐらいか?」


「わからん。時間が空いたらで。あと学食でいいぞ。学食一か月分の回数券を買ってくれ」


「流石に学食はちょっと……それに回数券って、2人で行かぬのか?」


「学食で2人で食うのは勿論問題ない。だから回数券を先払いで寄越せ」


「それでは味気がないのではないのか!? こう、なんだ。レストランで食事の方が良くないか?」


「お前は! 学食を! 馬鹿に! してるのか!?」


「い、いや。そんなつもりは」

 フィリスは慌てて否定する。


「学食のおばちゃん。吉田さんが心を込めて作る飯がマズイって言う気かよ!? ふざけんな!」


「だ、だから、そんな事は一言も」


「レストランの方が! 学食の1食250円に勝っていると聞こえるね! 世の中金じゃねーんだよ!」 


 フィリスは苦笑しながら。

「いや、ちょっと待て。お前の詭弁に流されそうになったが。お前はレストラン1食で済ますよりも、学食で回数を稼いだ方が得だから、とか考えてないか?」


「そんな訳あるか!」


「ホントかぁ?」


「フィリスはなんて心が貧しいんだ。そんな考えに及ぶなんて! 浅ましい奴だねぇ」


「な!?」 


「お袋の味に勝るもんなんてないんだよ、と俺は言いたいわけ。理解?」


「お前は! こっちが下手に出ていればいい事に! なんだか言い方がムカつくな!?」


「ご理解されましたか? フィリスお嬢様」

 深々と礼をした。


「慇懃無礼なのもムカつくな……」


「じゃあ回数券頼んだ。2か月分ね」


「しかも増えてる!?」


「増えてない増えてない」


「先程は1か月分って」


「つまらない事を覚えてるねぇ。奢るって言ったのはフィリスくんの方じゃないのかい?」


 フィリスは頬をピクピク動かすと。

「待て。わかった。では! 今日行こう! な!  回数券も買ってやるぞ! 私の懐の深さにビビったか天内!」


「じゃあ、回数券は3か月分ね」


「ぐぬぬ」


 交渉成立! ネゴシエーター俺が出てしまった。

 俺の資産の恨みは消えんぞ。


「あと今日は行けない!」

 絵を描きつつ、この街の構造を把握する必要があるからだ。

 

「そうだったな。では、帰国後だな! 今週中か? 今週には行こうではないか!」


「今週はここに居るから無理だよ」


「え? もしや天内はここに残る気か?」


「そうだ。しばらく残る予定なんだよね」


「なんだと!? なぜだ。一緒に帰るのではないのか!?」


「帰らんよ。俺はこの地で芸術を極めるのだ」


「な!? なんだ? 観光でもするのか!?」


「そう。俺はこの国の芸術をレポートにする。さらに作品を一つ完成させ芸術の単位を取るんだ」


 フィリスは驚き、少し考え込んだ後。

「じゃあ……私も残るか」


「なんでそうなるんだよ!」


「私も芸術の単位を取ろうかと思ったのだ。課外活動で作品を上げれば点数になるであろう?」


「マネするなよ」


「真似ではない。れっきとした勉学の一環だ」


「俺は高尚な芸術の取り組みなの」


「とか言いつつ。課外活動にかこつけて他の学業をおろそかにするつもりなんじゃないのか?」


「おろそかにするとは人聞きの悪い奴だ」


「なに?」


「何か勘違いしているようだが。最初に言っておく」


「なんだ?」


「俺はフィリスよりも成績上位者。しかもヘッジメイズではぶっちぎりのな」


「な!?」


「筆記も実技も。お前は2位。俺はお前よりダントツで大差を付けている! ドヤ!」

 俺はフィリスを軽く受け流しながら歩き出す。

「2位のフィリスさん。じゃあ~ね~。あと学食回数券4か月分よろ~」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どんどん増えていってないか!? 回数券の日数!?」


 ・

 ・

 ・

 

/小町視点/


 先輩とフィリスさんのやり取りを見ていた誰かが。

「お似合いの二人だね」

 と呟いたのが聞こえた。


 私は眩暈がしていた。


 アイツに声を掛けようと思ったが、さっさと式が終わると出て行ったのだ。私達パーティーメンバーに挨拶もせず。


「もう終わりだ。アレを少しでも放って置くと、いつの間にか女の子を連れてきてしまう……」

 

 世間に見つかってしまってから、特に酷い。

 アイツ。アホだから全然気づいていないが。


 かなりの女子人気を獲得しているのだ。


 今回さらに酷くなったと思う!


「最初に私が発見したのに!」

 私は悔しくて、知らずそんな言葉を出してしまった。


 冷静になれ私。

 先輩は彩羽先輩が好きなはず。

 もう私なんか……

 と、肩を落とすと。

 

「アワアワアワ」


 隣に居るマリア先輩の方から奇妙な声が。

 私は彼女の顔色を恐る恐る伺ってみる。

 

 マリア先輩は白眼を剥いて、口をアワアワさせていた。

 彼女は壊れたロボットのように。


「アワアワアワアワ……」


「き、気絶してる」


 彼女は不思議な呻き声を上げていた。


「あれだけ辛辣な事を言っていたのに……冷めた訳ではなかったんですね」


 続いて、彩羽先輩の顔を見てみる。


「え? なんで? なんで? どんどん増えるの? どうすればいいの? ボクはどうすればいいんだ?」

 

 彩羽先輩は目を白黒させていた。

 

 全く同感だ。

 私も目を白黒させていた。


 先輩は彩羽先輩が好きなはず。


 にも関わらず。 

 あんな美人と仲良さそうにしている。

  

 というか……


 先輩とフィリスさんの後ろに続々とヘッジメイズの女学生が付いて行く。その中には聖教会と士官学校の女生徒も数名混ざっていた。


 ヘッジメイズの代表という事もあるが。

 まるで大名行列のようであった。

 

「ええぇ……もうアイツ、まごう事無きハーレム主人公じゃん」


 恐ろしい倍率になっている事に愕然とした。



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