休息日⑤ QLS
豪華な5つ星ホテルのスイートルーム。
部屋は広々として、まるで王宮の一室のようだった。
高い天井にはシャンデリアが輝き、柔らかな光が室内を照らしている。壁には名画が飾られ、大理石の床にはふかふかの絨毯が敷かれている。
部屋の中央には重厚感のある木製のテーブルと高級感あふれる革張りのソファが配置され、全体的に落ち着いたが威厳ある雰囲気が漂っているのだ。
俺は翡翠、フラン、雲雀、ハイタカ、ミミズクを見渡すと。
雲雀は席に掛けていたり。
ミミズクはテーブルの上に座って居たり。
ハイタカは柱にもたれかかっていたりしていた。
スイートルームの中央に設置されたホワイトボードを叩くと。
「作戦会議を始める!」
「「「「おおぉ~」」」」
俺を除いた四人が感嘆の声を上げ、フランは後方で静かに微笑んでいた。
「翡翠!」
俺の隣に居たは彼女は頷き、すぐに話し始める。
「結論から申し上げます。7日後、この地に火を放ち、混乱を引き起こして魔を討伐します」
「おぉぉ」
「そうだ! 動乱を利用してボルカーを討つ」
ミミズクが手を挙げた。
「ちょっといいかにゃ?」
「どうぞ」
「混乱に乗じゅるにょりも、いちゅも通り暗殺をした方が良いにょでは?」
「ボルカーは強いのです。暗殺が上手くいく可能性は低い。ですよね?」
俺は頷く。
「ボルカーは強い。暗殺はリスクが高い。ボルカーは魔人の中でも最強クラスだ。俺や風音でも単騎で挑むのは危険だ」
翡翠は驚いた表情を見せると。
「そこまで言わせますか……そんなに強いのですか?」
「ああ。戦闘力という指標だけで言えば最強だろう。それに暗殺は先手を取れるが、失敗した時のリスクが大きすぎる」
「そんなに警戒する相手なの?」
雲雀が眉を寄せる。
「何をそこまで警戒しているのかわからないにゃ」
ミミズクは危機感のないように呟いていた。
俺はオホンと咳払いし。
「ただのボスキャラじゃない。初手で仕留めなければ、後々厄介なことになる」
ハイタカが腕を組んで尋ねる。
「というと?」
「ボルカーは『成長する』んだ」
「成長……ですか?」
翡翠が首を傾げた。
「そうだ。時間が経つにつれて強くなる。通常、ボスキャラは固定の強さだが、ボルカーは無限に強化される」
「無限に……?」
翡翠は考え込んだ。
ミミズクが不思議そうに言う。
「大げさじゃないかにゃ?」
「いや、本気で言ってる!」
「そ、そうかにゃ……」
「だから、最初の戦闘で倒すか、せめて2回目で決着をつけないと、最終手段を使わざるをえなくなる」
「最終手段とは?」
翡翠が当然の疑問を投げかけた。
「……」
俺は言うべきかどうか迷い黙ってしまった。
すると、フランがすかさず補足する。
「それはできないんですよね?」
「できない……ですか?」
翡翠は至極当然の疑問を口にした。
「そうだ。悪いが、訳あって出来ない。いいや。言い換えよう。出来れば使用したくない。次の手札が無くなる」
「理由を聞いてもいいですか?」
俺は一瞬考え込んだが、口を開こうと。
「……」
フランが助け船を出した。
「『今』は使えないんですよね?」
「今は、ですか?」
翡翠は怪訝な顔をした。
「ああ、今は出来ない。今はな!!!」
圧を込めて言い放った。
「は、はぁ……」
翡翠は納得しきれない様子だったが、一応頷いた。
「それで、天内さんがボルカーを警戒する理由をもう少し詳しく聞かせてくれない? 先程の説明だけじゃわからないわ」
雲雀が話を続けさせた。
「ああ、ボルカーのことだが……」
――――――
ボルカーは唯一、時間経過と共に強化される魔人。
ボスキャラでありながら唯一『成長する』のだ。
通称:クイックレベルシステムを持っている。
ロマサガシステム。
ロマサガを極端に難しくした原因。
それと同じ仕様が仕込まれているのだ。
ゲームの進行度や、挑戦回数、現時点でのタイムスタンプ。
それらを計算し『成長する』。
これにより、戦闘回数1回目よりも2回目、2回目よりも3回目の戦闘がどんどん難しくなる。累積挑戦回数のタイムスタンプを起点に時間が経つほどにボルカーは強くなる。
文字通り無限大に。
再戦すればするほどその難易度が跳ね上がり、いよいよ対処出来なくなる。
――――――
俺はそれを搔い摘んで説明した。
勿論出来るだけ彼らが理解しやすく噛み砕いて。
「つまり、攻略法は1つしかない。初戦で、しかもできるだけ早く倒すしかない。時間をかければかけるほど、対策が通じなくなる」
「そこまで脅威だなんて……」
翡翠は息を飲んだ。
「だから、動乱を起こし、手札を炙り出し。まず相手の手札から削りたい。相手の対抗策を先に削り切る。手札を減らした上で、ボルカーを倒すのは一番最後でなくてはいけない。これが一番効率がいい」
「だからこそ、我々に敵を探らせていたのですな」
ハイタカが理解したように頷く。
「そういう事! 翡翠、調査した情報を共有してくれ」
「かしこまりました」
翡翠はホワイトボードに数枚の顔写真を貼り付け始めた。
「マジか。こいつら……」
写真には、俺が見覚えのある顔がいくつかあったのだ。
サンバースト筆頭騎士:アドリアン・ウォルバク。
聖教会筆頭騎士:セリーナ・アリエル。
聖教会司祭:オルフェリオ・メルキオル。
聖教会枢機卿:アレクシオン・フォルティス。
ガリア騎士団長:ハインケル・アイゼンリッター。
「以上、これがボルカー直属の脅威となり得る者たちです」
「オレ、その司祭ってやつ、もう処したけど……」
雪山からの帰り道でぶちのめしたんだけど。
黒ローブ集団の長である。
「まさか、先手を打っていたとは!?」
翡翠が驚愕の声を上げる。
「え、あ、うん」
ハイタカは驚きの表情を見せ。
「ほう」
ミミズクも感心したように。
「流石ですにゃ」
「でも、もう少し慎重に動くべきだったんじゃない?」
雲雀がやや皮肉を込めて言った。
翡翠は興奮した様子で目を輝かせながら。
「何かお考えがあったんですよね?」
「まぁ、ね……とにかく、こいつらが敵でいいんだよな?」
「マスターはすでにご存じかと思いますが」
知らないねぇ。
とりあえず、アドリアンも居るし、セリーナも居るし。
どうなってんの?
「では、簡単に彼らの経歴を説明します」
翡翠はホワイトボードに貼った写真を指しながら、ボルカーの手下たちの詳細を語り始めた。




