休息日③ モブにこだわっていた理由
「と、いう手筈で行きます」
翡翠はおよそ7日後、深夜帯にテロを仕掛ける準備をしている旨を告げた。
「わかった。動乱の混乱に乗じて討つって事で」
「はい」
俺は翡翠から色々と状況や情報共有を行った所である。
「大丈夫か?」
俺は翡翠の顔を伺って質問した。
「なにがでしょう?」
「いや。気にしているのかもなって思って。結局、この街に動乱を起こす事になる」
翡翠は軽く頷くと。
「私達は正義では決してありません。それは重々理解しています」
「そっか」
俺は思案した ――――
色々と巻き込んでしまっているが、彼らがそれでいいのならばいいのだろう。
何度も思案する事がある。
基本的に主人公や英雄、英傑は事件が起きてから動く。
どうしても後手側だ。
先手に回る事は少ない。いや、正確には出来ない。
ヒロインが危機に陥ったり。
誰かが攫われたり。
魔物が暴れ出してから動く。
でないと、善悪の整合性が取れないという矛盾が発生する。
悪が成され成敗される。これは整合性が取れている。
しかし、悪が成される前に悪を成敗すれば。倫理的に、道徳的に納得感がない。それは悪に対する悪だからだ。
善の者、光の者は、悪になれない、影にもなれない。
彼らの行動は大きく制限されている。
それはある種の救済であり優しさだ。
起きていない殺人に警察は動かない。
引き起こってない動乱に勇者は動けない。
納得感のない殺人は引き起こせない。
彼らの『格』とも言える役割がそれを縛る。
警察が殺人鬼を排除するのに証拠を要求するのと同じ。殺人が起きてもいないのに動きようがない。
だが、事件は起きてしまった後では遅いのだ。
起きないように未然に防ぐのがいい。
殺人が起きてから行動するのではなく。
殺人が起きる前に行動を起こす。
俺はいつだってそうやってきた。俺がモブだから出来る事。『物語に不要』な俺にしか出来ない役目。
翡翠は。
「例え、我らが邪道であろうとも、悪とそしられようとも。我々は我々の為す道を進むしかありません」
「だったらいいよ。今回は死ぬなよ。ここは敵地だ」
「かしこまりました。それと……」
「ん?」
「仮に我らが欠けようともマスターは迷わず進んでください」
「わかってるよ。一瞬だけ手を合わせてやる」
翡翠は一度瞼を閉じ、口角を少し上げた。
「……ええ。それで十分です」
「親善試合のような遊びの戦いじゃない。本物の殺し合いだしな。覚悟はしてるよ。カッコウの時もそうだった。お前らが死んでも俺は先に行くぞ」
「ええ。そうして頂けるとありがたいです」
翡翠は笑みを含んでいた。
「悪いな」
「決してお気になさらず」
翡翠は言うべき事を言うと、その場から去った―――
カッコウが現状助かるかどうかは五分だ。
アイツの身体は冷凍保存している事になっている。
俺はまだアイツの死を観測していない。
だから死んでいるのか生きているのかはまだ確定していない。
過去に行き、秘密裏にフランに改造を施させた。
色々手を尽くしたが……
正直、助からないかもしれない。
最初の方は、パーティーメンバー、アイツらを戦闘に使う手札ぐらいの感覚だったが。最近は仲間を危険な目に遭わせるのに躊躇が出ている。それに、むやみに殺生に参加させる事が出来ないと思っている。メンタルが強くなければ今後の人生に影響が出るだろうから。
俺は夢魔界に行って、千秋が死にかけて確信した。
翡翠やカッコウ、香乃、風音達と比較してマリアや小町、千秋を特に贔屓をしている自分が居るのだ。あまり巻き込みたくないな、と。冷酷な俺らしくもなく人情が出始めている。
俺は最強も要らないし。栄誉も要らない。死も怖くはない。俺は既に答えを得たから。死を悟って、死期が迫り、間もなく役目を終えこの物語から退場する。そんなギリギリで最期にようやく俺なりに答えを得ることが出来た。
最後に辿り着いた人生の答え。
『最後まで日常を普通に過ごしたい』
だからモブに拘っていたのかもしれない。
俺がモブに拘っていた理由だろう。
「最後までモブらしく。日常を普通に過ごしたいだけなんだよなぁ」
日常の象徴である彼らと、今まで通り過ごしたいだけなのかもしれない。
俺は平等主義だと思っていたが。
「わがままだなぁ俺って。全く自分が嫌になるね」
俺は俺自身に愚痴をこぼした。




