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休息日② 戸惑いと困惑・擁護と共感・諦念と憤り


/3人称視点/


 ―― 小町・千秋・マリア ――


「はぁ~!? 先輩を呼んだんですか!?」

 小町は複雑な顔をした。


「う、うん。呼んだけど。ダメかな?」


「ダメです。あんな守銭奴を呼んじゃ」


「な、なんで頑なに拒むのさ。いつもは『どうせ金欠だし、先輩も呼んであげますか』って言ってるじゃん」


「う。い、いや……その。だって」

 もごもご口篭る小町。


「なんかおかしいんだよなぁ~」


 手の平をポンッと叩くと。

「……あ! そうだ。アイツが来たらきっとここの食材を横領します」


「いやいや、そんな訳……」


「きっと、ここにあった食材をどこかで転売し始めます。転売ヤーですよアイツ! だからダメです」


「そ……そんな事しないよ……傑くんは」


「ちょっと想像してるじゃないですか。やりそうだなって顔してるじゃないですか。アイツはそういう事をし出すんですよ。私は知ってます」


「否定はしきれないんだよなぁ」

 千秋が笑いを(こら)えながら言う。


「そうでしょう。いつの間にか食材が消えて、『急用を思い出した』っつってそこら辺の露店で高値で売り始めます」


「え~。ちょっとしそうではある……」


「そうに決まってます! マホロの恥さらしです! いや、もうヘッジメイズだけど! マホロとヘッジメイズに悪評を広めかねません」


「恥を晒しているのはいつもの事じゃん」


「そうですが……」


「それにさ。お腹空かせてるんじゃない?」


「えっと。あ~。まぁ~……それはその」


「傑くんは、いつも金欠で困ってるし。今回ぐらいいいんじゃない? ボクも小町ちゃんも助けて貰ったし」


「た、確かに。そう言えば、つい最近、学食の廃棄を食堂のおばちゃんに貰ってる姿を最近見ました」


「ほらぁ~。残飯漁ってる学生なんて見た事ないよ。たまにはいいもの食べさせてあげてもいいんじゃない?」


「で、でもですね! その時は流石に可哀そうになって私がお金出してお昼を奢ったんです。250円のA定食!」


「いつもそんな感じだな」


「いつも、いつも、いつも、いつも、いつも! 私がお金出してるんです! 『金ない金ない』って横で言ってるから。それにお弁当も作って……あげてるし」


「お弁当?」


「い、いやなんでも」


「しかし、相変わらずだな。将来は有望なはずなのに、微塵もそんな感じがしない。その前に大変な事になりそうだ」


「そうなんです。ヘッジメイズで一番なら十分なぐらいです。その癖に、将来ホームレスになりそうなんですよね」


「それも否定できないな。でも、しぶとそうではある」


「ゴキブリより生命力は高そうです。なんならジャングルでも生きて行けそうです」


「だね。そういや、つい先日はそんなにお金なさそうじゃなかったぁ~。一緒に焼肉行ったし」


「え? いつですか?」


「最近だけど」


「やっぱり……そうなんだ」

 小町は目の前がくらくらした。


「ボクとご飯行った時は普通だったよ。とはいえ、ビニール袋からお金出してたけど」


「それは普通じゃないです!」


「まぁ……ね」


「って言うか、アイツの財布はATMの横にある封筒じゃないんですか?」


「それは、お札がある時」


「そ、そうなんですか?」


「そうだよ。小銭しかない時はビニール袋になるんだ」


「えぇ~。もう引くわ。随分前は普通に財布持ってたじゃん。高そうなヤツ」


「アレはもう売ったって言ってたよ。『金を入れる財布に高い金を懸ける意味がわからなくなった。だったら裸で持ってた方がいい。時代はエコだ! サスティナビリティだ!』だってさ」


「また屁理屈を」

 小町は肩をすくめた。


 と、愚痴を言ってると。

 

 それまで黙っていたマリアが、会話の輪に入って来た。

「何の話ですか?」


「彩羽先輩が天内先輩、アイツを呼んだって話です」


「……それは本当ですか?」

 マリアは鋭い目になった。


 千秋は少したじろぐと。

「な、なんだよ。別にいいじゃん」


「……彼はきっと来ませんわ」


「なんでわかるのさ」


「あの人は薄情でとても寂しい人です。1人が好きなのです。冷酷な個人主義です」


「寂しい人……ですか?」

 小町は意外な言葉に疑問符を顔に浮かべた。


「あの方はずっと1人で居ればいいのです。寂しく1人で好きなようになさればいいのです。自己中心的で自分の事しか考えていません。人の心がわからない可哀そうな人です。寂しく1人で余生を過ごされますよ」

 

 マリアにしては辛辣な評価で小町は唖然とした。


 それを聞いた千秋はムッとする。

「冗談でも、なんでそんな事言うの? ちょっと酷くないかな」


「いいえ。酷くはありません」


「少し言い過ぎじゃない?」


「どうだか。あの人は、人間性が破綻していますわ」


 千秋の眼が鋭くなる。

「彼は変わっているのは認めよう。馬鹿で、軽薄で、お金にも汚い。確かに傍から見ればどうしようもない奴だ。でも、ちょっとだけ人との距離の詰め方が不器用なだけ。根は優しい奴だ」


「千秋さんは何もわかっていません。あの方は優しさを履き違えています。いいえ、優しさなんてありません。単なる自己中心的なだけですわ。私達の事なんてどうでもいいと思っています。きっと最後には誰も周りにいません。独りぼっちです。結局、本質的には誰かと関係を築けない、誰にも心を開く気のない人です」


「そんな事ないよ。それは言い過ぎだ」


「千秋さんは何も知らないからそんな風に言えるんです」


「君こそ彼の何を知っているのさ」


「知っていますもの」


「まるでわかった風に言うね」


「ええ。本人がおっしゃってました」



 ――― ピロリン ―――


  

 千秋の携帯の着信が鳴ると。

 返信が届いた。


 メッセージは天内からで『行かないよ』の一言が表示されていた。


 マリアはそのメッセージを覗き見ると。

「言ったでしょ? あの人はそんな感じなのです。結局お一人が好きなのです」


「ちょっと行ってくる!」

 千秋は手に持った皿をテーブルの上に置くと、その場から駆け出した。



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