討伐開始
投稿するか端折るか迷ってました。
/3人称視点/
神殿の石壁は、まるで呼吸するかのように、冷たく湿っていた。空気は重く、腐敗した肉のような甘い臭いが鼻をつく。
蝋燭の炎はほの暗く揺らめき、影は異形の生き物のように天井へ伸びていく。
女、男、子供、老若男女問わず、死体が無惨に横たわっていた。
腹を裂かれた女。
無理矢理、取り出された胎児。
性器を切り刻まれた男。
狂気に支配された異様な空間。
アドリアンは恍惚な笑みを浮かべていた。
「次なのである」
彼の一言で次なる実験が開始される。
静寂を切り裂くように――
「ああああああああああああああああ!」
耳障りな絶叫が神殿全体に響き渡った。
叫び声は被検体にされた若者から発せられたものだった。
だが、その声に抗う意志はもう残っていない。
彼の目は虚ろで、運命に屈し、ただ自分が何をされたのかも理解できないかのように見開かれている。
中央の祭壇に横たわる彼の身体は、皮膚がところどころ剥がされ、筋肉がむき出しになっていた。血の乾いた黒い跡がまだ湿った肉を覆い、体は細かく痙攣している。
まるで生きたまま腐り落ちるかのようだ。
切り取られた指先や耳たぶが、血の溜まりに浮かんでいる。
祭壇を囲む神官たちは、その異常な光景を一瞥することなく、冷たく光る儀式の道具を握り締めていた。彼らの瞳には、狂信的な光が宿り、唇は乾き切り、裂けて血を滲ませていた。
その口から吐き出される言葉は、狂気じみた低い声で、終始何かを唱え続けている。
「「「礎、礎、礎、礎、礎、礎、礎、礎、礎、礎」」」
信者たちの囁きが、徐々に狂乱へと変わっていく。
彼らの瞳にはもはや生命の輝きはなく、ただ空虚な光だけが残っている。
皮膚には自らの血で描いた不気味な紋様が浮かび上がっている。それは、彼らが神に捧げるため、自らの体を刻んだ痕跡だった。
――― 永遠の命を求めて ―――
その渇望に取り憑かれた彼らは、善悪の判断を超え、神の名のもとに行われる狂気を正当化している。祭壇の前に立つ司祭は、錆びつき、黒ずんだ儀式用の刃を静かに持ち上げ、震える手で若者の胸に向ける。彼の目は赤黒く血走り、口からは涎が垂れ落ちていたが、その動作は異常なほどに冷静だった。
「聖なる主よ……この者を汝の前に捧げます。我らが求めるは、不死の奇跡……」
生贄の若者は喉の奥でかすかなうめき声を漏らし、血まみれの体をわずかに揺らすが、抵抗の力は残っていない。
「神よ……受け入れ給え……」
司祭の刃が静かに降り始める。その瞬間、空気が張り詰め、神官たちの息が止まった。全員の目が、鮮血を浴びることを待ち望んでいた。
誰一人として、この儀式が狂気であるとは疑わない。
歪んだ信仰に飲み込まれた者たちの中で、正気を保つ者が1人。
ガリア騎士団長は不適に嗤う。
・
・
・
資産を回収した後であった。
俺は冬山を下山し、数名しか住んでいないような農村に差し掛かっていた。空気は冷たく、吹きすさぶ風が肌を刺すようだが、それ以上に目を引いたのは、眼下に広がる異様な光景だった。
黒いローブを纏った一団が、列を成して何やら叫んでいる。
「「「「礎、礎、礎、礎、礎、礎、礎、礎、礎、礎」」」」
奴らが背負う麻袋には、赤黒い液体が染み渡り、その陰惨な光景が周囲の寒々しい風景と異様な対比を成していた。
両手足を折られ、すすり泣く女。
拘束され、泣き叫ぶ男。
「わーお、悪党とモブ」
俺は悪党を見かけたら決めている事がある。
とりあえず悪党を見かけたらポリスメンに連絡?
ノンノン。ナンセンスだね。
法律や規則、他者に期待なんてしていない。
正義面してる奴が癒着や買収されている現場なんて山ほど見てきた。
古今東西の主人公っぽくスマートに対処する?
ノンノン。俺はマフィア式。
見かけたら、即刻殺すのだ。
禍根が残るやり方はしない。
それがファントムスタイル。
なぜなら俺は正義の主人公ではないからだ。
「さて、衣装は今手元にない。ということは。
皆殺しするしかないな。さてと……小銭稼ぎの時間だ」
俺は簡単に戦況を分析した。
黒ローブの数はざっと15人。
それ以外の気配は感じ取れない。
隊列の後ろには、豪奢なローブを着た男が一際目立っていた。
「あいつが頭目だな。魔術専門かねぇ?」
屈伸して準備を整える。
俺は霧魔法を発動し、身体を黒い靄で包んだ。
周囲の空気と同化するように、姿を隠す。
傍から見れば、影が蠢いているようにしか見えないだろう。
「それじゃあ……解体ショーの始まりだぜ!」
世界がゆっくりとスローモーションに変わり。
――― 加速する。
「ヒャッハーーーーー!!!」
音を置き去りにして。
モヒカン野郎のように甲高い叫び声を上げた。
一気に間合いを詰めると。
―――血飛沫が舞い上がった。
俺の斧槍が重みを持って振り下ろし黒ローブの一人を切り裂く。
――― 真っ二つ ―――
黒ローブの連中は一瞬、状況が理解できなかったようだ。彼らの顔には、驚愕と恐怖が浮かぶ。
「ヒャッハーーーーー!!!」
俺はわざとらしく奇声を発した。
「異教徒だ」
「異教徒、異教徒、異教徒、異教徒、異教徒!」
「殲滅せよ! 殲滅せよ!」
黒ローブの奴らが動揺しながら、応戦を始める。
魔術を発動しようとする者。
剣を抜く者。
銃を手にする者。
そのどれもが ――― 遅い。
俺は神速で動き、火の魔法を付与した細剣を取り出し。三人の口の中を目掛け、貫通するように串刺しにした。
頭部から炎に包まれて燃え盛る。
天を仰ぎ、両手を広げる支配者のポーズも添えて。
炎を背に叫ぶ。
「焼きムカデ人間の一丁上がりィィィィ!!!」
「「「ひぃぃぃ!?」」」
グロすぎる殺し方に周囲から悲鳴が上がる。
黒ローブの連中は混乱し始めた。
「何者か知らんが、死ぬが、」
隊列の後方。豪奢なローブを纏った男が冷静に声を上げ手をかざした。高位の魔術を発動しようとしている。
―――だが、遅い。
「お前は後だァァァァ!!!」
俺は一気に駆け抜け、豪奢なローブの男の両手を輪切りにして無力化した。
「は?」
ボトりと、地面に両腕が落ちると。
「両手の輪切りの一丁上がりィィィィ!!!」
俺は居酒屋の気のいい店長のように叫んだ。
「ああああああああああああああ」
対して豪奢なローブの男の叫び声が静寂に響き渡る。
苦痛に歪んだ顔を見せる。
彼は涙目になりながら呻いた。
「ぐっ…………狂人……め!」
俺はそんな声を無視し、残りの黒ローブに標的を定める。
「汚物は消毒だぁ」
恐慌に陥った黒ローブ達。
彼らは撤退を始めるが。
「逃がすかぁ。鏖殺だァ!!!」
鎌を片手に追いかけた。




