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鐘の音が響き渡る③ 一方その頃


 天内が剣をせっせと回収している、一方その頃の話であった。


/三人称視点/

 

 ―― 峰の聖堂 ――

 ―― ヘッジメイズ3人・マホロ ――


「行くっすよ!」

 

 宇佐田は素早く『分身』し、三体に分かれた。

 彼女の鉤爪(かぎづめ)には、目に見えぬ風が螺旋を描くように纏わりついている。


 彼女の役目は陽動。

 敵の視線を奪い、撹乱すること。

 だが、それだけではない。

 突撃し、かすめるように前線を駆け抜け、鋭利な一撃を加える。


 分身たちが四方八方から攻撃を繰り出し、凶撃がマリアの首を狙う。



 ―― 結界の防御 ――



 宇佐田の攻撃はことごとく無効化された。

 マリアの周囲に張り巡らされた結界が、全てを弾き返す。


「やっぱ突破が難しいっすね!」

 宇佐田は軽く舌打ちをする。


 システリッサの結界の頑丈さに不満を漏らした。


「宇佐田! 足止めさえ出来ればいい」

 ブルーウッドの矢がマリアを射抜くべく放たれる。



 ―― 結界の防御 ――



 しかし、疾風の如きエルフの矢も、無情にも結界に阻まれた。


「当たらぬか!」

 ブルーウッドの苛立ちの声。


 彼女の顔に焦りが滲む。

 矢が、全く結界を突破することができないのだ。


 マリアは2人に向かって。

「消し炭になりなさい!」


 ―― 業火 ――

 

 マリアのメイスから業火が噴き出し。

 宇佐田とブルーウッドを焼き尽くさんと襲いかかる。


「逃げろ! 逃げろ! 丸焼きになるぞ宇佐田!」

 ブルーウッドは即座に撤退の合図。


「うぉぉぉぉ! 死ぬ! マジで死ぬ!」

 宇佐田は必死に炎を避けながら叫ぶ。


 2人は攻撃を加えたら即撤退を繰り返す。


 狙いを定め、襲いかかり。

 反撃されれば即座に身を引く。

 彼らの動きは流れるように連携していた。

 どんなに攻撃が加わっても、シルバーウッドの迅速な回復が施され、戦況は振り出しに戻る。


 これが彼らの戦法だった。

 ヒットアンドウェイの足止め。


「ヘッジメイズ……ここまで成長していましたか」

 マリアは思わず感嘆の声を漏らす。


「侮っていました。恐ろしく強い」

 システリッサは冷静さを保ちながらも、その声に驚きを滲ませた。


 マリアはヘッジメイズの売店事情を思い浮かべ。

「天内さんの指南本のおかけでしょうね」


「ええぇ!? 天内さんがなぜです!?」

 

「彼らを育成しているのは天内さんだからです」


「ええぇ!?」


「とはいえ、正確には天内さん本人は指南していません。彼の指南本がヘッジメイズにて出版をされているのです」


「まさか、その本だけで……強くなった?」


「そうです。彼の叡智に触れるだけで、彼らは歴戦の強者(つわもの)になります」


「それは……なんとも……凄いですね」


「無駄口はいい! このまま、突っ切るぞ二人とも!」

 金槌を掲げるとジュードが叫ぶ。


「かしこまりました!」


「ッ!?」

 システリッサは一瞬足元がよろけたのだ。


「大丈夫ですか? システリッサさん!」

 

「お気遣いなく…」


 システリッサの額には、結界を維持するための集中の汗が光っていた。長時間の戦闘と、DJ爆音による不眠攻撃、さらに登山による疲労が彼女をじわじわと蝕んでいた。



 その時―――



 ヘッジメイズの三人が声を合わせて叫んだ。



「「「まだまだぁ行くぞぉ!」」」



 彼らは天内の掛け声を真似て、果敢に挑み続けた。

 まるで天内自身がその場にいるかのように。

 彼らは諦めることなく、再び攻撃を仕掛ける。


 ・

 ・

 ・


/三人称視点/


 ―― 麓 ―――


「マチィィィィィィィ!」


 『神の雫』により狂ったエリック。

 狂気に満ちた眼。獣の咆哮。彼の身体は赤黒く変色し、筋骨隆々とした怪物へと変貌していた。冬の山に彼の叫びが響き渡る。彼の自我は既になく、まるで悪夢の中を彷徨っているかのようだ。


 そんな彼に立ちはだかる二人がいた。風音と越智だ。雪崩に巻き込まれ、山の麓まで押し戻された彼らは、そこで狂化したエリックと遭遇したのだ。


 ――ドスンッ!


 エリックの脳天を貫くように、大砲のような一撃が炸裂する。越智エルが放った魔弾だった。


「やったか?」

 岩陰に身を隠しながら越智は呟いた。


 ――だが、再生する――


 エリックの吹き飛ばされた顔半分が瞬く間に修復される。


「馬鹿な!? なにをドーピングした!?」

 越智の驚愕の声が響く。


「ドーピングじゃありません! あれは……」

 風音は言い淀んだ。


「なんだ!?」


「いえ。なんでも!」 


「?」越智は疑問符を浮かべた。

 

「まだ! 助けてあげる方法はある!」


 確信を持った眼であった。

 彼は魔力を練り始める。


 2人の会話の最中。

 虚ろな眼をしたエリックは宝石を手に出現させると、咆哮するように叫んだ。


砂塵研磨サンドブラスト!」


 その瞬間、宝石に封じ込められていた『地』の魔術、砂塵研磨が発動された。


「避けて下さい!」

 風音の警告が飛ぶ。


「了解した!」

 越智は素早くその場を離れた。


 エリックの放った砂塵研磨は上級魔術。

 荒れ狂う砂塵が岩盤に激突すると、それはまるで高圧洗浄機のように岩を削り取り、瞬く間に溶かしていくかのようだった。


 宝石魔術から放たれる魔術は非常に多彩だ。

 紫電、火炎、濁流、氷結、そして砂塵。

 次々と殺傷能力の高い魔術が発動される。

 エリックの宝石魔術は、他者から魔術を『奪う』能力を持っているのだ。


「大地裂斬!」

 風音の斬撃が、エリックの胴体を切り裂いた。


「あああああああああああああああああ」


 咆哮と共に。

 エリックの身体が再生する。

 

 何度も再生する肉体に。


 風音は冷静な声音で。

「埒が明かないな……」


 聖剣に魔力を込める。


「ただ一刀で終わらせてあげる……星の息吹!」


 彼の声と共に、白く輝く閃光がエリックを捉え、聖なる光が彼を両断した。


 


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