鐘の音が響き渡る② ヘッジメイズモブ
―― 峰の聖堂 ――
/マリア視点/
豪雪を潜り抜けた先に現れたのは、半壊した峰の聖堂だった。冷たい風が聖堂の瓦礫を吹き飛ばし、雪を舞い上げる。
「追手が1人も居ませんでしたね」
システリッサさんが、周囲を警戒しながら問いかけた。
「ええ、そうですね」
私も同意するが、道中の静けさにはどこか不安を感じている。
「ふむ。やけに静かだ。罠の可能性もあるな」
金槌を持ったジュード先輩は、周囲を注意深く見回しながら言った。
金槌を持つと異能が制限され、
最も狙われやすくなる。
その任務を彼が引き受けた。
彼は今、最も無防備な状態にある。
攻撃に特化した私と、防御に特化したシステリッサさんで、なんとか彼を守りながらここまで来た。
ジュード先輩が聖堂の尖塔を指差す。
「あそこだろうな」
その先に見える鐘の姿に、私たちは頷いた。
「どうします?」
「ふむ……」
と、ジュード先輩は顎に手を置き考え込む。
鐘の下に辿り着くためには、この聖堂の内部を突っ切るか、外側から這って上るかの二択しかない。現状、足場を作れる魔術師がいない。
「先輩が、その糸で……」
システリッサさんが提案しようとしたが、途中で止めた。
「僕が糸を使い、先に鐘の下まで行ったとしても。それがルール違反になる可能性がある」
私は頷くと。
「そうですね。金槌を持ったプレイヤーを糸で引き上げる行為は、『抱える行為』としてNGかもしれません」
「ならば、大人しく中を行こう」
「ですね」
時間がない以上、その提案に3人は同意し、
罠があることは承知の上で聖堂の中へと歩き出した。
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/3人称視点/
峰の聖堂の中では、影たちが素早く動き回っていた。
鋭い耳を持つ者。
モフモフの耳を持つ者。
屈強な筋肉を持つ者。
彼女たちはヘッジメイズ交戦隊のメンバーだ。
天内に先に運搬された彼女たちは、聖堂に潜り込み、あっという間に制圧してしまった。聖教会や士官学校の各位筆頭が不在だった為、彼女たちの制圧は容易だった。
天内に脅された眼鏡をかけたサンバースト生の事務官は、モニターを見ながらマイクに向かって通達をヘッジメイズ生に送る。
「来ました」
ウサギ耳の少女がその言葉を聞き、鋭い爪を光らせながら。
「ラジャー。まとめてひき肉っす」
ヒーラーの少女は、手首のリストバンドを外し、
髪を逆立たせながら呟く。
「お師匠様……多分、間もなく来る。ご期待に応えないと」
「師範代が来る前に、我が弓矢で勝利の花を咲かせよう!」
美しい顔のエルフの美女が、筋肉隆々の体を見せながら宣言した。
獣人やエルフで構成された彼女たちは、森の中での狩りを思い出しながら、戦闘の準備を整えた。
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「お命頂戴! マリア殿!」
風魔法が付与された突風をまとった矢が、音もなく放たれる。
「!?」
マリアは目を見開いた。
「なんですと!?」
エルフの美女が驚きの声を上げた。
矢はマリアの頭上で突然止まったのだ。
―― 結界が発動していた ――
「聖なる守り。何人たりとも、この領域に立ち入ることはできません」
システリッサの自信に満ちた声が響く。
「ありがとうございます。ではこちらも……」
不敵な笑みを浮かべたマリア。
彼女はメイスに火を灯し、
懐から黒曜石を取り出した。
メイスを使って石をフルスイングする。
―― 炎弾 ――
火炎をまとった黒曜石が矢を放った者に向かって迫る。
「ヒッ!?」
エルフ美女が恐怖の声を上げる。
―― 轟音 ――
聖堂が大きく揺れ、天蓋に穴が開く。
隕石が落ちたかのような威力を誇る炎弾が放たれた。
パラパラと頭上から埃と煤が落ちてくる中で、ジュードの顔が引きつる。
「す、すごい威力だな」
「大したことではありません」
マリアは涼しい顔。
「そうか。心、強いよ……」
「やばいやばいやばいやばい!」
エルフ美女は、逃げるように聖堂の後ろへと退却した。
「では先に進みましょう」
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物陰に3人の影があった。
緊急作戦会議を開始したのだ。
「ど、どうする?」
ウサギ耳の少女が、他の二人に問いかける。
「どうするもなにも……ねぇ?」
エルフ美女はヒーラーの少女の顔を見た。
「守りも堅いし、攻撃力も半端ない。宇佐田、陽動を頼む」
ヒーラーの少女:シルバーウッドがウサギ耳の少女:宇佐田の肩を叩く。
宇佐田は苦笑しながら。
「そりゃあないぜ。一発退場だぞアレ」
「援護は私がする。この自慢の弓でな! 隙を見つけてマリア殿を落とすのが得策だろう」
エルフ美女は自信満々に言う。
ヒーラーの少女は悲しそうな顔をしながら。
「宇佐田の内臓が吹き飛んでも、頭を燃やされても、何とか治してみせる」
「出来んのか?」
「多分」
「多分じゃねーか!? いてぇんだぞ!」
「気にするな! 援護は私がする! この弓でな!」
「気にするわ!」
宇佐田のツッコみが炸裂した。
シルバーウッドは。
「宇佐田が仮に半分に切断されても、脳みそ爆散しても、生きながら燃やされても、絶対に忘れない。頑張れ。本当にいい友人だった……」
「過去形だと!?」
引きつった顔の宇佐田。
「私は宇佐田の無念を晴らす! 必ずこの弓矢で一矢報いて見せるぞ」
「ブルーウッド、お前、上手いこと言ってるつもりか?」
「そうかもな!」
宇佐田は「やれやれ」と肩をすくめ。
「しかしまぁ……お師匠様とフィリスさんが来るまでは」
「「「足止め」」」
3人は結束を固めた。
ヘッジメイズ交戦隊。
シルバーウッド :ヒーラーの少女。
ブルーウッド :マッチョなエルフ美女
宇佐田:ウサギ耳の少女
完全なるモブです。




