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そして鐘の音は鳴った⑩ 触手

※千秋の能力などは64話~67話の天内戦にて


/3人称視点/

 

  ―― 千秋・小町・アドリアン ――


 千秋は言葉を交わしながら魔力を練る。

 時間稼ぎであった。

 彼女は内心焦りを感じていた。


(DJ爆音のせいで眠いし凄く疲れてるのもあるけど……なんだ? 身体に力が入らない。何をしたコイツ?)

 

「そう言えば、泣き虫リリーは?」


 千秋はあえて意地悪そうにアドリアンにサンバースト筆頭魔術師リリー・デュポナの所在を問いかけた。


 アドリアンは淡々と。

「弱い兵は既に居ないのである」

 

 無感情な言葉。

 それを聞き、千秋は小さく眉をひそめた。


「……意外だな。彼女が脱落しているなんて」


「天内殿に敗北したようなのである」


 この言葉を聞いた瞬間、千秋と小町は眼を輝かせた。

「先輩!」


「傑くん」

 小町と千秋はよく知っている男の名が出て嬉々とした。


(まったく)く。エリック殿を篭絡(ろうらく)しろと厳命していたのに。道(なか)ばとは。同じ筆頭でありながら不甲斐ないのである。帰ったら教育(タイバツ)が必要なのである」


 その非情な言葉に、小町は驚愕する。

 手にした刀の(やいば)が冷たく光る。


「彩羽先輩……」


 小町は刀を構えたまま警戒を解かない。

 不安のあまり千秋の名を呼んでしまったのだ。


 千秋もまた、アドリアンの変化に気づき、眉をひそめる。


「なんか。変わったねアドリアン。偉くなったつもりかい?」


「そんな訳ないのである。自分は昔から強い兵以外要らない主義なのである。これはリリーの為なのである」


「弱い兵は要らない? 一体……何を言っているのですか」


 小町は心底ゾッとしたのだ。

 背筋に言いようのない冷たい不安と恐怖が押し寄せる。


 千秋は怪訝な顔をして。

「リリーのためだって?」


「そうである。戦場では強い兵が生き、弱い兵は死ぬ。弱者は淘汰されるのである。リリーはまだ使える駒なのである。見た目も悪くないのである。力量も及第点である。いかようにも使い道があるのである」


 無表情。無感動。冷酷な一言。

 言葉の意味の裏を察し、千秋と小町は思わず一歩後ずさる。


「彩羽先輩この人……」


「ヤバいね」


「相当……イッチャってますよ」


「うん」


「現実は残酷なのである。非常に嘆かわしいのである」

 

 アドリアンは恍惚な笑みを浮かべる。

 彼の眼は異常な光を放っていた。


「無駄話は、終わりである」 

 と、彼は腰に掛かる拳銃に手をかける。


「おっと。ボクには飛び道具は当たらないぜ」


 千秋の固有スキルは『飛び道具攻撃や放出魔術による攻撃が絶対に当たらない』というモノ。彼女自身それを知っているのだ。

 そして、アドリアンもまた同様に知っていた。


「解析は終わっていると言っているのである」


 ――― パンッ!


 ――― 乾いた発砲音 ―――

 

「無駄打ちかい?」

 弾丸は千秋の目の前で軌道を逸らし、足元に着弾する。


 















 ニチャァァァァァ。

















 



 

 ねっとりとした笑い。

 口角が異常に吊り上がり。

 歯茎を見せる独特な笑みを浮かべるアドリアン。


「トレンドは『生物兵器』なのである」

 

 実に楽しそうに宣言した。

 まるで遊びを楽しむ子供のように。

 

「「!?」」

 

 千秋と小町は目を疑い、戦慄した。

 足元の着弾点から、無数の触手が突如として生まれ出た。

 黒く光る触手は、生き物のように(うごめ)き始める。



 その光景を見て、アドリアンの顔に狂気の笑みが広がった。

  

 

 ・

 ・

 ・



 ―― 麓付近 ――



 山の峰から地鳴りがした。



「なんだ!?」

 フィリスは峰を見上げた。



 雲間の先に巨大に蠢くナニカの影。



 フィリスは峰の方を見て大規模戦闘が行われている予感がした。豪雪が降りしきる山の峰は見えづらいが、激しい音が頻繁にしていたのだ。


「天内。まだ行かないのか!?」


 彼女は少しだけ焦っていた。


 (いま)だ、天内陣営は麓に滞在していたからだ。


「まだまだぁ。まだ運搬が終わってない。今、行っても損失の方がデカい」


 天内は細剣を手入れしながらそう答えた。


「……そ、そうか。お前がそういうのであればそうなのだろう」

 

 フィリスは峰の方から聞こえる残響が気になって仕方なかった。


「気にしすぎなんだよ」

 

「しかし、峰の聖堂は遠いぞ」

 

 フィリスは天高くそびえる霊峰を仰いだ。


「俺なら断崖絶壁を2分以内に踏破出来る」


「信じていいんだな?」


「大丈夫。大丈夫」


「軽いなぁ~」

 肩の荷が下りたフィリスは肩をすくめる。


「とりあえず、明け方奇襲されたんだ。疲れている人も居るだろ?」

 天内は残りのヘッジメイズ生のメンバーを見る。

 

 今朝未明頃に、聖教会と士官学校生との戦闘が行われたのだ。


 彼の華麗なる剣技によって排除されたが。

 唯一、この三日間、野営のみで聖堂の拠点にて休息を取っていないヘッジメイズ生には疲労の顔が見え隠れしているのだ。


 天内は続ける。

「こっちは、ギリギリまで体力を温存しておく。あっちにはギリギリまで体力と魔力を消費させる。DJ爆音さんの功績もデカいだろうしな。ボディーブローがじわじわ効いてるはずだ」


 フィリスはそんな軽口を聞き、少しだけ笑った。

「そ。そうか。そうだな」


「とりあえず……飯でも食おうぜ」


「う、うむ。わかった。そうしよう」


 食事の準備が開始された。

 しばらくして。

 天内の提案を受け入れたフィリスは、彼に問いかけた。


「しかし、先ほどの剣技は見事としか言いようがないな」


「まぁ……ちょちょいのちょいって感じだ」

 

 天内は顔を引きつらせながら、内心思っていた。

 

(少々本気になったが。

 モブムーヴが出来ない。

 くっそストレスだぜ。この三日間。

 さっきは超高速(タキオン)を使わず。

 剣技のみで戦ったが……)


「ほう……やはり凄まじいなお前」

 彼女は微笑んだ。


「たまたまさ」


 フィリスは疑問を口にする。

「先ほど。もしや、と思うのだが、魔術を発動していなかったのではないか?」


「あーね」


(そう言えば。

 弱すぎる相手には魔術発動を最近忘れている。

 使う必要ないんだもん。仕方ねぇじゃん。

 それらしい言い訳を言っておくか……)


「魔術頼りじゃ、いずれ足元を(すく)われる」

 天内は真剣な顔でフィリスに告げた。


「ほう」


「魔術は強すぎるが故に、魔術師は肉弾戦を軽視している」


「確かにな」


「単純な白兵戦に、必ず救われる時が来る。だから筋トレを推奨している」


「私も鍛えているぞ」


 フィリスは腕まくりすると、小さな力こぶを見せた。


「いい心掛けだ」


「しかし……本当に」


「なんだよ?」


「お前ほどの男ならば、全員とまではいかないまでも、彼らでは相手にならないのではないか?」


 フィリスは峰を見上げると、そう質問した。


 天内は目を瞑ると。

「油断と慢心だな」


「す、すまない。そうだったな。お前は常に気を抜かぬタチだった」


「そう。常に自身が格下だと思って行動せねばならない」

 

 天内は鋭い眼を作る。


 そんな言葉とは裏腹に。

 天内は内心思っていた。

 彼の中で全ての戦力の解析を終えたからだ。


(まぁ実際、聖教会と士官学校なんて相手にならないよね。そこそこ。戦えそうだったエリックとリリーであれだったし)


「ん? どうした思い悩んだ顔をして」

 フィリスは天内に語り掛けていた 


 彼はそれを無視し腕を組み考える。


(フランの戦闘力スカウターを参考にするなら。残ってそうなメンツで腕が立ちそうなのは。聖教会筆頭騎士のセリーナ。厄介オタのアドリアン。この2人だけってとこか? 精々、俺の期待を裏切らないでくれよ)


 天内は鋭い目のまま。

「いいか。フィリス! 油断をするなよ」


「お、おう。いいぞぉ! 天内! 

 冷静でありながら謙虚! 

 美しい技量すら持ち合わせている!

 その上、頭も切れる! 

 いいぞぉ! お前は実に良い!!

 気に入った!! うむうむ!」

 

 フィリスは思わず笑いながら力強く彼の背を叩いた。


「友として今後もよろしくな! 天内!」


「お、おう。やっぱ……お前キャラ変わってない?」


「ハハハ!!! 気にするな!」



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