そして鐘の音は鳴った⑥ DJ爆音
/3人称視点/
―― 麓の聖堂 (二日目:晩) ――
マホロの拠点は明日の霊峰攻略に向けて休息していた。
交代で見張りを続け、床に着く者も多かった。
そんな中、突如として不協和音が轟いた。
『ずんずんちゃ♪ ずんずんちゃ♪
ずんずんちゃ♪ ずんずんちゃ♪』
1人ラップバトルが始まった。
それも騒音で。
『YO、 俺の名前は。アマチ!
お前らのプライド、今から粉砕!
俺はステルス、DJ爆音!
お前らの動き、全部お見通し。
エルフと獣人、自然と共に!
お前らの傲慢、ここで斬り伏せる!
ぜ!!! YO!』
延々繰り返される意味不明なラップ。
「あ――――! うるさい! うるさい! うるさい!」
千秋はベッドの上から飛び起きると、頭を掻きむしりながら聖堂の外へ駆け出して行った。
直後。轟音が鳴り響く。
聖堂が大きく揺れる。
鉄拳が大地を無慈悲に抉り続けた。
はぁはぁと、髪の毛をかき乱した千秋は再び聖堂に戻ると。
「に、逃げられた……どこ行った!? くっそ!」
目の下に隈を作った小町は。
「お、落ち着いて下さい。鳴り止みました。とりあえず。ね、寝ましょう」
「そうだね……少し気が立っていたよ」
落ち着いた千秋は自室に戻ると、布団の中に潜った。
一旦静かになると――――
15分後。
再び、DJ爆音の奏でる不協和音が麓の聖堂に鳴り響く。
『YO、 俺の名前は。アマチ!
お前らのプライド、今から粉砕!
俺はステルス、DJ爆音!』
今度は小町が刀を持って聖堂の外に駆け出していった。
「斬ります! 絶対に斬ります! あの野郎はここで必ず叩き斬ります!」
直後。
一帯の木々が次々と倒木していく。
地鳴りが聖堂を微かに揺らした。
はぁ、はぁと息を切らせ小町は聖堂に戻って来ると。
「あの野郎。一体どこに!?」
血走った眼で周囲をギロリと睨みながら憤然とした。
マリアは頬をピクピクさせながら。
「お、落ち着いて下さい。相手の思うツボですよ」
「で、ですね……くっそ。うるせぇアイツ!」
と、捨て台詞を吐き自室に戻って行った。
一旦静かになると―――
15分後。
再び、DJ爆音が降臨したのであった。
麓の聖堂に騒音が鳴り響いた。
『YO、 俺の名前は。アマチ!
お前らのプライド、今から粉砕!
俺はステルス、DJ爆音!』
延々続けられる騒音。
15分ごとに続けられたDJ爆音の1人ラップバトルはマホロ生を不眠に陥れた。
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そんな光景をサンバースト生から奪った特殊な双眼鏡でフィリスは見つめていた。
「すまんな。これは競い合いなのだ」
一言だけ呟き。
天内の作った無音領域にて舞い戻る。
フィリスは顎に手を置くと。
「にしても……恐ろしい戦略だ」
と、独り言ちを吐く。
フィリスは士官学校の錬金術師に半ば脅して作らせた幾つもの音響スピーカーを思い出し、空笑いした。
すると「おう。どうだ?」と、天内はフィリスに声を掛けると彼女の横に座った。
「随分長いお手洗いだったな?」
フィリスは純粋に疑問を口に出した。
「まぁな。恐怖の首輪を付けてきたとこだ。まぁ本命のもう1人は発見出来なかったけど」
「?」と、フィリスは疑問府を顔に浮かべる。
「まぁいいや。で? DJ爆音さんの巧みな戦術はどうだ?」
「随分消耗するんではないか? フラストレーションは限界を迎えるだろうな」
「フフフ。それはいい。悪夢の子守唄で頭の中をかち割ってやる」
「全く、末恐ろしい男だ」
「あまり褒めるな」
「褒めるか……確かに感心はするかもな」
「なんだよ。あっさりだな」
「ここまで心理戦に長けているとはな、と思ったのだ。お前は本当に優秀なのだろう。ヘッジメイズ代表として歴代最高峰かもな」
徐々に毒され始めたフィリスは『うんうん』頷いた。
「音でここまで追い詰めるのだ。相手も気が気でないだろう」
「そう言う事。戦局を有利に進めるのは単純な火力だけじゃない」
天内は自身のこめかみをつつく。
「ここも大事なのさ」
「恐れ入るよ。本当に」
彼女は肩を竦めると『やれやれ』と呟いた。
「このまま限界まで削りきって。教会と士官学校をそのままぶつける」
「そんなに上手く行くだろうか?」
「少なくともアホ1人はなんとかなったと思う。半分は成功している……と信じたい」
「ん? どういう事だ?」
「なに。この勝負は俺達がダントツで勝つ準備が出来てるって事」
フィリスは口を開くと。
「単純な疑問なのだが」
「なんだよ」
「お前ならば、このような策を巡らせずとも直接対峙し勝てるのではないか?」
「甘いな」
「ん?」
「俺は常に警戒している」
「お前ほどの男が、か?」
「絶対という言葉がない以上。勝機を1%でも引き込む努力は惜しまない。そんだけさ」
「ほう。豪傑が慢心も油断もしないとなると……
これほど相手にとって厄介な事はないだろうな」
フィリスは再び感心した。




