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そして鐘の音は鳴った② 拷問官天内


/3人称視点/


 大雨が降った後、強烈な寒波が山に舞い込んだ。パラパラと水分の含んだ粒の大きな雪が降り始める。次第にそれは豪雪地帯を作り出した。大地は冷気で凍り、一帯は白一色へと変貌した。


 魔法ってすげぇー。


 そんな呑気な感想を持つ者が1人。

 ヘッジメイズ筆頭天内その人であった。

 彼は簀巻きにされた人々の背中に乗ると、自慢の底の厚いブーツで踏みつけた。


「敗北者が……ヒト―――リ!!!」


「ぐっげ!?」

 背骨に直接体重が掛かり、聖職者が呻きを上げる。


「敗北者が……フターーーーリ!!!」


「うっひ!?」 

 肩甲骨を踏まれる修道女は悲鳴を上げる。


「敗北者が……3人、4人、5人、6人。7人!」


「ぐっげ!?」


「どっふ!?」


「ぴでぶ!?」


「あばちゃ!?」


「ポンデ!?」


 男も女も関係なく。

 彼は聖職者や修道女、軍服や学生服を着た者の背を踏みながら走り回る。さながらアスレチックを楽しむ子供のように何度も行ったり来たりする。その度に悲鳴と苦痛の叫びが木霊していた。


 そんな事が何度か続いていると、突如『バッキッ』と鈍い音がする。

 

 1人が痛みの余り態勢を崩すと、彼は誤って頭を踏んづけたのだ。退場独特の光の粒になり、頭を踏まれた者は消えていく。


「おい! お前ら動くなよ! 頭踏んづけたら、痛いのはお前達だからな!」

 

 PK専門に特化した彼は邪悪な笑みを浮かべながら。

「んじゃ。シルバーウッドくん。何度も悪いがこいつらの傷だけ治してあげて!」

 と、ヒーラーの少女に回復をお願いする。


 勿論、現在簀巻きにされている者達への回復だ。


「は、はい。お師匠様」

 と、エルフの少女は困惑しながら、傷だらけの紳士淑女の傷を端から順番に癒していく。


「あと! 100本は行くぞぉ! 気合入れろよ! 何度だって回復はさせてやる。お前達は死すらも生ぬるいと思え!」


「「「「ひぃぃぃ」」」」

 脱落すら許されぬ彼らは一様に絶望した。


「んじゃ。次の余興は面白しりとりだ! 面白くない奴は運命の罰ゲームだからな!」

 

 顔の腫れた1人の聖職者は恐る恐る口を開く。

「な、なにをなさるので? ば、罰ゲームとは」


「フフフ。聞いて驚け」

 と、彼は懐から赤い何かが詰まったチューブを取り出した。


「それは?」


「世の中にはスコヴィル数というのがある。辛さの単位だ」


「香辛料……ですか……」


「ビンゴ! 察しが良いねぇ。聖職者Aくん」

 天内は手のひらの中に納まるチューブを弄ぶと。

「こいつは唐辛子のキャロライナリーパーを煮詰めて作った特製の練り唐辛子。熊も卒倒するやつ」


「な、なにをなさるので」


「鼻の穴にツッコむ」


「ひぃぃぃ」


「おい……さっさと。終わらせてやらないか?」

 引き気味のフィリスはそんな天内に引導を渡す提案をした。


「フィリスくん……これからこいつらの精神をズタボロにしないといけないのだ」


「い、いや、しかしだな。情報を吐かせる意図なのはわかる。だがなぁ……流石に可哀そうな気もしてきたのだ」


「いや、ダメだ!」


「なぜだ? もう勝負は決まっただろう? こいつらは口を割らんと思うぞ」


「ダメだ! 内臓吐くまで続ける」


「鬼か貴様」


「フィリス! いいか。お前はもっと非情になれ!」


「どういう意味だ?」


「思い出せ。こいつらの親玉を」


「う~ん」

 フィリスの脳内に、2校の将の顔がちらついた。

 すると、次第に(はらわた)が煮えくり返りそうになる。


「ろくでもない奴らだ」


「確かになぁ……どうしようもない奴らだ」


「俺達ヘッジメイズを見下していた奴らだ!」


「う、うむ。そうだな」


「この親善試合。システムが起動している以上、死ぬ事はない!」


「ふむ」


「自爆特攻など非道なる提案を良しとする連中だぞぉ!」


「それはそうだが」


「そんな奴らだ。きっと次なる外道な戦略を(くわだ)てているに違いない」


「否定は出来んな」


「俺達が勝つ為ではない! 

 これは正々堂々! 

 騎士道精神に則って、

 マホロとやり合うのに必要な事なんだ!」


「なんか。無理矢理じゃないか?」


「じゃないじゃない」


「楽しんでないか? お前?」


「楽しい訳あるか! 俺は悲しいんだよ! 今だって心を痛めている!」


「本当か? 先程笑ってなかったか?」


「俺は悲しい感情が振り切れると笑っちゃうんだよ!」


「随分変わった体質だな」


「医者に言われてるんだ! そこは深堀りするな! 俺の心の中のジョーカーの話は繊細なんだ!」


「そ、そうか。すまない。そういう体質があってもおかしくないか。世界は広いものな」


「そうだ! それに……こいつらはきっと洗脳教育を受けてるに違いない。あんな、うんこみたいな奴らの指示を受けてるんだ。そうとしか考えられん!」


「ん? 話題が変わってないか?」


「変わってない変わってない」


「そうかぁ?」


「俺は今から、こいつらの心の(かせ)

 マインドコントロールの恐怖を解き放とうとしているのだ!

 ついでに『情報があれば教えてね』っていう話」


「ついでだったのか?」


「気にしない気にしない」


「う~ん」

 フィリスは頭を悩ませる。


「じゃあ! お前ら行くぞ! 面白しりとり。最初は『り』からだ!」

 と、天内は簀巻きになった者へ音頭を取った。


 その後、フィリスが天内の拷問を本格的に止める事になる。フィリスの優しさに触れた彼らは感動し、あっさりと情報を吐く事になったのだ。




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