そして鐘の音は鳴った① 私はお前を勘違いしていたかもしれない
/3人称視点/
「す、すまない。越智先輩を見失った」
息を切らせたフィリスが焦りの色を見せる。
「豪雨もあって音波索敵で掴みにくいな。スナイパーだけあって隠れるのが上手い」
「足を引っ張っているな」
フィリスは自嘲気味に言い、肩を落とす。
「いや、いいさ。十分貢献してくれている」
天内は軽く肩を叩いて笑顔を見せた。
「この雨だ。全学園のスナイパーの視界・聴覚・弾道の軌道を妨害している時点で上出来どころか、MVP級なんだぜ」
フィリスは少し驚いたように顔を上げ。
「あ、ああ。そう言う事か。お前そこまで計算に入れているのか」
肩をすくめながら。
「当たり前だ。スナイパー対策は必須だ」
「な。なるほど。お前、本当に頭が良いのか?」
「普通の事だ。それに厄介なまつり先輩を削れたのはいい。今回、ネームドを3人削れた」
「ね、ねーむど?」
天内はそれにはツッコまず。
「マホロはモブとメインを入れて最大でも16人しか居ない。実際はもう少し減ってそうだが。エリックとアドリアンが小型爆弾がどうのと言ってたし……」
「特攻をするとかしないとか言ってたな」
「二日目って事もある。アイツらもマホロのモブを削っていてもおかしくないかもな」
「もぶ? さっきから未知の単語が多いな。暗号か何かか? どういう意味だ?」
「あれだよ……特別強い奴とそうでもない奴って意味」
「なるほど。そういう暗号なのだな」
「ま、まぁな。暗号学の授業で習うから覚えとけよ。これは非常に難解なんだ。俺は今、予習してる最中」
(嘘だけど。そんな暗号ねぇよ)
「そ、そうなのか。暗号学にも精通しているのか……お前。やはり頭が良いのではないか?」
「ま、まぁな。実は古代語なんだよ。由来は神聖ガリアの初代皇帝ロムルスが作ったとされている。妃のペンシルベニアと文通をしたとかしないとか」
天内は何の躊躇いもなく口から出まかせを紡ぎ続けた。ちなみに全て真っ赤な嘘である。
「歴史の知見もあるのか……流石我がヘッジメイズの代表だな。とぼけた奴だと思っていたが、見直したぞ!」
フィリスはますます感心したのだ。
「まぁ。そういう事だ。勉学に励み給えよフィリスくん」
「しかし……ロムルスだったか? 確かガリアの初代皇帝は」
「フィリス!」
詮索されるのを困った天内は大声を出して遮った。
「な、なんだ?」
「それよりも、みんなは? ダイジョブなのか? 俺はそれが心配だ! 心配でたまらん!」
「あ、ああ。居るぞ。みんな無事だ」
と、彼女は残り3人のメンバーを指差した。
天内はそれを確認すると。
「ホントだ。良し。とりあえず良かった」
2人してメンバーの下に歩き出す。
「そういえば、お前。さっきの芸当も隠し持っていたのか」
「芸当? 速攻で終わらせた事か?」
「そうだ。目にも止まらぬとは、この事だと思った」
「あーね」
「天内が森守先輩を斬った後、私達は越智先輩を追おうとした。その後、振り返ったらお前は全てを終わらせていた。あれには目を疑ったぞ」
「まーね」
「認めよう。お前は強く。それに頭も切れる。勉学にも秀でているようだ。ヘッジメイズで主席を取るだけはある。不正でもしているのでは? と少々疑っていたが私の間違いのようだ」
「大したことはない。影で努力しているだけだ」
(不正の努力はしてる。真面目に勉強とか、かったりーし)
「ふむ。謙虚だな。しかし、先ほどの妙技、ヘッジメイズで格を示した時ですら本気ではなかったのか?」
「必殺技はここぞという時にしか使う気はない」
(入学試験では使った。でも、それ以外は使うまでもなかったんだよね。君ら雑魚過ぎて)
「力を誇示する事もないか」
「そう。力でどうにかなる世界など無意味。
そんなものに意味はない」
(そう。この世は金なんだから。暴力なんて意味はない)
「ほう。感心したなぁ」
「なんだ今頃か?」
「そうかもな。この親善試合、お前を見直す事が多い。全く疑いようもないな」
フィリスは腕を組み『うんうん』唸っていた。
「随分褒めるな」
「我がヘッジメイズの代表として実に頼もしい限りなのだ! 私は嬉しいぞぉ! うむうむ!」
フィリスは天内の背中を叩くと『バンバン』と音が鳴った。
「お、おう」
「悔しいが、強さにも固執もせず、頭も切れ、謙虚でもある。少々金に汚い所はあるが、それを差し引いてもお釣りが来るな。いや、むしろ愛嬌とも言えるな。うむうむ! いいぞぉ! 天内!」
「お、おう……ど、どうした」
「お前が居れば、我らヘッジメイズの悲願の初優勝もあり得るかもしれんな!」
「まぁー、多分大丈夫じゃね? 少なくとも最終局面まで全員連れてってやるよ」
その言葉を聞くとフィリスは眼を輝かせる。
「おおぉ。いいぞぉ! 天内良く言った!」
「まぁね。お前らを勝たせてやりたいし」
「そ、そうか。うむうむ! 我がヘッジメイズの代表は口は悪いし、金に汚いが、実にいいぞぉ!」
「さっきから、それは褒めているのか?」
「褒めているとも!」
と、ご機嫌になったフィリスは天内の背中を力強く叩き続けた。
「なんかキャラ変わってない?」
「そんなことはないとも!」
フィリスの力強い言葉に若干困惑した天内であった。




