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鐘の音を鳴らせ!⑩ 一線を画す


蹂躙(パーティー)の始まりだぜ!」


 俺は内心をファントムモードに切り替える。

 

 集中しろ。

 

 心拍数が上がっていく。

 血液が沸騰するようであった。

 周囲の音が徐々に遠のいていく。

 

 

 世界がゆっくりと動き出す。

 雨粒一つ一つが緩やかに地面に落ちている。

 世界がスローモーションになっていく。

 一歩踏み出した。

 




 ―――――音を置き去りにした。





 

 ―――超加速。



「は?」

 まつりの驚く顔が目の前に見えた。

「え?」



 ――――閃光。


 

 目にも止まらぬ早さで俺は彼女の首をあっさりと斬り落とした。先行、一打目で最も厄介な敵を落とす。定石だ。まつりに地形を崩されれば厄介極まりない。だから先に落とした。

 

「な!?」


「んだと?」


 マホロチームの驚きの顔が浮かんでいた。

 こんな形で超加速(タキオン)を学園生に見せるのは初めてかもしれない。俺がほぼ瞬間移動に近い動きを取れるのを、こいつらは知らない。学園での模擬演習や腕試しイベントなんかで使用する必要がないからだ。






 なんでかって? 強すぎるから。







「なんで。魔盾(まとん)……効かない?」

 イノリは困惑していた。


「壊れたんじゃねーの?」

 俺は意地悪な顔をした。


「そ、そんな訳」

 焦る彼女。



 フフフ。教えてやんねーよ。



 イノリの魔盾対策は取ってある。

 あれには攻撃判定の優先順位が存在する。

 先に攻撃が行われたものを先に弾くのだ。


 2撃目は1撃目の後に弾くし。

 3撃目は2撃目の後だ……


 さて。こちらにはフィリスが居る。

 アイツの作った。この雨。

 魔力によって作り出された雨が攻撃だと判定されていたら?



 俺の攻撃の優先度は、この無限に思えるほどの雨粒の数の先にある。


 

 つまり。

 デコイ性能を持つ魔盾は本来の効力を失う。

 今、アレはただの頑丈な盾でしかない。 


「だから警戒しろと!」

 片翼は困惑の顔で叱咤した。


「なにを……したの?」

 先程の余裕が消えた南朋はこちらに鋭い視線を飛ばした。


「さぁね」

 俺は手のひらをひらひらとする。


 越智は最大限の警戒を以って、スナイパーらしく既に身を隠したようであった。


「やはり……圧倒的強者。ここまで開きがあるか……世界最高峰の剣客」

 片翼は鋭い牙を見せ挑戦心に火が灯ったのか笑みを浮かべる。


 俺は人差し指を立て。

(まばた)き厳禁だぜ。1分」


 開いた口が塞がらない南朋は。

「は?」

 と、一言。

 

「1分でお前ら全員、終わらせてやるよ」

 と、死の宣告をしてやった。


「馬鹿にして!」

 憤慨する南朋は眼の色を変えた。


 ・

 ・

 ・


/南朋視点/


 10メートル以上先に、細剣を軽く振る天内の姿があった。

「じゃあ。次は……だーれーに……しーよーう……か……な!」


 ウチと眼が合った。

 息を吞んだ。


「来る」


 天内が一歩踏み出した。

 軽やかにステップを踏むように。

 まるで、日常の中に居るかのようななんでもない一歩が見えた。

 

 つま先が地面に接着しようと……













 目の前から消えた。














 雨粒が――――落ちるよりも早く。いつの間にか天内の顔が目の前にあった。


「え?」


 閃光だ。刃の残影が首元まで迫っていた。


 嘘でしょ。なにこれ?

 コイツは剣術だけじゃないの?

 こんなの知らない。こんなの聞いてない。

 なんなのよ。これは……

 

 反射神経であった。本当にギリギリで刃の残像を捉え、感覚で避ける。

 

「へぇ……」

 と、不敵な笑みを浮かべる目の前の剣士。


「ッ!」

 金属で出来た細剣とは思えぬような軌道を描く一撃の数々。まるで鞭のような斬撃の応酬だ。速過ぎるのだ。そのせいで、あり得ぬ残像が見えている。


 息が出来ない。

 

 集中を解けば、瞬く間に退場だ。

 

 強い。強すぎる。

 人間の動きじゃない。

 

 天内は笑顔のまま剣を振り続けていた。





 ――――恐怖。





 身震いした。

 反則的なまでに非常識過ぎる!


「南朋!」

 と、叫んだイノリが助けに入ろうとした瞬間であった。


 天内は身を反転させ、剣を翻す。

「2人目」

 と、呟いたかと思うと。


 助けに入ったイノリの掛け声は残響虚しく。脱落した際、独特の光の粒になってイノリは消えていた。天内の放った刺突が彼女が居た頭付近を貫いていたのだ。


「残り、45秒」


 カウントダウンを開始する天内。 

 彼の眼は光が灯ってないように見えた。

 機械的に発せられる死のカウントダウン。



「ひっ」

 


 初めて戦慄した。

 ウチは初めて天内に戦慄したのだ。

 馬鹿にしてた天内が相当ヤバい奴だと認識した。


 舐めてた。

 

 ウチはコイツを舐めてた。

 剣術は見込みのある奴だと思った。

 でも、それぐらい。

 

 『凡人のくせによく頑張るね。でも本物の天才には敵わないよ』ぐらいにしか感じてなかった。

 

 風音は『見た! あれ。凄いよ。あの動き。剣術だけだったら僕よりずっと上だ。天内くんは超天才だよ。ホント、尊敬しちゃうな~』と褒めてた。


 ウチは半信半疑だったし。

 そんな事、微塵も信じてなかった。



 だけど。ホントだった。


 

 今、確信した。

 格だ。格が違うのだ。


「あ、そうか。似てる……」

 

 気付いてしまった。

 風音と同じだ。

 別のステージに辿り着いた者の独特な眼だ。


「あ。負けた……」


 ・

 ・

 ・


/片翼視点/


 天馬があっさりやられた。

 反応出来なかった。

 彼の動きが全く読めないのだ。


 天馬に負けた日。

 自身より実力が上の天馬を目標に鍛錬を積んだ。

 次こそは彼女に一泡吹かせようと思ったのだ。


 その目標がいとも簡単に敗れた。


 目の前の剣士に。

 世界最高峰たる剣客に。


 一陣の風の(もと)、一蹴された。


「流石です。閣下」

 素直な賛辞を贈る。


「二人になったな」


「ですな」

 

「どうだ? その羽?」


「閣下に教えて頂いた魔術と技法のおかげで、随分馴染みました。本来の片翼と遜色ないほどに自由自在です。初めて空を飛ぶことも出来るようになった」

 金属で出来た羽を広げて見せる。


「良かったね」


「ええ。全く。本当に。閣下には恩がありますが……」


「わかってるよ」


「ここで手合う事。非常に光栄ですな」


「どうする? 少し手を抜こうか?」

 彼は何でもないように細剣を振り回していた。


「貴方の実力は知っていた……いえ。知っているようで知らなかった」


「ふむ」


「稽古を付けて頂きたいのは山々ですが……」

 魔術が施された槍を強く握りしめる。


「悪い。無粋な事を訊いた。本気でやった方がいいようだ」


「ありがとうございます」

 私は深々と礼をした。


「聞いたぜ。お前南朋に負けたんだってな」


「恥ずかしながら」


「謝る必要なんてないさ。いいか。ヴォルフガングくん。君はまだまだ成長出来る」


「……」

 生唾を飲み込んだ。


「南朋にだって勝てる。俺が保証してやる」


 私は一度、静かに目を瞑ると自然と口元が(ほころ)んでいた。

「では、やりましょう!」


「「参る!」」


 お互い同じ掛け声であった。

 空へ飛び立とうとした後。

 私の視界が暗転したのだ。



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