鐘の音を鳴らせ!⑨ 少しだけ本気を見せてやろう
思い返せば……
千秋を仲間に入れる為、戦った。
魔人:山本とも戦った。
ヴァニラ全盛期とも影パ全員でやり合ったし。
ニクブやゴドウィンとも戦った。
魔人:時の支配者であるベイバロンとも戦った。
海洋に出現した巨人もぶっ倒した。
過去に行って魔人:Гとも戦った。
命懸けで終末の騎士、根絶者も倒したし。
夢の世界で、理想の姿の小町とも戦った。
クソ強い俺の偽者とも戦ったな……そういや。
そして……魔人:貧者や魔人:リリスを倒すまで成長した主人公風音ともつい最近戦った。
風音達を鍛えた。
皆、忘れ始めている俺の親友。
カッコウも鍛えた。
TDRの奴らもついでに鍛えた。
ヘッジメイズは……勝手に強くなってた。
ダンジョンに潜って魔物も討伐してきたし、過去に行ったときは勇者カノンを鍛えてやった。
「あれ? 俺ってもしかして凄い奴なのか?」
わからない。
正直。俺はモブの哲学を持っている。
『目立たず平穏に生きる』
これが俺の人生哲学だ。
その為には、しこたま金が必要なのだ。
それだけである。
俺は本気で対人戦を行った事がない。
魔人戦や終末戦は別だ。
それ以外は全て手を抜いている。
実力がバレるのも面倒だったし。
ファントム暗躍計画もあったし。
まぁでも……
俺は隣で真剣な顔をするフィリスの顔を盗み見た。
マリアの挑戦の事もある。
これは気まぐれだ。
勿論、ブラックナイトも香乃もオルバースも使わない。
武器術・体術・多彩な技のコンビネーション。
これだけで闘ってやる。
少しだけ本気をみせてやろう。
面白くなってきたぜ。
・
・
・
2日目。
朝から大雨が降っていた。
徐々に激しさを増す雨は不気味なリズムを刻む。地面はぬかるみ、足元が泥に沈む感覚が伝わって来た。豪雨としか表現出来ない程の雨。
昼間だと言うのに林の中は真っ暗であった。
「散開!」
俺はヘッジメイズ生の即席パーティー4人に指示を出した。ヘッジメイズ生は即座に反応し、各自の持ち場に散って行く。
目の前にはマホロ生の精鋭共が居た。
「こんなメンツを先遣隊にするなんて。全く嫌になる」
俺の口から知らず、そんな悪態が吐いて出た。
彼らはどれも強者ばかり。
粒揃いなメンツだ。
こちらに気づいた、如意棒を手にする天馬南朋が冷笑を浮かべた。
その棒は伸縮自在、大小変化する。
敵を圧殺する力を秘めている。
南朋の隣には、無表情の間坂イノリ。
あらゆる攻撃、呪い、状態異常に囮耐性を付与する魔盾を扱う。
森守まつりは軽い調子で手を挙げた。
戦略級魔術師。
生徒会でも随一の実力者であるマップ兵器のまつりだ。
ライフルを肩に掛けた、越智エル。
高威力・超遠距離・追尾付与の魔弾の射撃手。
片翼が金属で出来た鷲型の獣人
アイツ。TDRの……確か、二つ名は片翼のヴォルフガング。
確か翡翠に次ぐTDRの中でも随一の実力者だっけか?
「よっすー。あまっち」
まつりはあっけらかんとした態度で手を挙げた。
「あ。どうも。まつり先輩」
俺は表情を崩さずに挨拶をし返す。
「なになに。怖い顔して。あーしもう帰るんだけど」
「おい。お前はまた。そんな訳に行かないだろう」
越智は隣で彼女を諭す。
「えー、もういいし。こんな雨嫌だし。お風呂入りたいし」
ふざけた口調で本音を吐露するまつり。
「まつり先輩帰るんすか?」
「そうなんよー」
「森守先輩。そんなのダメに決まってるじゃないですか」
と、南朋は釘を刺した。
「悪いね。天内」
イノリは無機質な眼で俺を見つめ、何事かを言おうとしている。
「そうね。見つけてしまった以上、アンタを逃す事は出来ないのよ。これ。戦争だから」
南朋はヘラヘラしていた。
「あまっち逃げなきゃ! イケイケゴーゴー。あーしが皆を説得するから!」
まつりは俺を囃し立てる。
「勝手な事ばかり言って!」
越智はまつりを羽交い絞めにする。
片翼は黙っていたが。
俺と眼が合うと一度深々と礼をする。
その後、彼は槍を構えたのだ。
アイツは俺に挑戦したいのだろう。
「逃げないっすよ。皆さんはここで脱落だから」
「へぇ……この戦力差でそんな口を叩くんだ」
南朋は笑みを浮かべていた。
「無謀」
イノリは静かに呟く。
「そうだぞー。あまっち」
「悪い事は言わん。お前ではどうにもならんよ」
越智は申し訳なさそう顔をする。
「みくびられたもんだな」
俺は細剣抜くと、ニヤリと笑った。
―――雨が激しくなる。
「やるのー?」
まつりは無気力そうである。
「ええ。そうですね。まつり先輩には帰って貰いたいですが」
まつりは「そんな事言われたら!」と、ピースサインを作り、「やりたくなっちゃうしー!」と、先程と真逆の事を言い出した。
「そっすか」
「天内以外の姿が見えないが、背後でも取る気か?」
と越智は気だるそうに肩からライフルを下ろす。
「やめとけやめとけ。アンタ達には悪いけど……意味ないって」
と、南朋は余裕そうな態度を崩さない。
「アタッカー1人。無理」
と、イノリも同調した。
「そうそう。アンタ1人で何が出来るのよ」
と、南朋は冷たく言い放つ。
「気を抜かぬ方が良い。この御仁は恐ろしく強いぞ」
と、唯一警戒を解かぬ片翼が4人に告げる。
「へぇ~。わかってんじゃん」
俺は細剣を全員に向けて構える。
雨音が激しくなる。
両者は互いに視線を外さない。
「じゃあ。行くぜ」
と、俺は眼を光らせた。




