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鐘の音を鳴らせ!⑧  駆け引き


 ―――深夜であった―――


「天内!」

 と、フィリスが突然叫んだのだ。


「わかってる!」


 俺は木陰に潜むサンバースト生の1人を叩き切った。

 諜報活動を行っている者だろう。

 

 彼は脱落間際、俺達に何かを投げつけてきたのだ。


「待て。トラップかもしれんぞ」

 と、地面に落ちたそれを見てフィリスは慌てて俺を制止した。


「違うよ」

 見覚えのあるその物体に俺は近づいて行く。


「なんだ? それ?」


無線機(トランシーバー)っつーやつ。遠隔で連絡が取れるの」


「携帯電話とは違うのか?」


「違うよ。特定の周波数でやり取りすんだよこれ」


「?」

 何の事かわからないフィリスは疑問符を浮かべた。


 俺は無線を手に取ると。

『よう聞こえるか? 天内』


『もすもす。我々である』


 無線から聞こえてきたのは。

 エリックとアドリアンの2人の声であった。

 聖教会と士官学校の筆頭魔術師と筆頭騎士だ。


 エリックは。

『いやぁ。驚いたぜ。あの時の飯屋での縁は神の祝福だってな』


 アドリアンも続けて。

『全くでありまする。これも巡り合わせでありまする』


「俺も驚いたよ。こんなキモい連中が各学園の筆頭だとは思わなかった。非常に残念な気分だ」


『言うじゃねーか』


「ああ。何度だって言ってやるよ。チンピラ聖職者とキモオタくん」


『お前の減らず口もいずれ閉じてやるぜ! 天内』


「できるもんならやってみろハゲタコ。返り討ちにしてやる」


 無線から『カカカ』とエリックの笑い声。

『教会の次期、枢機卿候補で恐れられるこの俺様をこんな風に言うんだぜ。流石だろ?』

 と、どうやら後ろの仲間に言ってるようであった。


『その前に! でありまする』

 と、アドリアンが割って入って来た。


『あぁ。そうだったな。ここは一時休戦といかねぇかって話だ。俺様達と組まねぇか? 天内』

 と、エリックは突然提案してきたのだ。


「お前ら組んだの?」


『期間限定でな』


『そうなのでありまする。これはお互いに利がありまする』


「利だと? んなもんねぇだろ。雑魚が困ってつるんでるだけだろ。超王道の展開だぜ。脳みそ詰まってんのか?」


 エリックは若干引き気味に。

『天内。お前。すげぇ口悪いよな』


『天内殿! 情報と技術の我ら。地の利の聖教会。提供できる物は多いのである』


「ふむ。キモオタくんの意見はそう言う事ね」


『さっきのキモオタとは自分の事だったのか!? キモオタとは実に酷いのである!』


「じゃあ厄介オタな。二つ名は厄介オタのアドリアン。いいじゃん。ひゅー! かっくいい!」


『ぐぬぬ』


『よく聞け。天内。俺様達は打倒マホロを掲げてる。共通の目的を持ってるだけだ。どうだ? 悪い話じゃねぇだろ?』


「へぇ。そりゃ大層な事で」


『俺様は考えた訳よ』


「おう。言ってみろ」


『客観的に戦況を分析した時、マホロだけズルいってな』


「まぁな。そこは同意するわ」


『そうでありまする。自分は戦力バランスを分析しますた』


「分析だと?」


『現状のサンバーストを2とした時。聖教会も2。ヘッジメイズは1。マホロのみ5と分析したのである』と、アドリアンは独自の分析結果を弾き出したようだ。


「ほう。それでぇ?」


『察しが悪いじゃねーか天内。俺達3校が手を組めばマホロに匹敵する』


「ふむ。とりあえず聞いてやるよ。続けろハゲタコ」


『うっ』

 と、若干たじろぐエリックは。

『俺ら教会は地の利を、士官学校は情報と技術を、お前らは人を寄越せ。これでウィンウィンだ』


「あ?」


『囮と陽動が必要だっつってんだよ』


「こっちで(まかな)えと?」


『そうなのでありまする。悪いようにしないのでありまする』


『脳筋で役に立たねぇお前の駒をこっちの兵隊として使ってやるよ。有効活用してなぁ』

 と、エリックは含みを込めた言い方をした。


「駒か。随分面白い表現をするじゃねーか」


『なに、簡単な話だ。使えねぇ駒にも役割を与えてやれるんだよ。これはいい采配なんだぜ』


「役割だと? 囮と陽動の事だろう?」


 アドリアンは。

『それもありまするが、特攻が出来るのである』


「特攻だと?」


『使い道のない駒によぉ。爆弾持たせて自滅してもらえりゃ、それで1:1でマホロ生を落とせるつー戦法だ。最高だろ?』


『そうなのである。錬金術に特化した我々であれば小型式の内臓爆弾を作れるのである。間もなく量産できるのである』


『そう言う事。自爆特攻が出来るって訳。雑魚でも強い奴を落とせる』


 俺は押し黙った。

「ちなみに……さっきの無線機を投げつけてきた奴」


『我々の天内殿に対する連絡員(ハト)である』


「捨て石に使ったのか?」


『そんな訳ないのである。天内殿と接触するように頼んだだけである』


「俺らに見つかれば、やられるとわかるはずだが?」


『やられたのは弱いからである。弱い兵は(しか)るべきである』


「あっそ」


『おい。天内。弱ぇ駒の事なんてどうでもいいじゃねーか。話の続きいいか?』


「なんだよ? ハゲタコ」


『ヘッジメイズは万年最下位の雑魚だ。天内。お前は相当やると聞くが、お前のワンマンチームなのは既にわかっている。それ以外は数合わせのゴミにすぎねぇ』


『我らの情報が(あば)いたのである。役に立たない雑兵(ぞうひょう)しか居ないのである』


「お前らの言うそんな雑魚に物乞いするなんざ、随分余裕がねぇな?」


『勘違いしないで欲しいのである』


「おう。なんだよ厄介オタ」


『我らは天内殿にもチャンスを与える、と言ってるのである』


「チャンスだと? まるで俺らが全く勝機がないみたいな言い方だな?」


『ないのである』

 と、キッパリとアドリアンは告げた。


 エリックは続けた。

『そうだ。これはチャンスなんだよ。馬鹿なお前は気付いてねぇかもしれねぇが。俺様達だけじゃ、マホロにはどうしても戦力を覆せねぇヤバい奴が1人居る』


「ほう」


『内乱治めの英雄である』


『ああ。そうだ。ありゃやべぇ。俺様達が束になってもどうにもならん』


 風音の事か? 風音の事だろうな。

 

「それで?」


『だが、それ以外は結束すればどうにかなるんだよ!』


『それ以外を削れば勝機を見いだせるのであると、自分の脳内コンピューターが弾き出したのである』


「うんうん。なるほどねー」


『なぁ。良い提案だろ。俺様はお前を買ってるんだぜ。お前は強い。それに面白い奴だ。気も合う。特別に俺様と肩を並べるのを許可してやるぜ。あとフィリスちゃんつーエロい女もな。特別に俺様の女にしてやるよ』


『そうなのである。天内殿。ここは英断すべき時なのである。賢い御仁ならわかるであろう?』


「うんうん。なるほどなるほど」


『おう。わかってくれたか?』

 とエリックは声音を上げた。


「全く魅力的じゃないねぇ」

 と、俺は言ってやった。


『なんだと?』


「勘違いしてるようだけどよぉ」


『なんであるか?』


「厄介オタの分析には、大いに誤りがあるぜ」


『ん? どういう事だ?』

 と、エリックの声。


『我らの分析に狂いはないのである』


「まず。ヘッジメイズの戦力は1じゃねーよ。俺一人で3ぐらいあるわ!」


  ――― 一瞬 ――――

 

 無線の向こうが無言になる。

 その後、複数人の笑い声が聞こえた。

 『バカだろ』。『自惚(うぬぼ)れも(はなは)だしいな』。『なぜ筆頭はこんな奴を』など色々聞こえてきた。


『馬鹿かおめぇわ』

 と、エリックの呆れた声。


「俺とヘッジメイズ合わせて4はあるね! 教会が0.5。サンバーストも0.5。合わせて1! 残りがマホロで5なんだよ!」


『随分自信過剰なのである。実に愚かである。やれやれ。なのである』


『全くだ。ここまでアホな奴は初めてだ』


「だから取引きに魅力を感じねぇ。あと、仲間は売らねぇ」


『仲間だと。使えねぇ駒に何言ってんだコイツ。寝ぼけてんのか?』


『情など不要である。雑兵は所詮雑兵。戦局を有利に進める為の駒でしかないのである』


「お前らこそ何言ってんだ? 要らねぇモブなんてこの世のどこにも居ないんだぜ」


『あ?』


『奇妙な事を言うのである』


 それまで黙って後ろで聴いていたフィリスが、俺の手元から無線機を()(さら)うと。

「貴様らの提案など。受けようはずもなかろう!

 我らヘッジメイズの誇りに賭けて。 

 貴殿ら諸共(もろとも)、打倒してみせようぞ!」

 と、無線を地面に投げつけた。


 俺は『ヒュー』と口笛を吹く。


「愚かしい者共だ」

 とフィリスは青筋を浮かべている。

 

 相当ご立腹のようだ。


「全くだぜ」



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