鐘の音を鳴らせ!⑥ ヘッジメイズ陣営
/3人称視点/
「と、『それぞれの学園のアプローチ』はこのような所でしょうか」
裏工作の合間。
翡翠は一息吐いた際であった。
情報収集を行った結果、各学園の動きを分析したのだ。
フランは上司に当たる翡翠にお茶を差し出すと。
「アマチさんは他の生徒を脱落させるんですね。しかし……余りにも周りのご学友が足を引っ張りませんか?」
翡翠はカップを手に取ると。
「どうでしょうね」
フランは無機質な顔で。
「私の分析ですと、戦力バランスとしてはやはりマホロは過大ですね」
「そうですね。駒の優秀さを踏まえて考えれば、殆どの生徒が飛車や角で構成されているマホロ。それ以外の駒で構成されている他の学園はディスアドバンテージでしょう。普通に考えればですが」
「普通に考えれば……ですか?
勿論アマチさんが負けるとは微塵も思いませんが。
アマチさんを固める駒が余りにも脆弱すぎませんか?
一人一人が精々0.1千秋様程度」
「0.1千秋様?」
と翡翠は聞き馴染みのない単語に怪訝な顔をしたが、
話の腰を折らぬように続ける。
「彼らはダークホースですよ。駒としての性能は未知数です」
「ほう」
「今回の玉は金槌です。
玉を落とすのではなく。
玉を奪い合うという変則的なゲームですが。
これには大きな穴が存在しています。
いえ、言い換えましょう。
ルールに拡大解釈の余地がある」
「ほうほう」
「マスターは全てを理解し、全てを掌握・把握しておられる。彼は遊んでいるのです。我々の微力な力を使えば勝利は必須であった。しかしそうしなかった。マスターならばたった一人でも戦況を覆す事が可能にも関わらず」
翡翠は第5勢力に『天内』と書き込んだ。
「それはそうでしょう」
フランは無機質な顔であるが、自信満々に答えた。
「結果のわかったゲームほどつまらないものはないですが。
マスターの勇姿を見届けましょう」
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と、俺は背筋に寒気がした。
「それで? お前のとっておきの魔法とはなんなんだ?」
フィリスは寒そうに身体を擦りながら俺に質問した。
「まぁ見てな」
俺は音魔法を発動させる。
「脆弱な魔法だ」
俺はお得意の『無音』を発動させる。
諜報でも戦闘でも何度もお世話になっている汎用魔法。
「なに……そんなものが使えたのか?」
フィリスは面を食らっていた。
「音魔法はハズレ魔法だとされている。特に周囲を無音にするだけの魔法なんて、そう簡単に取得しない。そこでメモリを使うぐらいなら実用的な魔法を習得するからだ」
「う~ん」
「勝利条件は『鐘を鳴らす』だ。このゲームの判定基準そのもののを不明確にすれば。事実上ルールに介入する事になる。ゲームメカニクスそのものの崩壊だ」
「う~ん。面白いアプローチだとは思う。お前の多彩さには驚かされる。しかしだな」
「なんだよ。不満そうな顔をして」
「それぐらい他の学園も考えているんじゃないか?」
「う、」
確かに言われてみればそうだ。
俺の脳みそがはじき出す戦術など攻略・対策を講じてくる可能性は高い。
どれだ?
俺には無数のスキルとアーツ。汎用魔法がある。
ショボい能力を駆使すれば必ず勝てる自信がある。
モブスキルは可能性の塊だ。
「じゃ、じゃあ。先に兵糧攻めで行こう」
「それはいいが……具体的にどうするのだ? お前が一番強いしプレイヤーキルの軸はお前に一任しているが」
「フィリス。お前は天候を操作する」
「……わずかだがな」
「この山はこの季節から非常に寒い」
「そうだな」
「山の頂きなんか真っ白だ」
「ふむ」
「ちょっとだけ、冬を先取りしてやろうぜ」
フィリスは何かを察したように。
「冬の到来か。お前なかなか嫌な戦法を思いつくな」
「フィリスは俺達の基本骨子なんだぜ。
大規模魔法を使えるのはお前だけ。
そして気象を操れるのもお前だけ」
「……」
「雨を降らせて。
大寒波をお見舞いしてやる。
体力を奪って、食事も全部ダメにしてやる。
弱った所でフルボッコだ」
「騎士道精神に反する気もするが」
「いいんだよ」
「確かに……チョロチョロ嗅ぎまわるネズミよりはマシか」
フィリスは魔術を起動し、周囲の気配を感じ取る。
「そうそう。まずは」
と、俺は細剣を抜いた。
「「ネズミ狩りだ!」」
俺とフィリスは茂みに向かって攻撃を開始した。




