表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/457

鐘の音を鳴らせ!④ 意味なんてなくてもいいじゃないですか


/3人称視点/


 聖堂で行われた親善試合の開会セレモニーが終わりを告げた。4校の生徒はゾロゾロと動き出す。


 小町はキョロキョロすると。

「あ。アイツ!」


 ヘッジメイズ生の集団。

 その中でポツンと1人。

 集団から外れた場所で。


 サングラスを掛け、腕を組み、周囲に睨みを()かせながら貧乏ゆすりをする男。天内傑の姿があった。


「うっわ。浮いてるよ。態度わるぅ……」

 チンピラみたいな風体。

「アイツのあの態度の時は、」


 小町の脳内データベースが分析し。

 天内の態度の解析結果をはじき出した。


「『チッ。びた一文にもならねぇのに、こんなとこに俺を呼び出しやがって。クソめんどくせぇ。さっきギャンブルで負けたんだぞ俺。せめて時給を払えクソ坊主!』って考えてる時の顔だ」


 小町は天内の下に駆け寄ると。

「先輩!」

 と、声を掛けた。


「げ!?」

 彼は振り向くと驚いたような顔をした。


「まだ馴染めてないんですか?」


「うるせぇーよ」


「いつもの冗談でみんなの輪に入ればいいじゃないですか」


「それが出来たら苦労しねぇんだよ」


「男子とは仲いいじゃないですか。なんで同じように出来ないんですか?」


「男子は共通の話題があるんだよ。女子とは違うの。小町はわかんない奴だねぇ」


「私とは普通に喋ってるじゃないですか?」


「お前はいいんだよ。女子感しないし。しいて言うなら、道端の子犬ぐらいの感覚だし」


「うっわ。ひっど」

 小町は若干引きつつも。

「それでも先輩なら馴染めそうですが」


「知らねぇよ。基本あっちから声かけて来ないし……避けられがちなんだよ」


「先輩から声かけないからでしょ」


「かけてるよ……ん? かけてるかも……いや、鍛えてやってる」


「鍛えてる? なんか反応と応答がおかしいんだよな。コイツ」


「コイツってなんだ! 俺は先輩だぞ!」


「あーはいはい。すみません。あまちせんぱい……こいつ」


「ぐ、馬鹿にしやがって。『こいつ』なんて語尾はねぇんだよ」


 小町はそんな反応を無視し続けた。

「それでぇ? それ以外はどんな感じだったんです?」


「それ以外ってなんだよ?」


「それ以外の過ごし方ですよ」


 天内は不貞腐れた顔をして。

「食堂で1人で飯食ってるけど……なんか悪いかよ」


 またも若干引き気味に。

「うっわ」

 と一言。

 

 小町の脳内に食堂の隅で1人ポツンと奇声をあげながら食事を摂る天内の光景が鮮明に見えたからだ。


「そんな悲しい生き物を見る眼で見るなよ」


「この1週間近く、そんな感じだったんです?」


「ふぃ、フィリスの奴とは飯を食う……事もある。一回……二回? だけだけど」


「あちゃ~。可哀そうな人だと思われてますよ。フィリスさんは女生徒からも人気ですし、しっかり者さんとの事です。みんなの輪に入れてあげようとしたんじゃないです?」


「え? マジ?」


「ちなみにフィリスさんとはその後、ご飯は?」


「ないけど……」


 小町は『はぁ~』と大きなため息を吐くと。

「鈍感だし、デリカシーがないから、愛想尽かされてますよ。それ」


「そ、そんな訳ないじゃん。俺これでもヘッジメイズ筆頭だぜ」


「あー、はいはい。目つき悪い・貧乏ゆすりばっかりしてる・奇声を突然上げる筆頭ですもんね」


「うるせぇな。くだらねぇ事言いに来たなら、あっち行けよ」

 『しっしっ』と、天内は手で追い払うようなジェスチャー。


「そんなのはどうでもいいんですよ!」

 と、小町は身を乗り出した。


「なんだよ。まだ、なんか用かよ」


 小町は持ち込んだカメラを天内に見せつけた。

「みんなで写真を撮りましょうよ!」


「みんなぁ?」


 小町は先程、宿舎前で撮った、風音を中心としたマホロ生全員の集合写真を彼に見せつける。

「さっき皆さんで撮ったんですけど」


 天内に見せられたのは『笑顔でピース』する写真だった。


「へ、へぇ……仲いいね……」

 自身と対照的なその写真を見て項垂(うなだ)れる天内。


「私達パーティーでも撮りましょうよ」


「なんでだよ。わざわざこんなとこで撮んなくても」


「こんなとこだから撮るんですよ!」


「はぁ?」


「みんなで外国に来たんですよ。いいじゃないですか」


「えぇ。意味あるか?」


「意味とか、そういうのはどうでもいいじゃないですか。意味はありません! 思い出作りに撮るんですから」


「マジかよ」


「マジです。ほら! 皆さん待ってます」

 小町は聖堂の出入口を指差した。




 聖堂の出入口には千秋とマリアの姿。




「あー」

 天内はマリアの姿を見て、心底嫌そうな顔をする。


「ほら行く行く」

 小町は腕を取ると引きずるように天内を出入口に促した。

 彼女は天内の背中を押し、二人の前に連れ出すと。

「お待たせしました! 連れてきました」


 千秋は快活な笑顔で。

「や! 昨日ぶり!」

 と、挨拶した。

 

 マリアは真顔で。

「ごきげんよう天内さん」

 と頭を下げた。


「……お、おう」

 マリアの顔を見て、少したじろぐ天内。


「じゃ、先輩は真ん中でいいですか?」


「お、おい」

 と、困惑する天内。


 千秋は頷くと。

「そうだね。リーダーは真ん中だ。じゃあ、副リーダーのボクはその隣で」


「桜井先輩!」

 近くに居た風音に声を掛ける小町。


「ん? どうしたの?」

 と、風音は小町の声に振り向いた。

 

「カメラ、お願いできますか?」

 と、小町は風音にカメラを手渡す。


「うん。いいよ」

 と、天内パーティーで写真を撮る事を察した風音は快く引き受けた。


「では、私は天内さんの左隣に」

 と、マリアは静かに告げると天内の横に付ける。


 小町は天内の両サイドを取られ、困惑すると。

「じゃ、じゃあ。私は先輩の前で前かがみしますね」


「これでいいの?」

 風音は、4人のポーズが決まったのかを確認する。


 小町は振り向き、『どうやらこれでいい』と感じ取ると。

「はい」

 と返答した。


「じゃあ。撮るよー。準備は良い?」

 と、風音は音頭を取った。


「お願いしまーす!」 

 と小町は笑顔でお願いをした。

 

 並びは、

 ―――――――

 千秋天内マリア

   小町

 ―――――――

 となった。 


「じゃあ。行くよー」

 と、風音はカメラを構え。



 ――――シャッター音が鳴った―――


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ