鐘の音を鳴らせ!③ 青春の一コマ
1ミリも前進してません。日常回です。
脳筋集団ヘッジメイズの連中をビシバシしごいた。
明日からは脳筋プレイで乗り切る。
自慢の筋肉で圧倒してやる。
俺は伸びをして、外に出ると。
「や!」
パーカー姿のラフな千秋が俺に向かって手を振った。
「お前ら……俺の事好きすぎじゃない?」
「な!? そんな訳ないだろ」
「ええぇ……流石に鈍感ボーイの俺もバカじゃあない。なんだよ。もしかして告白でもしに来たのか?」
「勘違いするなよ!」
ぷんすかする彼女は、俺の後ろに連いてきた。
「そうなのぉ~? 答えはいつだってノーだ。
じゃあな。さようならぁ~。ばいば~い!」
「バカにしやがって! 待てよ!」
俺の後ろをツカツカ歩いてくる彼女は小動物のようであった。
「で? なによ」
「君が全然連絡を寄越さないのが悪いんじゃないか」
「まぁ……用はないし」
彼女は苦笑いすると。
「ひどいな。君は」
「それで? 文句でも言いに来たのか?」
「文句?」
キョトんとする彼女。
「いや、なんでもない」
不思議そうな顔をした千秋は。
「あっそ」
と、一言返答した。
俺と千秋はぶらぶらと外を歩く。
俺は街の飯屋を指差しながら。
「ラーメン屋がよぉ。この街ないじゃん」
「そうだねぇ~。パン屋さんばっかり」
「定期的にさ。米と麺は接種しないと元気でないよなぁ」
「わかるぅ~。パンだけじゃ物足りないよね!」
「美味いよ。確かに。パン。けどさぁ。そうじゃないんだよな」
「わかるよ。うん凄くわかる。そうじゃないんだよねぇ。なんだか物足りないよね」
2人して、うんうん頷く。
「栄養素はさ。多分似たようなもんなんだよ」
「そうだねぇ。うんうん」
「「けど違うんだよなぁ」」
お互いハモッた。
俺は思い出したかのように。
「あ。そういや。最近出たモスのチーズ照り焼きバーガー。
馬鹿うめぇぞ。アレ。びっくりしたわ」
千秋は興味津々で。
「ホントに!?」
「マジマジ。今度行こうぜ」
「行こう! いつ行く?」
「また連絡するわ」
「うん! 待ってるよ」
「おっけ~」
と、俺は指で丸を作った。
千秋は。
「モスは通常のノーマルも美味しいよね」
「わかる! トマトのさぁ。あの瑞々しい感じが旨いよな」
「だけど高いよね!」
「そうなんだよ。マックより高いんだよな」
「ちょっとお小遣いに余裕がある時しか食べれないよ」
「あれさぁ。知ってか?」
「なに?」
「モスのバーガーを1人で3個買うと、店員に止められんだよ」
「なんでぇ?」
「『お客様! 破産しますよ!』って止められんだよ」
「んな訳ないだろ! ウソツケ!」
と、彼女はツッコんだ。
「ウソではない」
目を丸くした彼女は。
「ホントに?」
「ウソ」
「ウソじゃないか」
と、千秋は再びツッコみを入れるとお互い笑い合う。
2人して、橙色に包まれた街中を歩く。
「あとさぁ。この街、全部オレンジ色のライトばっかで、なんかやだなぁ」
「え~、なんでよ? 綺麗じゃんか」
「俺はね。シティボーイなの」
「都会人ぶって」
俺はチッチッチッと指を振る。
「わかってねぇな」
「はぁ? どういう事さ」
「蛍光灯は白! 光は白! これがいい! 理由はわかるかね? 千秋くん」
「わかんないよ。好みの問題だろ。ボクは暖色の方が好きだよ。落ち着くもん。みんなもそうじゃない?」
俺は『はぁ~』と大きなため息を吐くと。
「なにさ」
「千秋のさぁ。お宅は暖色で固めてたりする?」
「そうだねぇ。比較的」
「それ。埃とかめっちゃあるから。きったねぇ~」
「なんでだよ! 掃除してるよ!」
「皆そう言うんだよ。
暖色にするとさ。
汚れが目立たなくなるんだよ。
お前の家、多分汚れてるぜ」
「いや、だから掃除してるって! 見に来いよ!」
「行かねぇよ。ハウスダストになったらどうすんだよ。俺喘息持ちだもん」
「ウソツケ!」
「ほんまだが?」
「ホントに!?」
「ウソ」
「またウソじゃないか!?」
「間抜けは見つかったようだな」
「意地の悪い奴だ」
俺は話題を切り替えるかのように。
「そういやさ。1億あったらなにする?」
「お金があったらの話? 突然だねぇ」
「会話に意味なんてないだろ」
「まぁそれもそうか」
「そうそう」
「う~ん。大金だなぁ~。なんだろう?」
千秋は考え込んだ。
「じゃあ。俺にくれ」
「待てよ。考えてるだろ」
「じゃあ。俺が銀行員のマネするね」
「うん。いいよ」
俺は銀行員のマネをすると。
「彩羽さん。なんと、1億円当選しました! ハイどうぞ。札束ボン!」
と、ジェスチャー込みで演技した。
「う~ん」
「断っときます? 大金だろうけど。今回はごめんなさいしときますか」
「待って。え~っとね。大きい家を建てる!」
「どこに建てます?」
「えぇ~っと。どうしよ。実家の近くかなぁ」
「そうか。うんうん。自分の為に使うのか」
「まぁね。家は大きい方がいいしね。
おっきい家で犬は一匹がいいな。
庭も広くて、趣味で畑でもしようかな」
「屋上にさ。バスケットゴール設置しようぜ」
「屋上があるタイプなんだね」
「そうそう」
「う~ん。いいけど。傑くんの趣味なの?」
「まぁね」
「まぁ。じゃあいいか。結構大きい家になるね。1億で足りるかなぁ」
「足りる設定で行こう」
「あぁ~。そうなんだ。後付けじゃない?」
「じゃないじゃない」
「ふ~ん」
「じゃあ。千秋は屋上にバスケットゴールが付いて、庭の広い家ね」
不服そうな千秋は。
「あ、うん」
「ちなみに俺はハチャメチャに散財する」
「貯金しないの?」
「しない。絶対にしない」
「何に使うのさ」
「募金。恵まれない国の人々に募金する」
「ウソツケ」
「千秋はさ。お金を自分の為に使うじゃん。
俺は、他人の為に使う。
うっわ~。人間性出ちゃいました?」
「ボクが心の狭い奴みたいじゃないか!」
「違うの?」
「違う! ボクの心は太平洋のように広いぞ」
「太平洋のように広い心の持ち主が、
バスケゴール付きの家建てるかねぇ?
そんなの無くてもいいじゃん」
「な!? それは君が欲しいって言うから」
「俺は提案しただけ」
口を尖らせた彼女は。
「そ。そうだけど」
俺は思い出したかのように。
「あれ? そういや」
「どうしたの?」
「自称心の広い千秋くんは、何しに来たんだっけ?」
「え? いや。特に……ちょっと近くまで来たから喋ってあげようかなって」と、モジモジし出す。
「ありがとーございまーす」
千秋は『えっへん』と威張ると。
「寂しい奴だからな君は。どうせ孤立してると思ったんだ。違うか?」
「正解!」
クククと彼女は意地悪そうに微笑むと。
「だろうね!」
「傑くんはこれから?」
「今から1人焼肉でも行こうと思ってた。お前も来るか?」
「うん! 行く行く!」
他愛のない日常の会話。
青春の一コマであった。




