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終わりに向かう者 と 始まりを迎えた者



 ヘッジメイズ宿舎の一室で、俺は高性能メイド:フランを招き入れていた。彼女は俺の肩を揉んでいた。彼女の手は冷たく無機質だが、その動作には精密さと効率が感じられる。


「いやぁ~。フランはいいねぇ。君が一番安心する!」


「おっほ!」

 フランは奇妙な声を上げる。


「どうした?」 


「い、いえ。何でもありません。少々興奮してしまいました」


「興奮?」


「いえ。なんでも。お褒めに預かり光栄至極に次第です」

 と、機械的に答え再び静かに肩を揉み続けた。


「お、おう」


 奇妙な奴だ。コイツは胡散臭いし。

 勝手に俺の身体に改造を施したりしてるし。

 残虐非道な性能を誇る。

 しかして。

 とても優秀な人造人間であり俺のイエスマン。


 オホンと軽く咳払いをして本命の話題を聞き出す。

「じゃあ、本題だ。頼んでいた情報を教えてくれ」


「かしこまりました」

 と、彼女は資料を取り出した。


 ・

 ・

 ・


 フランに頼んでいるのはこの親善試合での相手校の能力分析だ。

 マホロ生は知っている。

 それ以外のモブ学園の連中の情報が全くないのだ。


 今回、俺の立ち回りをどうしようか考えていた。

 まず、親善試合中に荒事を起こす。

 それは考え中。

 ここは敵の本拠地。

 慎重に慎重を機する必要がある。

 では、先に親善試合を終わらす必要があった。

 目立たぬようにモブムーヴもいいが、俺は既にマホロから脱退している。しかし、ヘッジメイズ生としてはそれなりの好成績を残す使命もあるにはある。


 色々思案していたが。


 そんな折、マリアの奴が俺に宣戦布告してきた。

 

 どうやら香乃の奴がゲロったらしい。

 俺の正体を本格的にバラしたようだ。

 色々条件は付けてきたが。

 「いいだろう挑戦を受けてやる」

 つまりこんな感じになった。


 組織の裏工作を活用すれば、現時点で全てを振り切ってぶっちぎりで勝利を確定させる事も出来る。だが、それは流石に俺のなんちゃって騎士道精神に反する。いや。違うな。どの道、俺の終わりが近いなら。最後の機会に彼らの成長を見届け、挑戦を受けてやろう。と、そう思っただけ。

 

 ・

 ・

 ・

 

 フランは詳細なデータを取りまとめると報告を続けた。

「現時点でアマチさんの障害になる者は居ないかと」


「なぜそう言い切れる?」


「そもそもご主人様が『あの姿』を使えば、単騎で勝利できると容易に想像が尽きます」

  

 驚いたな。


「あの姿? もしかして究極俺(アルティメットアマチ)の事?」


「はい。私の魂である最上位種の魔物。あれの討伐時に披露されていた威光を示せば杞憂する必要すらないかと」


 俺は苦笑いを浮かべながら。

「へぇ。記憶あるんだ?」


「ええ。私をお創りに成った際にも使用されていましたから」


「あれはやんないよ」


 フランは少し驚いたような顔をし。

「はて? そうなのですか?」


「風音と一騎打ちした時もしなかった」


「差し支えなければ、それはなぜでしょう?」


「まぁね。色々あるんだけど。ホイホイ簡単に出来る代物じゃない」


「そうなのですか?」


「そうそう。ただでさえ少ない寿命をさらに削ったしな」


「確かに。言われてみれば、あの時と比べると魂の輪郭に綻びが出ています」


「死霊術が使えるフランにはやはり視えるか」


「言われてみればと言った所なので、確証はありません」


「そっか。あれを使った後に気づいたよ。あれは出来てあと2回……いや1回ぐらいと見積もってる。全く勘弁してほしいぜ」


 フランは軽く頷きながら。

「ほう」

 

「それにアレはダンジョンをぶっ壊す為に用意してあるものなの。学生相手にやるには、あまりにも卑怯(チート)すぎる」


「しかし、そうなると戦力バランスが少々変わってきますね」


「うん。それが聞きたいのよ。俺は」


 彼女は宙を見つめ少し考えるような仕草をした後。

「では、最も障害になるのは間違いなくマホロ生でしょう。

 風音を筆頭に、生徒会勢は厄介な相手になると分析致します」


「それはわかるよ。あそこが多分頂点だろうなとは思っている。それ以外は?」

 

「それ以外ですと。やはりその他学園の筆頭各位は厄介な存在になるかと」


「へぇ。モブなのにやるじゃん。千秋何人分ぐらいの戦闘力よ?」

 俺は戦闘力を測る指標として千秋を引き合いに出した。


「……千秋様と同等程度の力量が『1』という事でよろしいですか?」


「そうそう。理解が早くていいね」


「予測で構いませんか?」


「いいよ。フランの私見で」


 『では』と枕詞を付けると。

「まず、サンバースト筆頭各位は、それぞれ0.7千秋様、それと1.3千秋様程度でしょうか」


「ほう。中々やるな」


「聖教会筆頭各位は……」

 と、つらつらと『クイズ! 『戦闘力:千秋何人分?』』を解答していった。


「ちなみにフランは?」


「そうですねぇ……1.7千秋様でしょうか」


「ほう……」

 という事は、小町の奴は0.7千秋程度の実力になっているという事かな。


 ・

 ・

 ・


「ああ。そうそう」

 ふと、思い出した。

 この質問をしなければならないだろう。


「いかがしました?」


「今後さ」


「はい」


「勝手に呼び出して、勝手に居なくなって悪いんだけどさ。俺が居なくなった後、フランはどうする?」


 彼女は穏やかな笑みを浮かべると。

「ご配慮ありがとうございます。決して御謝りにならないで下さい」


「本当に悪いね」


 フランは笑みを浮かべながら頷くと。

「その後の事は模索中です。希望としましては香乃様にお仕えしようかと。もしそれが叶わないなら。『人』としての生を探す旅にでも出てみようかと考えています」


「そうか。そうしてくれ。うん。それがいい」


 安心したよ。本当にね。


「かしこまりました」


「君の人生は始まったばかりだ。ようやく穴蔵(ダンジョン)から出られたんだ。()()()()()は沢山の人に愛されるように生きて欲しいと願っているよ」


 フランは俺の言葉を胸に刻むように深く頷くと。

「肝に銘じます」

 と、だけ言ってくれた。


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