復讐の旅路
/システリッサ視点/
祖国のために……
この歩みを止める事など出来ようはずがない。
魔人を殺した。
裏で糸を引いていた者を殺しても心が晴れなかった。
機を狙い続けた。
復讐を果たすだけの人生。
その意味を自身に問うた時。
「まだ、粛清しなくちゃ」
真実を聞き、さらに憎しみの炎が沸々と湧き上がる。
お父様に罪を着せ。
お母様の首を晒し上げた。
お姉さまも……
みんな死んでしまった。
みんな居なくなった。
国を焼き払った帝国。
それに加担した連邦と海洋国家。
利権の為に動いた者達。
それは魔の物だけではなかった。
大勢の者が加担していた。
最も悪しきモノは人の皮を被った魔人ではない。
人だ。
人の悪しき欲望だ。
決して赦しておく事など出来ない。
できようはずもない。
たとえ、この命が消えようとも、必ず息の根を止めて見せる。
誰一人赦す事など出来ないのだから。
「たとえ、その道が正道じゃないとしても……」
言葉とは裏腹に脚が震えた。
揺らぎ始めている。
憎しみの信念が。
頭の中が混乱していた。
言い聞かせねばならない。
言い聞かせなば復讐の炎が消えてしまう。
生きてきた意味を失ってしまう。
・
・
・
―――鐘の音が響き渡る―――
目の前にはシステリッサが居たのだ。
そういやコイツ。
聖堂の中には居なかったな。
「私と踊って頂けます?」
純白の中に深紅の装飾が施されたドレスを身に纏うシステリッサ。
金糸で刺繡された衣装はゲームの設定集のみで見た事がある。
彼女の祖国の伝統を重んじる装飾と刺繍が施されている。
そんな彼女は俺に手を差し出した。
疲労の隠せないシステリッサの顔。
目の下に隈が出来ているし、頬がこけているように見える。
好き嫌いのない『ご飯は沢山食べる派』の彼女では考えられない。
目が潤んでいる。
何かに縋るかのような雰囲気。
「喜んで。お姫様」
と彼女の手を引くと腰に手を回す。
ワルツを踊る。
俺は天才なので、先程見た動きを真似ていく。
徐々に脳が思い描く動きと実際の身体の動きが調和していく。
擦り合わせによる微調整。
―――月明かりの下―――
大聖堂の中庭は幻想的な雰囲気を醸し出していた。
中庭の広場には古代の石碑や優美な彫刻が立ち並ぶ。
聖堂の雰囲気を壊さぬよう随所に白い花が咲き誇る。
彼女のドレスの裾は地面に広がり、金糸が月明かりに煌めいていた。
ただ、静かに聖堂から響き渡る音色に合わせていく。
優雅で洗練されたシスのステップ。
俺もそれに合わせるようにリズムに乗った。
ワルツの旋律が大聖堂に広がりを見せる。
音色は静寂に溶け込みながら月の光に照らされた。
システリッサは顔を上げると。
「以前にも経験が?」
「さっき覚えた」
彼女は、フッと微笑むと。
「御冗談が上手ですね」
「マジだけどな。
なんなら現在進行形で学習中。
間もなくトップダンサーになれる」
少しだけ頬を緩めると。
「そうですか……」
「そうそう。信じられんかもしれんが俺はモブ界でも一目置かれる男なんだ」
そんな冗談は軽く流される。
しばらくの沈黙。
「中姉様の予言……」
彼女は自身に問い掛けるように呟く。
「?」
彼女は何かを確かめるように静かに口を開いた。
「天内さんは沢山の笑顔に囲まれています。羨ましいです」
「?」
突然どうした。どういう意味だ?
「私が望むもの。望んだ姿。望んだ光景。見たかった景色。貴方はいつもその中心に居るような気がする」
「は、はぁ」
要領を得ないな。
「天内さんは詩を読みますか?」
「いや」
なんだか話題の切り替えが早い。
彼女は自分の言いたい事を言ってるだけのような気がした。
「これは、最近読んだ詩の話なのですが」
システリッサの話す詩の内容。
比喩と暗喩表現で誤魔化されていたが。
まんま彼女の生い立ちであった。
1人の少女が家族の仇を討つ話。
要約すると。
少女は復讐の旅路の中で出会った仲間と過ごす内に安らぎを感じたのだそうだ。復讐を誓ったにも関わらず、仇敵を前にして引き金を弾く事を躊躇ってしまう。
そんな内容。
現在進行形でシステリッサ自身の事を言ってるのだ。
「復讐を誓う彼女はその後どうしたと思います?」
「……」
超絶重要な選択肢が突然、飛んで来たな。
風音の野郎。コイツのメンタルケアを怠ってやがったのか。
頭を抱えた。
いや……俺もコイツを放置しすぎたな。
マジで戦闘能力だけじゃ物語を攻略出来ない事を再認識した。
ど、どうする?
復讐者システリッサになればバッドエンドだ。
時と場合によっては俺の手でコイツを殺めねばならない。
風音の野郎では絶対に出来ない。
断言できる。
俺は今、物語最大の分岐点に立っている。




