序列1位
/天内視点/
こっそりヘッジメイズの宿舎を抜け出した。
「チッ。居場所がねぇ」
女の園に放り込まれた俺は居た堪れなくなった。
群衆の中の孤独を散々味わったのだ。
はっきり言おう。
男が居ないという特殊環境が特に嫌なのだ。
「面倒な事に巻き込みやがって」
俺は悪態を吐きながら市街に逃げ込んだ。
石畳の街道はランタンの淡いオレンジ色の光でライトアップされている。
中心地に位置する大聖堂の尖塔は輝きを放ち、遠くからでも一際目立っていた。
歴史と伝統が支配する街に近代的な建物はなく、
意図的に中世の雰囲気を意識させるような街づくり。
昼間の活気とは異なり、夜のプライマは静寂が支配している。
「やべぇな。なにもないぞ」
国柄なのか、飲み屋街なども発見できない。
トウキョウの近代的な街並みに慣れ親しんだ俺にはややキチィ環境。
俺は根っからのシティボーイなのだ。
礼拝を終えた聖職者や市民たち。
家路につく彼らとすれ違う。
―――鐘の音が遠くから響く。
しばらく歩くと、ワイワイと騒がしい前時代的な飯屋を発見した。
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俺はそこで初対面の男共と知り合いになったのだ。
名はアドリアンとエリックの2人。
アドリアンは端正な顔立ちをした美丈夫だが、ヒノモト製作のアニメ『ドキドキ魔法少女萌えピー』をこよなく愛する外国人アニオタである。インナーのTシャツがアニメ柄であった。
エリックは金髪オールバックの男である。イカしたサングラスを掛けた不良聖職者だ。顔の全容は見えないが男前だと思う。一人称『俺様』の変わった奴である。
どことなくガリノとニクブに似たそいつらと意気投合するのは早かった。
クソみたいな会話を繰り広げられ。
しばらく飲み食いをした後。
始まったのは果てなきマウント合戦。
お互いムキになっていく。
主題は『誰が一番飯を食った事があるか』
飯を食った量で誰が一番偉いか?
それを決める戦いが始まっていた。
きっかけはこの一言であった。
「自分は肉を5キロ食った事がありまする。地元では負け知らずである。腹が空いて仕方がない!」
重低音の効いたオタク特有の早口でそんな事を述べるアドリアン。
「俺は前菜で3キロ食ったけどね。
副菜で2キロ。主食で10キロ。
それで腹ペコだから。あー、腹減ったぁ~」
エリックは。
「ふ~む。俺様は牛1頭食った。しかも1食。朝、昼しっかり食った後に食った」
「ぜってぇ嘘じゃん。子供の嘘じゃん」
「盛り過ぎですな。それは」
「ウソではない」
「キッズじゃん」
「もうやめてくれませぬか。そういう嘘は」
俺とアドリアンがエリックに追撃を加えるとエリックが。
「そもそもアメェウチとアドォリィオンらすら信憑性がない。オオホラこき共め」
沈黙。
お互い、頬をピクピクさせる。
お互いの意地がぶつかり。
「決めようぜ。誰が一番最強か……」
俺は提案したのだ。
「望むところである」
「俺様に勝てるとでも?」
目の前には山のような量の揚げ鳥。
―――フードファイトが行われた―――
「旨い! 美味いぞ! 全部俺のもんだ!」
俺は揚げ鳥を口の中に放り込む。
わんこ蕎麦のように胃に流し込んだ。
「何個でも! 何個でも! 行けるぞ! うおぉぉぉぉ!」
アドリアンは両手一杯の揚げ鳥をむしゃむしゃと頬張る。
「俺様の胃袋は宇宙だ!」
エリックはどこぞのフードファイターのように意気揚々と宣言する。
3人が3人全員の様子を伺いながら肉を食い続けた。
『早くぶっ潰れろ』という意思を込めて。
俺は意地を見せる。挙手すると。
「おばさん! もう一皿!」
頼む潰れてくれ! と願った。
アドリアンは顔を引きつらせ、俺に続いて手を挙げた。
「自分も! 自分もお願いしまする!」
う、嘘だろ!?
エリックは眉をひくつかせると。
「な!? 俺様もだ!」
おばちゃんの「あいよ~」という返事と共に、山盛りの揚げ鳥が目の前に置かれていった。
全員冷や汗を掻きながら。
食い続けた。
そして結末は突然訪れる。
全員同時。
同じ枚数の皿を手に取った瞬間。
揚げ鳥を吹き出してぶっ倒れたのであった。
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/3人称視点/
小町はスマホを見ながら。
「サンバースト士官学校はどなたが有望なんですかね?」
千秋は静かな声で。
「アドリアンとリリーだろうね」
「へぇ~」
小町はプロフィールを確認した。
サンバースト士官学校の有力騎士と魔術師の年齢が20歳と22歳であった為、純粋に疑問を口にした。
「そういや年齢はマホロの学生と違うんですね」
男子生徒の一番上。
筆頭騎士の名はアドリアン・ウォルバク。
筆頭魔術師は女生徒のようではリリー・デュポナ。
と記されていた。
「学校といっても士官学校だからね。年齢は関係ないよ。あそこは実力主義だから」
「詳しいですね」
千秋は過去を思い出し、含みを込めて。
「まぁね……」
「カリアティード聖教会はどうでしょう? あまり馴染みはないですが」
筆頭魔術師はエリック・クライシス。
筆頭騎士はセリーナ・アリエル、と記されている。
「う~ん。わからないなぁ」
千秋は純粋に意見を述べ。
「とはいえ、一番ヤバいのは彼らじゃないけどね」
と付け加えた。
「あー。そうですね」
千秋は良く知ってるヘッジメイズの代表選手、『天内傑』の名を指差したのだ。
「ボクの予想ではこの人が一番ヤバいよ。多分誰よりも厄介だ」
「同感です。嫌な雰囲気を感じます」
呆れたように顔を見合わせた。
よく知ってるソイツ。
彼の実力を誰よりも知ってる彼女ら。
知人であるが故に、その異常性を熟知していた。
「巷ではマホロの優勝が囁かれてますが、そんな簡単にいくと思います?」
「いかないんじゃない? 少なくとも彼が立ちはだかる」
「先輩のことですね」
「うん。しかも今年のサンバーストとカリアティードの筆頭魔術師と騎士はマホロ生と見劣りしない。彼らも才人の中の才人だと噂されている。そもそもこの2校は軍事的に秘匿機関だし、殆ど情報が解禁されていないしね。比べようがないってのが本音じゃないかな」
「そうなんですか?」
「そうだよ。マホロが異常なだけってのもあるけど……。
でも。ボクらも含めても彼の異常性には及ばない。
まぁ本気を出したらだけどね。傑くんは気まぐれだから」
「ちょっと……どころか、かなり変わってますもんね」
「うんうん」




