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生と死の境界に立つ者

 

/3人称視点/


 天内の意識が断線すると。

 突然暗闇になった。

 

 ―――――――

 ――――――

 ―――――

 ――――

 ―――

 ――

 ―


(く、苦しい。息が思うように出来ん。

 な、何かが俺の呼吸を邪魔している……

 何か乗っている……重い。

 苦しい……た、助けてくれ)


 天内は悪夢から目覚めたかのように。

「がっは!?」

 と起き上がった。


「うお!?」

 という驚きの声と同時に頭をぶつけた。

 

「「いっっってぇ~」」


 同じ反応をして額を抑える。

 

 天内の霞んだ視界が晴れてくると。

 視線の先には額を押さえ(うずくま)る香乃。


「なにこれ? どゆこと?」


「目覚めたと思ったら……こっちが聞きたいぐらいだ」


「あれ……俺。男に戻ってる」

 パンツの中を確認する。

「あ、ある。つ、付いてる。ついてるぞ。香乃! 俺は付いてるぞ!」


「当たり前だろう! 

 わざわざそんな報告をするな! 

 そんな汚いものを見せつけるな!」


 下半身をさらけ出した天内は腕組みをした。

「いや、待てよ。俺は死んだはずだ……もしかして。ここは死後なのか?」


「は、はぁ?」


「あ~なるほど。そうかそうか。お前も死んだんだな香乃。ドンマイ!」

 と肩を叩いた。


 顔を赤らめた香乃は。

「お、おい。こっちに近づくな!」


「死んだ後もお前とツーマンセル組む感じなのか。

 話しやすい奴が居て良かったわ」


「お前はさっきから何を言っている?」


「とりあえずお前の死因は何? 

 階段で頭でもぶつけたか?

 飯の食い過ぎでゲボでも詰まらせたか?」


「お、お前……」

(デリカシーなさすぎだろ)


「死んでいませんよご主人様。お目覚めのようで。ご健勝のほど何よりです」


 香乃は背後から投げかけられた言葉に瞬時に反応する。

 

「何者だ!?」

 手元にあった鉄剣を持ち戦闘態勢を取る。


「お初にお目にかかります。ご主人様のご主人様。(わたくし)、フランと申し上げます」

 フランはスカートの端を摘まみ、頭を下げた。


「ご主人様……だと?」


 香乃はフランの全身を観察した。


(なんだ? この異様な雰囲気)


「お前。何人殺した?」


「さぁ? 覚えていませんわ」


「否定はしないか」


「そうですね。事実ですもの」


「死臭を全身から放っている。

 血の通っていない能面のような顔。

 お前、人ではないな?」


「そうですね。厳密には」


「厳密には? おかしな(げん)だな」


「人として生きるように命じられています。

 いいえ。私がそれを望みました。

 私は……私自身を人だと思っているという事です」


「命じられている? 

 生気をまるで感じない。

 お前。分かりづらいが、

 その黒いドレスには(おびただ)しい血が染み込んでいるな?」


「入念に洗濯はしてきたのですが……そこまで見破りますか。流石ですね」


「隙のない身のこなし。内なる邪悪が全身から溢れ出ている。見紛うはずもなかろう」


 天内は良からぬ雰囲気を感じ取り。

「ま、待て。香乃」


「邪魔をするな。これはマズイ……早くお前も臨戦態勢を取れ。コイツ中々やるぞ」

(ダンジョンの深奥に潜む魔物と同等……いや。それ以上の脅威だ)


「手合わせをご所望の所、申し訳ございませんが。

 客観的に意見を差し上げますと……」


「?」


「私ではご主人様のご主人様である香乃様には勝てませんわ」


「は?」


「私はそれはもう、本当に強いのです。

 ご主人様がお造りになった最高傑作。

 それでも勝てません。

 身の程は弁えていますとも」


「先程から主人とは……どういう意味を指す?」


「どういう意味もなにも……ですよね? アマチさん」

 フランは天内の方を向くと。


「香乃。なんか1人で楽しそうにしてるとこ悪いんだけど。

 俺だよ俺。オレオレ。フランは俺が造った最高傑作の人造人間18号」


「は?」


「フランよ。状況確認がしたいんだが。いいか?」


「かしこまりました」


「え? は? どういう事だ?」

 香乃は目を丸くすると天内と目を合わせた。


「俺は死んでない?」


「死んでいません」


「ふむ」


 状況を把握できない香乃は困惑した。 


 ・

 ・

 ・


 香乃は唾を飛ばしながら。

「馬鹿者! お前本当にやりやがったな」


「最初から計画は包み隠さず言ってたじゃん。落ち着けよ」


「人魔の創造。お前がやった事は恐ろしい事だ。理解しているのか? 倫理にも劣るぞ」


「いいじゃん。なぁ?」


「はい。仄暗いダンジョンからの解放。

 これが生きるという喜び。

 それを日々実感しております。

 本来ダンジョンで捨てられていくはずだった私。

 そんな私に生を授けて頂いた事が本当に嬉しいのです」


「ほら、本人も満足そうだ」


「どうやって出した? ダンジョンからこの世界に魔物を!」


「そんな事言われてもなぁ。元から出てた奴を活用しただけだし」

 

 魔女の死体を活用しただけなんだけどな。 

 あと、ダンジョンに住んでた魔物。


「はい。死体のリサイクルはエコですものね」


「そうそう。時代はリユース ・リデュース ・リサイクルなのだ」


「環境に良いですものね」


 俺は指を鳴らすと。

「そう。環境の配慮は大事だ。使えるモノは使って行かないとな!」


「素晴らしいです!」


「ハハハ。あまり褒めるな」


「よ! 世紀のマッドサイエンティスト!」


「おいおい。照れるなぁ……もっと言って」


「こ、コイツら……勝手な事ばかり」


「香乃様。私は『物』から『人』となったのです。

 この現世という表舞台にすら立つ事を許されなかった。

 世界から捨てられたはずの存在。

 そんな矮小な存在は人として成ったのです。

 私は天内さんの忠実なる従者。

 どうかご心配なさらず」


 俺はオホンと咳払いし。

「つまりそう言う事」


「説明になってないぞ!」


 という香乃の立腹を受けた後。

 フランはどこから出したのか知らないが、

 野営地にティーセットを用意したのであった。


 彼女は今までの出来事を述べた後。

「という訳です。どうぞ」

 フランは今までの出来事を俺に告げ、俺らに紅茶を差し出した。

  

 俺はアチアチの紅茶を啜りながら。

「ほうほう。聖剣に殺されたとこまでは俺の記憶に相違ない。で? なぜ俺は今この身体で蘇った?」


「まず。初めから説明させて頂きます」


「おう。頼む」


「私の高度な頭脳が弾き出したのです。

 何度もタイムトラベルを行うには今のアマチさんの身体には負荷が強すぎて耐えられないと演算しました。万が一の事故を考慮しました」


「ええぇ。そうなの?」

 俺は香乃の方を向くと。


「……かもしれん」


「死霊術により魂を転写した傀儡(くぐつ)と頑丈な私ならタイムトラベルに耐えられる。

 現在の身体であるご自身の肉体を『たいむかぷせる』として未来に送る。

 これが最適解だと弾き出しました」


 香乃は眉を顰め。

「魂の転写だと? 生者にそんな事はできない。そんな事は聴いた事がない」


 フランは同意するように。

「通常なら出来ません。この秘術はアマチさんにしか出来ません。ですよね?」


 考え込む。

 

 いや、出来るかもしれない。

 俺の魂の本質は転生者。

 一度死に、こちらに来た。

 半分死人のようなものだ。

 

 死と生が曖昧なのかもしれない。


 無機質なフランの顔。

 彼女の赤い目が輝き、俺を見つめていた。

 

「見抜いているのか? 俺の本質を?」

 コイツは転生者であるという事を見抜いているとでも?


「全てはわかりません。魔物から生み出された私はアマチさんを初めて見た時に感じました。アマチさんが唯一無二の特別な存在である事を」


「ふむ。まぁいいか。続けてくれ」


「はい。ご存じの通り、魂を転写した傀儡は機能停止しました」


「ああ。そうだな」

 聖剣に背後を取られ死んだと思った。


「機能停止後、本体である現在のご自身の身体に魂が舞い戻ったのです」


「まぁ。なんとなく話の流れからそんな気がしてたわ。で? なんで俺の身体……人形を女にした訳?」


 フランはさも当然のように。

「私が両刀使いですので。テヘッ」

 舌を出して微笑んだ。

 

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