覚醒主人公
俺と風音との戦闘が開始されていた。
正直な話。
客観的に俺とアイツをステータスで比較した時。
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天内
筋力: C
魔力: C
耐久力: C
知恵: C
技量: A++
敏捷性: A++
総獲得スキル評価: C
総獲得アーツ評価: C
その他
運命力: C
組織力: EX
装備評価:F ~ EX
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風音
筋力: A+
魔力: A+
耐久力: A+
知恵: C
技量: A
敏捷性: A
総獲得スキル評価: A~S
総獲得アーツ評価: A~S
その他
運命力: S++
成長性: S
装備評価(聖剣):S+
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こんな所だろう。
組織力ってなんだよって話だが……
単純スペックを比べた時。
剣技と速さなら俺の方が上。
それ以外は全部風音の方が上。
特に火力に関して言えば。
「一撃でもまともに受ければお陀仏」
超高火力の熱線に当たれば肉体は消し炭になる。
風音の持つ聖剣の最大出力は山すらも削り取るからだ。
弾幕を撃ち込み続け、一帯に粉塵が舞った。
様子を伺う……ほぼ無傷。
タイマンでの勝負。
性能値なら俺の方が圧倒的に不利。
「成長性S。伊達じゃねーなオイ」
正直採点などしている暇すらない。
問答無用で強い。
俺の汎用技が究極の一撃に飲み込まれていく。
「その技は通じないよ」
風音の眼がギョロギョロと動くと。
エクストラバレットの猛攻を紙一重で回避し相殺していく。
「僕には……一度見た技は通じない」
「へぇ」
知ってるよ。
覚醒風音のエクストラスキルの一つ。
一度見た技を理解し見切る。
『完全理解』。
覚醒風音に被弾する二度目以降の攻撃。
それらの命中力、ダメージ量が半減していく。
二度目で5割カット。
三度目で7.5割カット。
四度目で8.75割カット。
……
さらに。戦いの中での急激な成長。
『超自動学習』
自身に耐性付与をし、強化し続ける自動エンハンス。
とんでもない能力のチート野郎。
主人公風音。
これに踏まえてインチキ性能をまだまだ保持してる。
全くとんでもない強さだぜ。
これでレベルマックスじゃないんだからな。
俺は間合いを詰めようとする風音に向かって。
「鬱陶しい!」
風音の頬に細剣を切りつけた。
追撃で思い切り上段蹴りで無理矢理引き剥がす。
「チッ」
風音の舌打ち。
「僕は既にお前を超えている」
「なに?」
「最早お前は脅威ではない。
僕は強くなりすぎた。来いよ」
人差し指を使い挑発された。
俺はクククと笑みを浮かべた。
「素晴らしいよ。最高だ……」
「負け惜しみか?」
「まだ採点は終わっていない。
さぁ! この私を楽しませてくれ」
「参る!」
剣戟がお互いの間を埋める。
お互い再度鍔迫り合い。
「やらないのか? さっきの光線」
「使うまでもない」
「ほう。随分余裕だな」
近距離『星の息吹』は致命傷どころか死一択。
必殺になりうる。
しかし、それを打ってこないという事はわかりきっていた。
魔力の大部分を消費するあれはそう何度も打てる代物ではない。
魔力を練りクールタイムに入っている。
「ならば!」
俺の披露する超高速の剣技。
音速を超える刺突の数々を披露した。
「クッソ」
風音は防御耐性に入る。
一手目。風音の肩に刺さった。
―――見切られていく―――
二手目。紙一重で避けられる。
―――回避される―――
三手目。完全に防がれた。
―――無力化された―――
単純な刺突は見切られた。
3度目で完全に対処されるなら。
次は、点の攻撃でなく。
線を描く斬撃に切り替える。
「いいぞぉ! この私を超えるか! これはどうかな」
炎を纏った剣を振るった。
紫電を帯びた刺突を放つ。
風塵を纏う剣閃。
様々な魔力を付与する。
―――こいつに二度目はない。
苦悶の顔の風音は。
「技の多彩さでお前の右に出る者は居ない」
俺は意気揚々と。
「こんなものではないぞ」
剣から槍に切り替えた。
多種多様な武器に切り替える。
加えて、先程と同じように魔力を付与し風音にとって初見の技を披露する。
―――見切られていく。
持ちうる様々なアーツを駆使する。
態勢を変え、思い描く無数の組み合わせ試行する。
風音にとっての初見の技。
―――学習されていく。
俺の唯一の長所である手数の多さで対処する。
しかし。
攻撃を撃ち込む度に俺の手数が減っていく。
―――戦いが進むにつれて俺の攻撃が効果を失っていく。
「いいぞぉ!」
―――さぁ。この俺の全て学習しろ。
「何を笑っている!?」
風音の真剣な顔と対比し俺はニヤニヤと笑っていた。
―――俺の全てを盗み、見切り、全てを超克するのだ。
―――この俺を踏破して見せよ。
「だが……少々。気が変わった」
「なにをする気だ?」
この魔人や終末すらも超え得る主人公に対して。
「挑戦してみたくなった!」
俺の技量。
時間を掛けて手に入れた俺のゲーマーとして培った知識。
鍛錬のみで手に入れた技の数々。
プレイヤースキルの数々はこの短時間で風音に継承されるだろう。
俺は小声で。
「お役御免かな」
と呟いた。
だが、この俺の持ちうる能力が……
どこまでこの最強主人公に通じるのか試したくなった。
これは単なるプライド。
「さぁこれはどうだ!」
より練度の高い一撃を風音の膝関節である急所を狙って撃ち込む。
据わった目の風音は。
「なにかしたか?」
「な!?」
驚愕したのは俺だ。
今の一撃は無効化されたからだ。
俺の眼は見逃さなかった。
高速世界でも知覚できる思考は確かに観測した。
風音に放った突き。
急所に狙った一撃。
それは寸での所で阻まれた。
空間が歪み刺突が外れた。
急所への軌道が僅かに逸れたのだ。
俺の挙動が若干遅れ、手に痛みが走った。
さらに空間が俺の一撃を阻んだ。
考えられるのは……
『時空間魔術』による攻撃のスキップ。
『主人公補正』。
『運命の女神の加護』。
時空間を操る魔術による絶対的防御と運命力の乱数調整か……
言い換えよう。
『主人公は物語の終盤まで絶対に死なない』
『主人公には運が味方する』
『敵方には不利な運命が定めれらる』
このある種物語の法則のようなものに阻まれた。
つまり……この世界の秩序。
宿命とさえ呼ばれる大きな流れが。
風音に味方をし、俺を敵と認識している。
物語の主人公は運命に強く守られている。
流石だな。
これはとんでもない。
「フ」
愕然とするほどの力量差が出始めている事に空笑いしたのだ。
「まやかしの剣など僕には通じない。本物には決して届かない」
「……かもな」
高速の攻撃は未だついてこれていないが。
奴は眼で俺の動きを追い始めている。
風音の頬に付けた傷が自己再生していた。
目に視える速度での異常な回復。
パッシブスキル『天性の肉体』が発動している。
圧倒的な耐久と回復力。
いよいよ最強格になってきたな。
「面白い肉体だ」
「僕は強い。お前なんかよりも……魔人も終末も僕が全員倒す。決めたんだ。全員倒す。全員を倒して皆を幸せにするって」
「ほう。それが貴様に出来ると?」
風音は自信満々に。
「できるさ」
「……そうか。よく言った」




