表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
268/457

裏切り者② 『煽動者』


/3人称視点/


 血に塗れた手を自らの顔に擦りつけ。

「この温かさが生きている証…」

 泥を浴びたかのように血みどろの顔。


 彼女は躊躇なく目の前の兵隊の皮を剥いだ。


 血飛沫の飛んだ凄惨なる現場。


 血の河をゆっくりと闊歩する。

 靴底に付く血糊は粘性を帯びており糸を引いた。

 むせかえるような死臭が充満し、おどろおどろしい。


 頭部のない兵隊の山が築かれていた。

 影の中に蠢くナニカが頭部ない兵隊の亡骸を丸呑みした。


 静寂に包まれる一帯の中で。


「良い素材が回収できました……」


 フランはゆっくりと歩を進め。

 切り取った頭部を鷲掴みにし持ち上げた。


「人はどうしてこんなにも簡単に壊れてしまうのでしょうか?」


 蛍光灯の光が彼女の輪郭を投影した。

 壁に写る影は人影ではなく。


 巨大な異形の輪郭。


 フランは光の灯らない瞳のまま恍惚の笑みを浮かべ唇を舐める。

「肉を裂く度に、なんという興奮。

 この音。この手応え。

 ああ。これが生きるという事」


 彼女の怪力と魔術は殺戮を繰り広げた。

 

 屠殺し皮を剥ぎ。

 鏖殺し圧殺する。

 トドメに首を捻じ切った。

 

 人ならざる者が行う非人道的な殺し方。

 そこに一切の迷いはない。

 生命を断つ作業。

 魔の物から生み出された彼女に人の善悪の基準などない。

 ただ忠実に殲滅という命令を遂行している。

 それだけだからだ。


「間もなく終演ですかね」

 彼女はニタニタとほくそ笑む。


 遥か彼方の地上では聖剣使いが魔人を追い詰めている。

 予感している。

 その結末が聖剣使いの勝利だと。


 理由は明快であった。


 ()()が力が増しているのを感じ取ったからだ。 

 アレが同じような存在であるからこそわかる。


 魔の物を飲み込み事で力を増す存在。


 血を(すす)り呪いと魔力を飲み込む。

 肉を裂き、血を啜り、魂の輪郭すらも喰らい尽くす悪食。

 貪欲な暴食者は気が狂いそうなほどの空腹なのだ。


「一体幾つもの血と肉と魂を貪って来たのか」

 私とは比較にならぬほどの。

「本当に大喰(おおぐら)い…………」  


 ・

 ・

 ・


 俺は遥か後方から主人公達を眺めている。

 まるで観戦客のように。


「にしても」

 アタッカーばかりの自身のパーティーメンバーと比較して。

「バランスの良いパーティーメンバーだ」

 とポツリと漏らした。

 

 今回の主人公勢のパーティー構成は。


 ―――――――――――


 メインアタッカー:風音(+聖剣)。

 ヒーラー:システリッサ(聖杖なし)。

 サブアタッカー:ジュード。

 タンク :イノリ(+魔盾)。

 サポート:幼児化ヴァニラ。(ヴァニラ(弱))

 

 ―――――――――――


 の計5名のパーティー。 


「なんで南朋は居ないんだろうな」


 どうやら今回は選出されていないようだ。


「選考漏れしてるな」

 

 なんでだ?

 

 フィリスと南朋が控えか。

 正直、育生が微妙なフィリスとヴァニラ(弱)が能力値で頭一つ落ちるだろう。

 故に南朋が居ないのが気掛かりであった。


 プレイアブル最高峰のヴァニラ(強)。

 彼女は使用不可になったのは痛い。

 しかしヴァニラ(弱)でもデバフは有効だ。

 だから別に悪くない選出ではある。


「だが、南朋を抜いて無理して入れるほどでもない」


 読みが外れた。

 まぁいいか。


 かれこれ30分ほど戦闘を眺めているのだ。

 

「ほう。良く育っているじゃないか。

 スキルツリーはかなり解放されているはずだ。

 パーティーメンバーのレベル換算は満遍なく50……

 いや60程度ってとこか?」


 と、そんな解説ムーヴをしていると。

 風音から大地を削る光線が放たれた。 

 

「ほう。中々やるな。

 やはり風音だけは頭一つ抜けているな。

 思いのほかやる事がない。

 翡翠軍団も中々やるが……」


 目を細め思案した。

 我が最後の尖兵たるフラン。

 アイツは千秋+小町のコンビに匹敵する人造人間だ。

 こいつが中々に強い。

 貧者の増援を狩るスピードが尋常じゃない。

 彼女が番人を務めている区画から一切増援が来ないのだ。 


「俺が出向くまでもない」

 と呟き、ぼーっとしていると。


 ―――シスが激高した。


 貧者に向かって恨み言。

 怨嗟の言葉を吐いているようだ。

 目が血走っているのだ。


「おいおい。闇落ちはしてくれるなよ」

 ヒヤヒヤとする。


 何やらネタ晴らしみたいな事をわざわざ語り出した貧者。


「なーんで。手の内や思惑を敵方は全部話すのかねぇ」

 

 貧者がシステリッサを挑発し始めると。  

 熱風が頬を撫でた。

 風音が強烈な一撃を放ったのだ。

 

「そろそろクライマックスかな」


 大地を削る閃光の一撃から放たれた強烈な熱量。

 熱された大気が巻き起こす風圧が一気に押し寄せたのだ。


 大地に刻まれる青白く光る巨大な魔法陣。

 そんな幻想的な光景の中で6名が絶え間なく攻防を繰り広げる。 


 一帯に張り巡らされた稲妻の繊維と鎖は魔人を雁字搦めにする。

 ―――強烈な破裂音。


 炎と紫電が絶え間なく巻き起こる。 

 ―――大気が振動する。


 それらを打ち消すかのように濁流が突然空間に顕現する。

 ―――建物が軋みを上げる。

 

 超常の異能を用いた戦闘風景の数々。

 重力を無視したかのように。

 それぞれが縦横無尽に走り抜ける。  

 彼らは徐々に魔人を追い詰める。


 貧者は直接戦闘タイプの魔人ではないが、

 ボスキャラにふさわしい性能値を誇る。

 魔術を盗むし。

 何よりHPが馬鹿みたいに高いのだ。


「俺らがHPゲージをかなり削っているはず。

 後は耐久と高火力で落とせば勝てる」


 ゲーマー俺は勝利を確信した。

 貧者が思いのほか弱っている。

 あれは十分に魔術を盗めていない。

 増援も呼べない。


 苦悶の表情を浮かべる貧者。

 この勝負の大一番。

  

「コンビネーションが良い!

 遠近最強の風音。

 ヘイト管理のイノリは攻撃を誘導して巧みに捌いている。

 デバフで削るヴァニラもいい味を出している。

 ヒーラーとバフ持ちのシステリッサが全員の能力を数段引き上げているし。

 単純なアタッカーとしてのジュードも強い

 正直隙はない。かなり強い!

 風音もシステリッサも覚醒は間近だ!」

 

 ・

 ・

 ・ 


/システリッサ視点/


「アイツが私の家族を…………」

 

 ―――殺した。


 これは失ったモノを取り戻す為の闘い。

 自分の心の中に欠けたピースを埋める為の。

   

 結界術は魔人の力を封じ込めた。

 風音の放つ剣閃が徐々に追い詰める。

 自己再生できない魔人は苦々しい顔。

 勝利を確信した。  

 間もなく一つ目の悲願が成就する。

 

 そんな光景を目に映し何を考えたのか。

 

 まず1人目の魔人を消せる。

 続いて国を裏切った者だ。

 私から全てを奪った者達。

 彼らには鉄槌を下さねばならない。


「だからこれは一歩目でしかない」


 ――――正義の名の下に――――

 

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清


 ―――脳内で何度も反芻する。


 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清


 何度も何度も何度も。

 

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清 

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清

 粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清粛清


 (すべか)らく世界から排除する。


 でなければ、私の気が晴れない。

 でなければ、死んだ者が浮かばれない。 

 

「悪は消えねばならない」

    

 復讐を果たせば気持ちが晴れる。

 あの時から苛まれる悪夢から目を覚ませる。

 失った者、亡くなった国の敵を討つ事でようやく気持ちよく眠れる。

 

 それが自身の生きる糧、生きる意味。

 ただ機を狙い続ける人生を送った。

 

 間もなく成就する一つ目の復讐。


「復讐の果てには、きっと……輝かしい未来があるはずなんだから」

 

 そう自身に言い聞かせた。


 ・

 ・

 ・


 俺は「勝ったな」と呟いた。


 決死の闘いが行われた。

 痛恨の一撃が貧者の首を刎ねる。


 想定内の主人公チームの勝利。

 

 遠目から彼らの覚醒を見届けた。

 育成の終了が近い。

 そんな余韻を味わいながらその場から撤退の準備を整えていた。

 

 ―――瞬間。

  

「な!?」


 俺に目掛けて、聖剣が放つ熱波が飛んで来た。

 光輝く熱線は周囲の空気と障害物を融解させる。

 咄嗟の事であったが回避は間に合った。


 目を疑った。

「なぜ気付いた!? 完全に気配は消していたはずだが……」

 遠目でもわかる。

 風音の独特な赤い目が光っていた。


 目の据わった風音と目が合ったのだ。


「ほう……見ているな。この俺を」


 幻影と闇夜に紛れ完全にステルス化した俺を感知している。


 冷や汗が流れた。

「俺のショボい小細工は通用しなくなっているのか」

 覚醒後の風音。

 感じた事のない殺意と雰囲気を感じ取った。


 なぜかわからんが、次の標的を俺に定めたようだ。

 

「俺を殺す気か? 

 確かに怪しさしかないが……

 いいだろう。

 どれほどのものか採点してやる」


 無線に向かって。

「おい翡翠!」


『なんでしょう?』


「アイツと一対一(サシ)でやる。それ以外のメンツを引き離せ」

 とは言っても、風音以外のメンツ。

 

 呆然と突っ立たままの虚ろな眼のシステリッサ。

 息切れしているその他のメンツ。

 風音以外はかなり疲弊している。


 彼らのバックアップはなさそうだが念の為に翡翠に伝達した。


「ここでは被害が拡大する。場所を変える」


『とうとうですね』


「?」


『皆まで言わなくても。かしこまりました』


「お、おう」




 

 ――――『序章 持つ者 と 持たざる者』に戻る。 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ