つまりはそういう事ですもんね
俺は双眼鏡を使い街の風景を観察していた。
「うへぇ~。ヤバすぎだろ」
一等地に爆心地が出来ていた。
トウキョウには多くのクレーター。
壊滅状態のように見えた。
今朝放ったミサイルの雨が抉り取った光景。
都市機能を麻痺させる一撃。
TDRのアホ共は何を考えたのかとんでもない劇薬を投下したのだ。
トウキョウの爆破。
正確には国家の信頼を崩壊させた。
誤射させたミサイルにより防衛機能の信頼性の欠如をアピールする事になった一芸は円や不動産の価値を大暴落させたのだ。
根は小市民な俺は変な汗がずっと背中から流れている。
やってる事が悪党を超えているのだ。
完全なるテロリズム。
国家反逆の罪人。
しかも結構ヤバめの。
「本当に死者は出てないんだろうな」
辺りを見渡す。
居住区はチラホラ明かりが見えるが。
ビジネス街は闇に包まれている。
歓楽街も暗闇だ。
交通網は今朝から大名行列が如く大渋滞している。
多くの人々は一斉にトウキョウや国内から避難を開始しているのだ。
「都市機能が完全に麻痺している」
にわかには信じられないが、
爆破した箇所は全てTDRが所有している土地と建造物との事。
翡翠の野郎は『つまりはそういう事ですもんね』という謎の言葉と共に自信満々なのだ。
一体この後どうするつもりなんだろう。
「この国の経済終わったじゃん」
いやね。
そもそも俺の作戦はこうだ。
バカみたいな富豪であるマリアは俺の好感度が高い。
非常に。
それを逆手に取るつもりだった。
①結婚詐欺師のテクニック。
なんやかんやしてマリアを騙してアラゴン家の資産にアクセス。
TDRには出し子的な事をして貰って、
巧みにマリアの資産を利用する。
そして貧者の資産を買い占め、TDRの幅広い謎の力を使い、マリアの資産を元手に金融市場を荒らす。
②極限までHPを減らした状態で風音に戦闘を実行してもらう。
ヤバそうなら俺と香乃とブラックナイトが参戦する。
最後に、天才俺が考え出した計画の詰め。
全部の出来事を悪の組織であるTDRのせいにして俺は素知らぬふりが出来る。
①俺の胃潰瘍の種であるTDRは解体されるし。
②マリアに『オレオレ詐欺に引っかかたんだぁ~』
もしくは
『あれ? どうしたんだ?』という若年性健忘症のフリをする。
という言い訳まで用意した周到なる計画であった。
一石二鳥の神のような作戦。
「そう。これは完璧な計画だった……はずなんだ」
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/貧者視点/
――迎賓館――
階下に聖剣使いの気配を感じ取った。
「早いな……これも1手に含まれるか」
貧者は歯痒く思う。
「たった1日で、か」
相手方にとって課題であった多くの点を克服した1手。
①私自身の居場所を炙り出し。
②今後戦場となるトウキョウ。この地の住民の避難誘導。
③金融取引一時中断の発動により金融崩壊の強制中断。
資産増加の制限。私自身の金融資産の減少。
④この事件を反面教師にし、防衛機能の強化。
⑤先手を取った上でヒノモト騎士団の招集と行動の開始。
「それだけではない……」
⑥国家要人クラスの私をこの混乱に乗じて奇襲する機会創出。
雲隠れしていた分、敢えて付けなかったヒノモトの騎士の護衛。
これも裏目にも出ている。
本来、私を攻撃するという行為は犯罪扱いになるのだ。
しかし、立証する証人という材料がない。
「現状、配下の半魔人と私自身しか戦力はない」
たった1手で多くの意味を込めた最善手を打って来た。
天稟の鬼才。
盤上の鬼神。
魔人の頭脳を超える怪物。
それが放った1手は余りにも重い。
「私も聖剣使いすらも盤上の駒でしかない。何者かが描いた青写真の」
回廊を走る幾つもの足音が自身に近づいてくる。
大きくため息を吐くと。
「しかし、未だ王手にならず」
私は来客を迎える準備を開始すると、勢いよく扉が開いた。
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/3人称視点/
燃え盛る街。
煌々と光る炎の火柱が至る所に立ち昇る。
業火の明かりが夜闇をまるで夕焼けのように照らす。
貧者の前に立つのは風音パーティー。
覚悟を決めた風音は聖剣を構えると。
「追い詰めたぞ。貴様を今、ここで!」
システリッサは風音を遮るように口を開く。
目を鋭くすると。
「……お父様とお母様の敵」
「いいですねぇ。憎しみの目だ。絶望に染まる眼」
貧者のあらゆる魔術を盗むその瞳が彼らを捉えていた。
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TDRが巧みに誘導した通り、
風音達が貧者の本拠地を探り当てると、
彼らは戦闘を開始したようだ。
俺の手元の無線から多くの音声が流れ続けていた。
『周囲の民間人の避難の完了を確認。オーバー』
『騎士団は要人と民間人の誘導に手を焼いているようだ。オーバー』
『トウキョウ湾にて、不審な兵の大群を確認。オーバー』
『騎士団と狂化兵との交戦を確認。オーバー』
至る所で戦闘が開始したようである。
『マスター。全狙撃兵の配置は完了しました』
無線から翡翠の声が流れると俺に語り掛けた。
「お、おう」
俺は音魔法を使い、周囲の気配を探る。
近くには居ない……
随分遠くから狙っているな。
四方のビルの影から多くのスコープが放つ反射光を確認できた。
「ちなみに数は?」
『私を含めて、17騎配置しています』
「……あっそ」
なんか俺の知らない影の伏兵が増えてんだよな。
用意周到かよ。
『では我々は貧者に加勢するだろう狂化兵の排除に勤めるという事でよろしいですか?』
「え、あ、ああ」
『者共聞け! 先にも伝えた通り、マスターの考えはこうだ』
「え?」
なんか始まったぞ。
『魔人は生き残る事を考えるはずだ。聖剣使いは強い。戦闘タイプではない奴は必ず兵力をここに集めるだろう。そこを狙えと』
そんな事、一言も言ってねぇーんだよ!
……とは言えなかった。
『現に護衛も動き出している。
各自、伝えた通り行動を開始せよ!……と』
無線から。
『ラジャー』
の大合唱が鳴った。
らしいですよ。
俺だけ作戦を聞かされてないんだけど。
『包囲網を抜け出た狂化兵はマスターがなんとかする!
つまりはそういう事ですよね?』
ですよね?
じゃねーんだよ。
同意を求めて来るな。
……とも言えなかった。
俺は神妙なトーンで。
「少々厄介そうな奴は俺とフランでなんとか無力化する。
とびっきりのご都合主義を演出してやるぜ」
俺は頭を振るうと、今を集中する事に専念した。




