狂気のマッドサイエンティスト『世界は私の足元にひれ伏すだろう。誰も私を止めることはできない!』
学園の仮想空間にて。
フランと千秋、小町ペアの御前試合が行われようとしていた。
フランが2人を挑発したためである。
「な、なんか面白そうな感じになりそうだな」
俺は胸が高鳴っていた。
千秋は拳を鳴らした。
「ボクら二人相手にして倒せると?」
フランは不適な笑みを浮かべながら。
「ええ。簡単です」
小町は鞘に手を置いた。
「随分と余裕そうな顔じゃないですか」
「さて、香乃が鍛えたアイツら。
どこまで仕上がってるか見せて貰おうじゃないか。
我が最高傑作を打倒出来るかな?」
俺は後方腕組であった。
マッドサイエンティスト俺が作り出したフランケン18号。
性能をテンコ盛りにした怪物くん。
「では、フランよ。貴様の力を見せてみよ!」
「はい。存分に」
「あの男……女、どっちの味方なんだ」
「ムカつきますね」
「千秋に小町よ。フランは強いぞぉ」
「目にモノ見せてやる」
「ですね!」
「では始め!」
俺の掛け声と共に。
小町の剣閃がフランを捉える。
刹那。
瞬き程の時間で抜刀と縮地が行われていた。
ほう。随分と速いな。
ガキンと金属の鳴る音が響く。
フランの心臓付近に刀の切っ先が刺さっていた。
「は?」
驚嘆の声を上げたのは小町である。
一撃は確実にヒットした。
フランの心臓を的確に射抜いたはずであった。
速攻で終わる試合……のはずだった。
「速いですね。少々油断しました」
フランは速度に反応出来なかったようだ。
フランは目の前に現れた小町に蹴りを放つと。
それは空振りし、小町は距離を取るように大きく後方へ身を翻す。
「なんで?」
「しかし、私に傷一つ付ける事は叶わなかったようですが」
小町と切り替わるように。
重力魔法で加速した千秋が弾丸のように飛び出すと。
「これでどうだ!」
フランの顔面に向かって『重さ』がかさ増しされた拳を振り下ろす。
轟音が響くと、フランは遥か後方に吹き飛ばされると瓦礫の山を作る。
「なんだ。言うほど大したことないじゃないか」
勝利宣言をする千秋はこちらを見るとニヤッと笑う。
対して、小町は困惑顔であった。
俺は不適な笑みを浮かべて。
「それはどうかな?」
「どういう意味? 勝負は決着したよ。確実にクリーンヒットだ」
チッチッっと人差し指を振り。
「千秋よ。わかっていないな」
「傑くん。なにが言いたいの?」
「フランを舐めて貰っては困ると言いたいのだ」
煤を振り払う所作が瓦礫の山から聞こえ、首を鳴らす音がした。
「ほら見ろ」
「破壊力という点では彩羽様は随分良いモノをお持ちです」
「な!?」
「俊敏性に関して穂村様は私の上を行きます。技量もまぁまぁです」
「やはり……やれてなかった……ようですね」
困惑する2人の前に涼しい顔のフラン。
「ただ、それだけですが。何かしましたか?」
おおぉぉぉぉ。
いいぞぉ。
カッコいい!!
全力の攻撃を食らいながら『ん? なんかしたか?』。
強者ムーヴそのものだ!
すげぇ才能を感じる。
千秋はその光景を信じられないのか。
「傷一つ……付けられていないだと!?」
「一体! 何者を! 勧誘してきたんです!? 先輩!」
俺はそれを無視し、フランのムーヴに負けじと。
マッドサイエンティストのように大仰に手を叩く。
「す、素晴らしいぞ。フラン!!」
フランは深々と礼をすると。
「お褒めに預かります」
「クハハハハハ! どうだ。凄いだろぉぉぉ!
俺の……いや私の技術は世界一!
世界は私の足元にひれ伏すだろう。
誰も私を止めることはできない!」
マッドサイエンティストが生み出した驚異的な力を賛辞するあのシーンを真似る。
「だからどっちの味方なんですか!」
「まるで悪役のようだ。しかも小物」
小町と千秋はうんざりしていた。
「う、うるさいぞ! フランよ!
お前の力こんなものではないだろう!
遊んでないで、さっさとお前の力を見せて差し上げなさい!」
「存分に! ご期待に応えたいと存じ上げます!」
千秋の周りに冷気が漂い始めると。
「悪いね。少々舐めていたのは認めよう。
今度こそ終わらせよう。氷剣……」
氷で出来た剣が空中に形作られていく。
千秋は俺の武具掃射を真似た氷の剣を高速で射出する技を覚えている。恐らく今の彼女が出せる最高精度・最高威力の技だ。
それに香乃とのダンジョン攻略で威力も上がっているはず。
「私も合わせます」
小町は中腰になり、重心を低くし、抜刀の姿勢を取る。
彼女は金の魔力で肉体の反射速度を極限まで向上させる。
刀にも金の魔力特有の強化の魔術を伝達させていく。
アイツは俺の高速思考も覚えさせた。
剣技も俺を真似たトリッキーな動きと高速斬撃も所持する。
俺の自称弟子である以上、近接戦では昔の俺そっくりである。
アイツも香乃によって成長してるはずだ。
フランでは少々キツイか?
フランも異様な雰囲気を感じ取ったのか。
「不死者の門、屍歩き、亡霊の呼び声、死者の祝福、呪詛の烙印」
多重魔術を展開したのだ。
千秋は困惑顔で。
「な、なんだ?」
「速めに決着を着けないとマズイかもです」
フランは邪悪な笑みを蓄えたまま。
「不滅の守護……」
「あれら魔術は……」
アンデット作成、アンデット機動力上昇。
死霊作成、死霊強化。
アンデット・レイス系統の攻撃力超強化
さらに自身を含めた一定時間の耐久力・防御力増大だと!?
――――肉壁ならぬ骨壁の出現――――
多くの骸がフランの周りに現れ壁を作る。
骸骨の大群である。
「私の不滅の鉄壁を以って!」
雰囲気が悪役そのものだ。
いいぞぉ。かっこいいぞぉ。
い、行ける。
フランならアイツらに勝てるかもしれない。
ちょっとマズいかもなっと思ったが。
行ける。
「貴方達の必殺を無に帰してあげましょう。
完膚なきまでに心を折って差し上げます!」
俺は性能値の高さを目の当たりにし。
「フハハハハハ! 見たまえ、この美しき混沌!
私の手によって創造された神の造詣物を!」
と、マッドサイエンティストムーヴを続けた。
千秋と小町はそんなムーヴを無視し。
「行くぞ!」
「参る!」
2人は己の必殺をフランに放つ。
彼女らの熾烈な攻防が始まろうとしていた。
氷の剣が骸の束を削り、小町の速撃が閃光の如く、骨壁を伐採していく。
目を見開き、狂気の笑みを浮かべるフランが。
「食らい尽くして差し上げましょう!」
大地が隆起し地盤沈下する。
―――大地から骨竜が出現した。
フランケン18号。
性能はヒーラーでありながらクソ固いタンク。
あの2人に悪いが。
この勝負もろたでぇ!
俺は悪役ムーヴをしながら。
「ははは、愚か者どもよ!
理解できないだろう。
この壮大なる叡智の断片さえも!
……フラン行けェェェ」
「負けるかァァァァ!」
「覚えとけよぉぉぉぉ間抜けぇぇぇ!」
俺に向けて言ってるのかわからないが……あの2人が叫んでいた。




