フランケン18号
/3人称視点/
―――現在時空―――
小町は頬の傷を擦ると。
「いてて。それにしても香乃さんって何者なんでしょうね。ホントに」
千秋は目を細め。
「さぁ? ただ……恐ろしく強いよ」
「底が見えません」
「そうだね。傑くんの親戚を名乗るだけはある。
あのダンジョンでも私達のサポートをしつつ汗1つ掻いていなかった。
ボクはあんな豪傑は知らない」
「で、ですね。天内家はどうなってるんでしょう」
「さぁね。そもそも親戚かも怪しいけど」
「それはそう!」
「だよねー」
「でも……指示は的確だ。彼よりも教える事に関しては才能がある」
「ええ。先輩よりもわかりやすいです」
「フィーリングで教えてくるアイツよりもよっぽどタメになる」
「全くです」
2人して不思議な少女について話しながら歩いていると。
長身の美女が小町と千秋に声を掛けたのであった。
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「え? どちら様ですか?」
(凄い美人だけど……誰だろう)
「俺だよ俺。オレオレ」
千秋はボソッと。
「新手の詐欺?」
「オレオレ詐欺だ……初めて見た」
小町は。
「ごめんなさい。貴方のような美人さんに知り合いは居ませんが」
美女は似つかわしくない笑みを浮かべると。
「おいおい。俺ってやっぱ美人なの。困ったなぁ」
千秋は引きつった顔を作る。
「なんか」
「変わった人ですね」
「ホントにね。どことなく会った事のある雰囲気だ」
「ヤバいなぁコレ。野獣に狙われちゃうじゃん。
俺の貞操終わっちゃう感じ?
こえぇな。いや変なの来たらボコるだけだが」
小町と千秋はヒソヒソ声になりお互い耳元で会話した。
「なんかムカつきますね」
「そ、そうだね。い、行こう。ちょっと変わった……ヤバい人かもしれない」
「おい。聞こえてるぞ」
小町は。
「刺激しないようにですね」
「そうだね。この手のタイプは一番怖いんだ」
「美人局とかありますもんね」
「そう。きっと壺か絵の話をしてくるぞ」
「超ヤバいじゃないですか」
「だから俺だって。俺。このグッドルッキングガイの顔を忘れちまったのか?」
「なんか癇に障る感じの方ですね」
「なんだか妙な感じだ」
「ええ。この常にムカつく感じ。まるで実家のような懐かしさすら感じます」
「だから聞こえてるって。お前ら凄いな。すげぇ人の悪口言うじゃん」
小町は。
「申し訳ありませんが!」
「お、おう」
「私達は貴方のような方を知りません。人違いです!」
「だ~から! 俺だよ。天内! 天内傑だよ!」
「「は、はぁ~~~?」」
「どう? 性転換しちゃった! 凄くね?」
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かくかくしかじかで、死ぬほど説明した。
過去に行った事などはボカしつつ、
天内が美女になってしまった事を説明したのだ。
「ほ、本当に……」
「せ、先輩!? 先輩なんですか!? 本当に?」
「そうだよ。さっきから言ってるじゃん」
「『そうだよ』じゃ、ねーんですよ!」
「女の子になってるじゃないか!?」
「そうなんだよね。色々あって性転換しちゃったって訳。
凄いよね。この世界。
いやぁ~参った」
小町は泡を吹くカニのように。
「アワアワアワ」
「なぜそんな事に」
「副作用? つーか呪い? 契約? タイムパラドックス?」
「な、なにを言ってるのだ?」
「まぁアレだよ。少々面倒な事になった」
「も、戻る、戻る方法はないのかい?」
「ない! もうこれで生きていくしかない! ……かも」
小町は目を回すとその場にへたり込んだ。
「そ、そんなぁ~」
「そ、それでいいのか!?」
「何が?」
「『何が?』じゃねーんだよ。先輩! アンタの心は男だろ!」
「まぁね。でも流行りみたいな感じに乗って行こうかなと。性転換モノの」
「意味わかんねーんだよ!」
「なぜ、そんなに楽観的なんだ」
「仕方ないだろ? つーか、解呪できないし。諦めるしかないだろう?」
「か、軽い。なんて軽い意見なんだ」
「自分が何を言ってるのかわかっているのか?」
「なんでそんな軽いんですか!?」
「性別なんて、もはや些事。
俺の中で、もうそれは主軸じゃない。
だから、もういい! 諦めた!
むしろこっちの方が身体の調子がいい!
今までの絶不調が嘘みたいだ」
「ば、馬鹿者!!」
「馬鹿過ぎて気分が悪くなってきました」
「そうだ。そんな事を報告しに話し掛けた訳じゃない」
「そんな事って」
「さぁ。皆さんに報告があります。
新しい仲間を連れて来ました。
期待の新人。超新星。来たまえ」
天内は手を鳴らした。
「ハッ! ご主人様!」
メイド服の美女であった。
美女が突然空から降って来たのだ。
華麗にバク宙をし、体操選手のように着地した。
びっくりした小町は。
「ど、どなたですか!?」
派手な登場に満足げな天内は両手を広げると。
「フランケン18号。通称:フランくんだ」
「あ……え?」
「ご紹介に預かりました。本日より皆様のサポートをさせて頂きますフランと申し上げます」
フランは深々とお辞儀した。
「我が最後のパーティーメンバー。
ヒーラーであるが前線でタンクにもなれる超新星!
あとご主人様呼びはやめてね」
「かしこまりました」
千秋は顔を押さえ複雑な顔をし。
「また女の子か……いや、論点はそこだろうか?」
フラフラと立ち上がった小町は。
「ツッコんだら、負けなの?
先輩は女の子になっちゃってるし……
メイドさん連れてきてるし」
「ツッコミどころしかない気がするけどね。
しかもご主人様呼びをさせていたようだ」
「キッモ」
「マジキモイよね」
「黙れ!」
天内は一喝した。
「ご主人様。今後はどのようにお呼びすれば」
「めんどくせぇな。普通な感じでいいんだよ。ごくごく普通な感じで」
「かしこまりました。旦那様」
「旦那様呼びに変えさせました」
「ホントに気持ち悪いね」
「身の程を知った方がいいですよ。
突然性転換したと思ったら、
とんでもないプレイを楽しんでいます」
「ホントにね。キモい男……いや、今は女か。
もうよくわからなくなってきた。理解が追い付かん」
「旦那様もやめてくれ。名前でいい。呼び捨てで構わないから」
「かしこまりました。アマチ……さん」
「お、おう。いいぞぉ。イイ感じだ!」
「ありがとうございます!」
小町の理解は既に限界を超えていた。
「そ、そ、それでぇ? この方が新しい仲間になるんですか?」
「そ、そうだ」
余りの衝撃の連続で脳がバグった千秋は。
「ふ、ふ、ふ……ふ~ん」
「人間とは思えないくらい綺麗です……ね」
「ホントにね。きめ細かい肌だ」
「まるでお人形さんみたいです」
あり得ぬ連続でもはや現実逃避を超え、普通に状況を飲み込み会話をし出す2人。
「ありがとうございます」
(せ、正解!
半分以上正解だ。
世紀のマッドサイエンティスト俺によって生み出された人造人間。
それがフランケン18号。
いや、フランなのだ。
あまりジロジロ見られる前に話を逸らさねば)
「うむうむ。フランくん。せっかくだ。
特技を教えてやりなさい。
この口の悪い淑女達に」
「誰が口の悪い淑女だ」
「はい。私の特技はアマチさんの性玩具になる事」
天内は呆気に取られると。
「フョ?」
「は?」
「い?」
「あらゆるテクニックに対応可能です。
多少の損傷も私の身体の硬度と治癒で復元可能」
「キッモ」
「この男はヤバいよ」
「ちょっと待て。何を言ってる!」
「趣味は調教……される方です」
「キモ」
「この男、キモ過ぎて吐き気がしてきました」
「勿論アマチさんのみにですが。私の身体の隅々まで知っておいでです」
「消しましょうか」
「そうだね。もう生かしておく方が害悪だ」
「あの時の快感は忘れられません。
私が生まれた意味。
生を実感させられる感覚。
絶頂を与えてくださった事は生涯忘れません」
「語弊を招くような事を言うんじゃないよ!」
「よしわかった。殺そう。ボクがこの男の頭を砕く」
「わかりました。では私は、首から下を微塵切りにします」
「せーの! で行くよ」
「ええ!!」
「「せーの!」」
小町と千秋はお互いに天内に先制攻撃を加えようと。
「おい! ヤメロ!」
天内の必死の制止も届かず。
千秋の拳が。
小町の抜刀が。
―――――――――
放たれるはずであった。
―――――――――
その後、天内の断末魔が聞こえるはずであった。
そう。
はずだったのだ。
「え?」
「ウソだろ」
千秋の拳を―――
小町の抜刀を抜く前の手の平を―――
フランが押さえつけていた。
しかも涼しい顔で。
「私はメイド。最高傑作のメイド。
アマチさんに指一本触れさせませんわ。
例え先達の方々であろうとも。
それは決して許容できません」
(なんだこの人。凄い力だ。
ボクの怪力でもピクリとも動かない)
(強い。強いぞ。先輩が何も考えなしに連れてきた訳ではない?)
「おお! 良いぞぉ! よくやったフラン!」
「お褒めに預かりありがとうございます。
しかし、このお二人は本当にアマチさんのお仲間なんですか?」
「え? ああうん。そだよ」
千秋は食って掛かるように。
「どういう意味?」
フランは不適な笑みを浮かべると。
「釣り合っていないと進言致します」
小町は。
「なんだって?」
「あら聞こえてらっしゃらない?
端的に言いますと。
お二人とも弱すぎませんか? と言いたいのです」
「な?」
「んだと……」
「良い機会です。少しだけ調教して差し上げましょう」
人体工学上あり得ぬ動きであった。
小町と千秋はいつの間にかお互い吹き飛ばされていた。




