第五の騎士 象徴『人の飽くなき欲望と叡智』
親殺しのパラドックスという言葉を知っているだろうか?
過去に戻って、自分の親を殺してしまう具体例を引き合いに、
タイムトラベルにおける因果関係の複雑さを示唆する話な訳だが。
過去に戻って親を殺してしまうと……
例えば、以下のような矛盾が発生する。
1:自分が生まれない為、親を殺しに行く事自体が起こりえなくなる。
2:自分が親を殺すことで自分の存在が消滅し、親が殺されないことになるため、結果的に自分が生まれてしまう。
という矛盾が発生してしまう。
結果として導き出されるのは。
タイムトラベルで過去を変えようとしても、未来は修正されない。過去に干渉しても、未来は変わらず、過去で既に起こっている未来が維持される。
という、未来が変えられないという理論的な考え方を裏付けているらしいのだ。
逆手を取れば。
俺の知る……
いいや、違うな。
起きてしまった結果を改変しない範囲であれば、
過去に行き行動を起こし、未来へ事実を継承する事が可能でもある。
トンチではあるが……
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まぁ。なんつーの。
色々と長くなるので、割愛するが。
俺は時空を跳躍した訳だ。
俺が居た時空のマリアらが心配だが……
信じよう。
超高難度ダンジョン。
そこでの時間稼ぎ……
祈るしかあるまい。
それはそうと。
俺には時間跳躍を出来る確信があった。
カノえもんが俺を1000年前に呼んだ時点で、エビデンスは取れていた。過去に戻る事が可能であると。いや、言い換えよう。
一種のセーブ&ロードが可能だと言う事を。
俺は過去で魔女の核を回収するというミッションがある。最高峰の死霊術のユニークを獲得する為だ。
アイツはいつの間にか死んでいた。
俺の知らない事実が存在している。
正直謎が多いので動き様はある。
まだ生きているようならぶち殺すし、死んでいるなら屍骸を回収する。
夢魔界のような特殊な縛りがないので。
俺は今、最強ロボをいつでも呼び出す事が出来る。
勝算は非常に高い。
俺とブラックナイトの2人がかりでぶちのめせば矛盾は発生しないはず?
そうだよな? 多分?
余談にはなるが。
本当の切り札は俺の心の中の秘密なので誰にも言っていない。
俺の居た時空でも地球を覆う、俺のロボが描いた魔法陣が完成……
羽化すれば。
一度限りであるが。
終末と同等の戦力……いや一撃だけならそれを超える力を得る目算がある。サ終のゲームのように末期のインフレレベルのスーパー超火力が再現出来る。
超絶天才俺でもどれほどの威力になるのかわからないので、下手にテスト出来ないのが痛いが、文字通り神の鉄槌ことサテライトキャノンを地球に打ち込む事が可能である。
1秒でゲームセット出来る仕込みと段取りをしている最中なのだ。
威力?
多分ツァーリ・ボンバぐらいじゃね?
話を戻そう。
という訳で、現時点でバトル展開になっても核撃なしの最強ロボが居る時点で勝った可能性すらある。しかし、俺は超天才なので油断はしない。99.9パー勝てる勝負でも、0.01%を見落とす可能性を憂慮する狡猾さを身に付けているのだ。その穴埋めをするのがカッコウであろう。カッコウのアホが勝手に死んだのは想定の範囲外であった。
故に、全てのケースを盤石にするのだ。
それにアイツとまたサウナに行きたいので、俺はここに来たのだ。
「仕方ねぇな。カッコウ」
ちなみに、魔女が死んだ後に跳躍していた場合だが。
俺の居た時空では魔女の肉体は完全に消滅していたのだ。
それはそうだろう。半年近く前の話だからだ。
なので、死んだのを確認した辺りの直近の時空にまで戻る事が出来ればコアを回収する事は出来る。しかしカノえもんが時空間魔法の座標固定が失敗し跳躍自体が俺の居た時空から直近すぎれば意味はない。故に出来るかわからない賭けだ。
そんな微睡みの思考の中。
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「一体ここはどの地点だ?」
手元には。
「あ……」
俺がいつしか学園で盗んだ厳重に保管されてた謎本。
それが手の中にあった。
俺は急いで近くの売店にて。
「おっちゃん! 今、今は何年の何月何日ですか!?」
と、死ぬまでに言ってみたかった言葉ナンバー4を店主に問いかけた。




