3つ
/3人称視点/
天内はカッコウの訃報を受けた後であった。
自宅にて鎮座する1人の少女の背に向かって呼びかけた。
「香乃ぉ~くん」
「なんだ。お前がその呼び方をする時は碌でもない時だ」
天内はフッと笑うと肯定の頷き。
「頼みがある」
「金ならないぞ」
「今回は金じゃない」
天内は携帯片手に画面に目を落とす。
「今、いや間もなく。重要な超特大ミッションが迫っている。摩擦は既に生まれている。そろそろ正念場らしい。それに個人的なエゴを通したい」
香乃は瞼を閉じると。
「……そうか。今回はそうなのか。ああ、そうか。わかった」
天内は一瞬疑問符を浮かべた後。
「これだけの言葉で理解したのか。天才かお前?」
「何度も見てきたからな」
「どういう意味だ?」
「まぁいい。ちなみにだ!」
「お、おう」
「最初に言っておくが、お前は私のモノだ。私の使い魔だ。それだけは覚えておけ。だから私の許可なく……まぁ勝手な事をしたら許さない。何度も言っとくぞ!」
「怖い事言うなよ。それに、いつから俺の所有権が発生したんだよ」
「最初からだ。もうずっと前から私のモノだ。ずぅ~っと前からな!」
人差し指を額に押し付けた。
「おいおい」
(メンヘラか? コイツ)
「ち、ち、ちなみに勝手に婚約者など見つける事も禁ずる。私の使い魔ごときが、勝手に仮ではあるが、番なぞ見繕ってきよって!」
「番ってなんだよ?」
「うるさいなぁ」
「香乃から話題をフッたと思うんだが」
「あーだこーだうるさい奴だ。前も後ろも禿げてきてる癖に色々頭を使うな」
天内は頭を抑えると。
「……サラッと酷い事言うなお前」
「それで、要件は何だ?」
「ああ。そうだった。やるべき事とやりたい事は3つある。まず一つ目。俺のパーティーはまだ完成していない。発展途上なんだ。俺個人に臨界点が来ても、パーティーそのものはまだ臨界点に到達していない。おかしな話だが、まぁ色々あるんだ。だから……」
淡々と語る天内。
香乃は怪訝な顔をしながらその話を聞いた。
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/3人称視点/
千秋と小町は2人仲良く食事を摂っていた。
食堂に設置された大画面からニュースが流れている。
遠い国で内戦が起こったとの内容であった。
その影響で一部品目が値上げするのでは? といった内容である。
関心を抱いている者は非常に少なかった。
そもそも学生諸君しかこの場に居なかった。
彼らにとって、国の違う見ず知らずの人々が過酷な状況に置かれていても、「遠い国で何かやってるな」ぐらいにしか関心を抱いてなかった。そしてそれは彼女らも例外ではなかった。
「胡椒……スパイスとかの値段上がるかもらしいですよ」
「そっか」
「なんか。ドンパチしてるらしいです。なんだか物騒な世の中ですね」
千秋は興味なさそうに。
「戦争なんて世界の裏側で日夜起こっているからね。ほぼ日常さ。残念ながらボクら一般庶民に出来る事はない。ボクらはただ漫然と今ある日常を忙しなく生きるしかないのさ」
「なんだか悟ってますね」
「そんなもんだよ」
ワイドナショーは戦争から経済への影響についてコメンテーターが含蓄を語った後、脈絡なくお気楽なデパ地下特集について企画を移行した。
芸人がロケをしたVTRが流れ始めた。
「あれ。今度の休みに食べに行かない?」
「え? ああ。そうですね」
モニターを見ながらそれぞれ意見を交わしていると。
小町は学食の入り口をキョロキョロする美人を見つけた。
「あ。よく見る目立つ人が」
「そうだね」
「やば。眼が合った」
「いつも通り右から左に受け流せばいいんだよ」
マリアはズカズカと二人の下に駆け寄ると。
「見つけました!」
「あ。こんにちは。マリア先輩」
呆気に取られるが、育ちの良さから。
「どうもご機嫌よう穂村さん」
と挨拶を返した。
「で? どうしたの? そんな顔して」
「随分怖い顔してますよ」
「挨拶はいいんです!」
「うん。それで?」
「白々しい! 天内さんが! 天内さんが! 消えました!」
「なんだいつもの事じゃないか」
「ですね。そこらへんの公営ギャンブルに行ってますよ。馬鹿だから」
「それか、自販機の下に手を伸ばしてるかもね」
「ですね」
マリアはそれを遮るように。
「あなた方が隠したのでしょう!」
「そんな事する訳ないじゃないですか」
「言い掛かりだね」
「いいえ。あなた方が隠した! どこに隠したのか早く教えて下さい」
「また被害妄想ですよ。どう思います? 彩羽先輩」
「マリアの基礎疾患だよ。傑くんの事になるとIQが著しく低下するんだ。困ったもんだよね」
「でしたね。早く目を覚まして欲しいものです。そもそも先輩の弟子は私一人でいいんです。ホントに邪魔なんですよね二人とも」
千秋は目を丸くすると小町を凝視する。
「え?」
無意識に発した小町は千秋と目を合わせた。
「え?」
「なんで突然刺してきたの?」
「なんのことですか? 私なんか言いました?」
「そういや。よく考えれば小町ちゃんも……」
「いいですか! お二方。天内さんを今すぐ鎖に繋いでおかないといけません! 大事な事なんです! 私の手元に置いておかなければならないのです!」
「ムリですね」
「ムリだね」
「これは世界の命運を握っているのです。早く私の天内さんを返して下さい」
「大袈裟だなぁ」
「そもそも先輩はマリア先輩のモノではありません。何やらおかしな契約を結んでいるようですが、そんな不当契約は法治国家の下では許されるモノではありません。金銭で繋ぎとめておくなんておかしな話です」
「そうだね」
「それに関しては同じ意見だね」
「「「え?」」」
3人は驚くと同じ感嘆詞を上げた。
なぜか? 気配を全く感じさせず、香乃は3人が談笑するテーブル席の一角。
そこに腰掛けていたからだ。
いつの間にか居たのだ。
そう表現せざるを得ない。
動作などなく、初めからその場に居たかように。
突然現れたとしか表現できなかったのだ。
話に割って入ってきたのは天内の親戚を名乗る少女。
「話の腰を折ったかな? どうぞ。話を続けて貰っていいよ」
「な!? 香乃さん。いつの間に……」
マリアは驚いた顔をした。
「え? ああ。うん。ついさっきかな」
千秋は絶句しながら。
「いや、おかしいよ。瞬きしたそばに突然現れた」
「よくある事だろう? だってここは魔法学園だぜ?」
手のひらの上に黄金の魔法陣を展開させるとニヤリと微笑んだ。
香乃は3人を見回すと。
「話が終わりなら、私の番でいいかな? これからのやるべき事と言うべきがあるんだけど、いいかな?」




