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走馬灯① ファントム暗躍計画


 ――走馬灯:それは少し前の話――


/3人称視点/ 


 翡翠とカッコウは2人して歩いていた。

 

 翡翠は壁に雑に張られた指名手配犯のビラを見ると。

「しかし、マスターはなぜあのような風体で活動されてるんでしょうか? 姿を隠す事に納得はできますが……」


「魔人のフリ。ファントム暗躍計画の事ですか?」


「そうです」


「……物事には落とし所が必要なんです」

 カッコウは、ゆっくりと持論を説き始める。


「落とし所? ですか?」


「ええ。そうです。

 一般的な大衆、民衆、民意とも言えるモノは……

 古今東西、物語の結末に正当性を求めます。

 自身の善性とも言えるものを正当化したいのです。

 悪は正義に打倒されなければならない。

 その結末を心の底で期待しているんです」


「……ん? 話が読めませんが。どういう事でしょう」


「天内くんのやっている事。いいや、僕らの行動は、一面だけを見れば悪でしょう。切り取られれば悪そのものです」


「否定は出来ません。多くの人を殺めました。多くの者から奪いましたしね」


「そうです。暗殺も破壊工作も、国家破壊も。その側面だけを見れば悪でしかない。言い訳が出来ないほどにね」


「いや、しかし。それは事情があります。カッコウ殿は我々の行動が間違いだと思っているんですか?」


 カッコウは首を横に振る。


「前提として殺しそのものが悪の側面を持っている。

 同時に正義の側面を持っている。

 二律背反でありながら、善悪二元論で片付けられない。

 と言いたいのです。非常に難しい問題なんです」


「は、はぁ」


「だからと言って、僕は殺しを肯定する訳ではないですよ。

 ただの殺しは蛮行以外の何物でもないです。

 決して褒められたモノではないでしょう」


「そう……ですね」


「しかし、悪には悪と思える手段で対抗しなければいけない時もある」


「清廉潔白な手段で解決できない事が多いから。それは当たり前の事です」

 

「ええ。ルール通り、手順を踏んで正々堂々と動いていたら必ず手遅れになる事は多々ある。どこかで何かの力が働き行動そのものがご破算になる。この世は正義だけでは回っていない。目に視えない、とても大きな力があります」


 翡翠は自身の境遇がフラッシュバックしていた。

 攫われ、貴族に弄ばれた歴史。

 天内の気まぐれで救い出されなければ野垂死んだという事実。

 

「調和のとれた世界に視えても、正義が世界を支配している訳ではない。それは嫌と言うほどわかっています」


 カッコウは残念そうに。

「ええ。それに……そもそも善悪の価値基準なんて人それぞれですしね」


「それを言ってしまえば、この世界は混沌です」


「そうですね。だから人は学んだ。

 社会性を獲得し。

 法律を作り、調和と平和こそが正しいと掲げた。

 多数決は少数の民意を殺す事になる愚策ですが、

 その意見は世界の大多数の意見を占めます」


「平和と安寧こそが正義だと人は定義しましたね。同時に、その逆を悪だと」


「その意見は僕も間違いじゃないと思います。そうであって欲しいとも願っています」


「……」


「善悪()い交ぜになってこの世界は構成されています。僕らが思う正義の概念すらも一方的な価値観の押し付けでしかないかもしれませんが。そこに落し所がどうしても必要なのです」


「それは一体どういう意味になるんですか?」


「魔人エネ。ファントムは死ななければならない……という事です」


「……カッコウ殿は離反の意志があると?」


「そんな訳ないですよ。違います。

 ファントムは……いいや。違うな。

 我々は決して正義でない。

 目指すべき結果が正しくても……

 皆の願いだったとしても。 

 過程は悪だ。

 正しくない。正攻法ではない。

 だってきっと我々が悪だと思う者にも……

 何も知らぬ配下にも家族は居た。

 愛する者が居たんですよ。きっとね」

 

 翡翠はその言葉を聞きゾクリとした。

 今まで屠って来た者の中には命令を従ってきただけの者が居たはずだと。

 考えないようにしてきた。

 そこは決して踏み込んではいけない領域だと内心思っていた。

 直視しなかった。

 

 きっと迷ってしまうから。

 

 翡翠はポツリと。

「直視せねばならない現実か」


「我々は最後に役割として、役柄として死ななければならない。だって悪だから。みんなが納得しないから」


「そのような結末では」

 翡翠は、浮かばれないではないですか、と言おうとして言葉を飲み込んだ。


「天内くんが一番わかっているのです。

 それでも歩みを止めない。

 彼は多くの命を殺めています。

 僕らの何倍も何百倍も……

 とても深い業を背負っています。

 傍から見れば、事情を知らなければ大虐殺者です」


「……」

 翡翠は苦い顔をした。


「だからこそ、最期に彼は彼自身が負けなければならないと。そこまで考えてるんです」


「そこまで……」


「ええ。だから彼は選んだんです適任を。この世界で選ばれし者達を最適解に選んだ」


「聖剣使いと聖女……ですか」


「……そうです」


 翡翠の胸中は複雑であった。

 報酬を得るべき存在が得ず、罵られ。

 

 まるで漁夫の利を得るかのような存在が得る。

 

 汚い事を全て背負わされている。

 そんな悔しさが胸の中にあった。


「ファントム暗躍計画とは敗北前提の計画。ファントムと言う存在は民衆を納得させる為の道具であり倒されるべき広告塔。そうでなければ、過程に起こした悪の側面を帳消しに出来ない」


「民衆の憎悪の矛先の一つにし、最期に存在そのものを抹消する。それが到達点。落とし所という事ですか?」

 

「そうです。彼は富も名誉も捨てている。損得なしの行動を起こした彼は勇敢ですよ。正攻法では、この事態を収められないとわかっていたから悪役を演じざるを得なかった」


「……悪役ですか。酷い言われようですね」

 翡翠は歯痒い、それでいて残念そうな顔をする。

「私は勝手ながら自分達の行動が善であると思い上がっていました」


「僕もですよ。でも……彼は悪となじられようとも止まらないのです。命を賭している。誰かの為に」


「それはなんというか……」

(とても辛い事なんじゃないだろうか?)


「それに彼はもう……」

(長くはないから)

「天内くんはね。ほんの少しだけ世界を良くしようとしたいだけなんだと……思います。僕と同じです」


「だからこそ我らは連いてきた……私も同じだから」


 カッコウは清々しい顔で。

「ええ。そうです。そしてそれはきっと間違いじゃないと……」

(死ぬ時わかるような気がする)



 

 

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