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序章 持つ者 と 持たざる者。


/3人称視点/


「追い詰めたぞ」


「随分早かったではないか」


「小細工を弄しても意味はない。

 この地が。ここが!

 今日! 間もなく!

 お前の墓標に……

 お前の命日になる!」


「ほう」


「もうすぐ僕の仲間が来る。

 騎士団も、僕の友人も、

 お前を討伐しに来る。

 全員お前を目掛けて。

 命を懸けてお前を打ち倒す」


「……そうか……なるほど。ああ……そうか」

 黒い影は天を仰ぐと。

「筋書き通りだな」


 雲間の切れ目から月光が差し込む。

 月明かりが二つの影の輪郭を鮮明に映し出した。

 

 木々が生い茂る高台には黒い靄に包まれた怪人と和装をした少年。

 2人の姿があった。

 彼らの眼下には丘陵。

 そこからさらに下ると城下町が広がっていた。本来美しい家屋の立ち並ぶ街々は……


 火の海に包まれている。


「影で糸を引いていたのはお前だった」


「さて、それはどの出来事で、いつの段階から言っているのかな?」


「ッ……もういい」

(シスの悲願。その憎しみの因果は僕が清算する。今、ここで)


 風が吹いた。

 お互いの頭上を紅葉が五月雨のように宙を舞う。

 荒涼とした風が吹き(すさ)ぶと、静まり返る。


 

 ―――火花が散った。

 

 

 撃鉄の重なる反響音。

 人里離れた地では聴かぬ音色。

 

 剣戟が始まった。

 

 少年は気迫の篭った声で。

「視えているぞ!」


 刀身の描く軌跡は月光を反射する。

 剣閃と剣閃が舞う光景は闇夜と言う名のキャンバスに描かれる光の閃光の数々。

 闇に描かれる無数の曲線はまるで芸術であった。

 

「我が剣戟に追い付くか。では。これはどうかな?」

 

 黒い影から放たれた剣閃は無数に分散する。

 たった一振りが七つに分かたれる。 

 回避困難なその技量は既に剣聖の領域にあった。


 だが、しかし。

 

「多彩だ。でも……それだけだ。まやかしの剣では決して真には至らない!」


「ッ!?」


 弾かれる七閃。


 剣聖とは人の身の領域。

 所詮は人の技量の極地。

 剣神、剣鬼。

 そう比喩出来る人智を超える神剣の担い手の前ではまやかしに過ぎない。

 

 お互い間合いを離す。


 徐々に風が冷たくなる。

 反対に両者沸騰しそうなほど血を滾らせた。


 白き剣に選ばれた少年は。

「お前は強敵だ」


 何者にも選ばれなかったどこにでも居る誰か(黒い影)は。

「ふむ。当たり前だな」


 お互いの呼吸のみがその場を支配する。

 

 間合いを見計らいながら。

  

 少年は一呼吸置くと。

「無数の技を習得し。

 あらゆる魔術に精通し。

 多くの武具の取り扱いに慣れている」


「……」


「ああ。強い。甚だ馬鹿馬鹿しくなるぐらいに強い。

 だけど、お前は究極の(イチ)を持っていない」


「なに?」

 

「それら全ては再現可能。

 つまり対策が可能な代物しかない。

 僕はお前を見誤っていた」


「……」

 黒い影は音を殺しながら少年の周りを歩く。


 天衣無縫と形容できる隙のない雰囲気を醸し出す少年は決して目線を離さず。


「決して届かぬ高みになど居ない。

 その力では本物には届かない。

 どこかの誰かの技量。 

 どこかの誰かの研鑽。

 それを巧妙に盗んだ。

 そんな仮初(かりそめ)の力では僕を超えられない」


「ほう……言うではないか」


「決して到達しない。到達する事が出来ない半端な力。半端者。それがお前の正体だ!」


「では……試してみるか」


 指を鳴らす。

 

 無数の弾丸が如き(つるぎ)が宙空に出現した。

 突如空中に現れる無数の刃の数々。

 (つるぎ)の波。

 武具の投擲が放たれた。


「その太刀筋……その秘技は既に見切っっている!」

 

 啖呵と共に、対するは白き一本の剣。

 輝きを放つ白き閃光が刃の波を飲み込んだ。


 量産された千の刃。

 

 それを相殺するのは唯一無二の究極の一撃。

 幾重の刃、それらの金属片が塵芥(じんかい)していく。 

 やっとの事で凡人が到達した極意と妙技。

 それはいとも容易く粉砕されていく。


 黒い影は目を見開く。

「ここまで……やるか!」


「二撃目! インターバルは与えない!」


「遂に超えるか! この俺を!」

 

 咄嗟に出た本来の一人称。

 それは焦り。

 自身の持つ技量が踏破された事への驚嘆。

 

 白皙の剣から放たれた衝撃破。

 相殺できなかった威力の塊。


「マズイな」 


 その一言と共に光の濁流が黒い影を飲み込む。


 光が闇を食らい尽くすように。

 衝撃を迎撃するが全てを受け切れず。

 黒い影は地面に叩きつけられながら弾け飛ぶ。

 

 光線は軌道を変えられ、山々を削りながら天の彼方に消えていく。

 光の柱が余韻として残っていた。


 黒い影は、いなしたすぐそばから空中で姿勢を変え、態勢を整える。

 その動きは滑らかであった。

 が、しかし。

 身体中を覆う黒い(もや)が剥がれ始めていた。

 余裕に見せているだけ。

 効いていない訳ではなく。

 山すらも削る星の息吹はその実、多大なダメージを黒き影に与えていた。

 

「その面を剥がさせて貰うぞ。魔人」


 黒影の怪人は細剣ではなく、得物を刀に持ち変える。

「フッ。できるものならな」


 互いに月を背に刀身を掲げた。

 

 決闘。

 本物と偽物。

 持つ者と持たざる者。


 黒い影は余裕綽々に口を開く。


「決着をつける時が来たようだな。

 いいだろう。ではその大言壮語示して見よ。

 この私を打倒出来るものならばな!」


「言われなくても……必ず斬るさ。行くぞ。ファントム!」


「意気や良し。出し惜しみはしてくれるなよ。聖剣使い!」


 聖剣使い:風音は最強の一撃を充填した。


「その首! 貰い受ける!」


 究極の固有(ユニーク)と無数の汎用(コモン)

 対照的な担い手同士の火蓋は切って落とされた。


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