落日(終) 見つけたぞ。
/貧者視点/
偽装工作を行い雲隠れしたのは正解であった。
「知恵者であるボルカーはいずれ気付くでしょうね」
重い腰を上げた。
反撃を開始する為に。
「情報は要だ。偽りの魔人エネ。いいやファントムよ。私は貴殿を認めようではないですか」
マホロに多額の出資をする私はこの学園で特別な地位にある。多くの役員と教職員を手中に収めた。包囲網は敷いた……はずだった。
しかし息の掛かった者は既に多くが骸だ。
戦況は不利になるばかり。
暗躍者・暗殺者はまるで未来を視るかのように動いていた。
その実力は間違いなく本物。
最も警戒し、最も恐怖した。
黒き影は常に我々の背後に迫っていた。
的確に首を刎ねる死神の鎌は脅威以外の何物でもない。
知能・技量・武力。
それら全てが類を見ないほど。
恐るべき手練れにも関わらず、尻尾を掴む事は出来なかった。
個人の特定は困難を極めた。
故に直接動く事はなかった。
出来なかった。
不安要素があるにも関わらず早計に動く事は愚か者のやる事だからだ。
だが、そんな状況は過去の話。
クツクツと笑みが零れた。
「まさか一介の学生が最重要特異点だとは思うまい」
ファントム。
この者の情報を精査した。
世界規模で探索するには困難を極める。
いいや不可能だ。
だが共通点はあった。
まず第一に我らの配下。
つまりはマニアクスそのものに牙を剥く。
世界各国に散らばる拠点や魔人それらをピンポイントで壊滅させていた。
そこが穴だ。
空路、海路、陸路。
これらの運行履歴の中から振るいにかけた。
不自然な運行履歴。
渡航履歴の改ざんが行われた痕跡。
足りない。
情報が足りなかった。
故に、揺さぶる事にした。
聖剣使いの特定を同時に行う過程で、この地を中心に動いているのではという推測を立てた。第一級特異点であるこの地は聖域と化している。
隠れ蓑にするにはこの地が良い。
そんな折、私は魔女と共に1人の暗躍者により多大な負傷を負う。秘術を盗むこの眼を狙った何者かの襲撃を受けた。
暗躍者はここに居る。
確信のピースが埋まった。
だが情報が足りない。
あの場で動くのは好機ではないと私の勘が告げた。
投資はタイミングが大事だからだ。
次に目を付けたのは魔獣王:山本の解放。
この地に招き混乱を巻き起こせば、少なくとも聖剣使い、もしくは聖女は尻尾を出す可能性があった。
その時点では黒い影が聖剣使いの可能性も捨てきれないという点もあった。
そして遂に聖剣使いの所在を掴む事に成功する。
同時に黒い影は聖剣使いではないという確証を得た。
技量の足りないはずの聖剣使いが山本という序列3位の魔人を敗北に追い込む……とは思うまい。
手を貸したのは黒い影その者だろう。
この地に暗躍者は潜んでいる。
さらにエビデンスを得た事になる。
揺さぶりは続ける。
聖剣使いへ刺客を差し向けた。
黒い影は聖剣使いの背後にも居たのだ。
情報は集まっていく。
リリスに多額の出資を行い、この国に魔境をばら撒いた。
ヴァニラという馬鹿な乳飲み子の夢を利用した。
リリスの計画を加担すると同時にアレが手駒になれば良し。
最悪、駒が使い物にならなくなっても問題ない。
それはサブプラン。
本命は。
聖剣使いと黒い影の抹殺。
聖剣使いが社会不安を無視するとは思えない。
それは同時に黒い影も無視しないという事。
あの偽りの夢の中で聖剣使いと黒い影が廃棄出来ればなお良し。
だが、万が一の事も考え、枢機卿のガキを焚きつけた。
神になるという馬鹿な夢に加担するフリをした。
手駒は多い方がいい。
最悪、情報さえ抜き取れればいい。
遂には、あの枢機卿のガキの記憶を読み取り確信に変わった。
黒い影:ファントムの素性。
条件は……
剣技に精通している事。
性別は男。
背格好は170~180程度。
声音が若い事から年齢は、青年から中高年程度。
身体能力は極めて高い。
スキルや魔術は非常に多彩。
何らかの目論見があり、その素性を隠している。
本来の実力よりも劣った演技をしている可能性がある。
聖剣使いの事情、マニアクスの詳細を何らかの手段で得ている。
そして同時に聖剣使い本人でもない。
情報操作に長けた人物もしくは配下が居る。
多額の資金力があり、経済界や政界にまで手を伸ばしている。
約一年程度で戦況を変えた事からここ直近の動きで妙な者。
行動力がある為、渡航歴が多い。
もしくは移動量が多い。
精神は外見以上に老齢している可能性アリ。
言動や行動から過去にトラウマの経験がある可能性もあった。
マホロの地にて男女の組み分けをすると約半数まで絞られた。
剣技を主体に扱う者を振るいに掛けるとさらに半数まで絞られた。
背格好まで絞ると、さらに半分。
魔術適正を絞ると……
情報を落とし込んでいく。
残った人物は数名しか上がらなかった。
「この中に標的は居る」
数枚の資料。
片手で数えるほどしかいない。
「この中に居るのだろう? なぁ? 死神? 随分裏を描くではないですか。それは私の専売特許なんですよ。私は最も計算高いマニアクス。万全な態勢を整え最大の障害を取り除く。警戒は怠らない」
資料を摘まむ。
これら全てに刺客を放ち、残ったのが本命だ。
その後、社会的に殺すのもいい。
敵は全世界・国家単位だ。
しかし、それでも生き残るだろう。
四面楚歌になった所で、最後にマニアクス全員でファントムを叩けば。
「チェックメイトだ」
これは競い合い。
マネーゲームと同じ。
「このゲームの勝者はただ一人でいい。このゲームの勝利条件は聖剣使いを殺す事ではない。それでは止まらない。投資するなら。今、ここだと決めていた」
断章 終了です。
読者の皆様へお願い
いつも温かいご支援、ありがとうございます。
もし最後までこの物語にお付き合いいただける方がいらっしゃるのであれば、ぜひ「いいね」や感想欄に一言コメントをいただけると、非常に嬉しいです。
勿論、ブクマや評価ポイントも歓迎です。
皆様の反応が、私にとって何よりの励みとなります。
どんな小さな声でも、私には大きな支えです。
一緒にこの物語を最後まで紡いでいけることを、心より願っております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。




