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落日③


「という訳なんです。(わたくし)はそれが可笑しくて」

 マリアは俺に密着しながら雑談を振っていた。


「へぇ~。それは面白いですね」

 

 俺は黙する人形。

 肯定以外を封じられた真なる奴隷。

 感情のない人形だ。

 俺はマリアのペットとして、うんうん頷いていた。


 そんな折であった。

 3人の男子生徒が立ちはだかったのだ。


「待て! この卑劣漢! いや、アマチ! マリアさんから離れろ!」


「今、助け出しますぞ! しばしのお待ちを!」


「また……挑戦者か。スマブラかよ」


 マリアは人気者だ。特に男子生徒。

 美少女はモテるのだ。理由はわからん。

 顔がいいからじゃね?

 そして何より高貴が故に貴人からも好意を向けられている。

 だから俺が恋人みたいな情報が拡散され敵が多くなった訳よ。


 挑戦者はいつもふとした瞬間に現れる。

 今もそう。


「また……ですね」

 マリアもうんざりしていた口ぶりだが。

「いつものようにやっちゃて下さい!」

 耳元でエールを送って来た。


「マリアさん! 目を覚まして下さい。

 いや、これは脅されているのでしょうな。この平民の男に」


「なんと嘆かわしい。一体どんな呪術を使ったのか!」


「洗脳してるのやも」


「かもな。下種め」


「狙いの薄汚さも垣間見えるわ」


 勝手に解釈を始めているよ。

 

 1人の男子生徒は声を荒げた。

「この平民め。愚鈍なアホ面を下げて。

 貴様のような卑劣漢がマリアさんをどのように誑かしたか知らんが、この私が正義の鉄槌を下してやろうではないか。天誅を下す。今ここで! 勝負をしろ下賤なる賊め!」


 おいおい。酷い言われようだな。


「正々堂々。我ら三銃士とお前一人で勝負を挑ませて貰う。いいな? 拒否権はない」


「正々堂々ってなんだっけ? 3対1は恥ずかしくないのか?」


人質(マリアさん)を取るお前がそれを言うか!? 姑息な男だ」


「そうだ! マリアさん! 今、助けに行きます。この男を海の藻屑にして見せますぞ!」


「消し炭にしてくれるわ」


「では、行くぞ。この大悪党!」


「天内さん……」

 そう呟くと、マリアがわざとらしく後ろに下がった。

 

 もう何度目だろう。

 安寧な生活は崩壊した。

 平穏な目立たない生活は破綻している。


 負けてもいいが、負けるとマリアの顔に泥を塗るという訳のわからん重圧がある。今の俺はキャスト。観客という名のマリアを楽しませる道化。テーマパークの着ぐるみよろしく俺は私情を殺し滑稽に踊らねばならん。


 それが俺に課せられた使命。


 納税を肩代わりして貰った道化の役目はマリアにカッコイイ姿を見せる事が期待されているのだ。


 マリアの羨望の眼差しが背中にグサグサと刺さる。

 あの潤んだ瞳は『私の犬が負ける? 笑止』と言わんばかりであった。

 

 はぁ。と大きくため息を吐いた。

「いいだろう。貧乏人の意地を舐めるなよ。ボンボン!」


 俺は細剣(さいけん)を抜くと、三銃士は文字通り銃を抜き俺に照準を当てた。

 

 銃声が轟いた。


 ・

 ・


「お、おのれ。覚えて……おけ」

 ガクッと三銃士のリーダーっぽい奴は気絶した。


「掃除終わりました」


「流石です!」


 マリアはわざとらしく、三銃士の背中を踏みつけながら俺の下に駆け寄って来た。

「勇ましいです! お怪我はありませんでしたか!?」


「え、あ、はい。大丈夫です」


「本当ですかぁ~」

 マリアは再度、わざとらしく地べたに突っ伏す三銃士を踏みつけながらぶっり子をする。まるでそこに人が居ないかのような振る舞いだ。


「……」


 俺はそれを見ぬように頬を掻いた。

 あ、顔面をつま先で蹴った。

 まるで、死体蹴りじゃないか。

 人の感情は足に出ると言う。

 FBIの心理術の本で読んだ。

 つまりはこの女の本性は結構怖い。


「お手を見せて下さいましぃ」


「え、あ、はい」


 マリアは俺の両手を握るとニギニギしてきた。


「まぁまぁ」


 何が、まぁまぁなんだろうか。


「ええ。なんと頼もしい……」


「あの、もういいですか?」


「いいえ。ダメです。このまま繋いだ状態で確認させて下さい。何か不具合が起きるといけませんので」


「え? いや、大丈夫ですよ」


「ダメです!」


 マリアは有無を言わさず、俺の手を離さなかった。


「ところで、天内さん。今日の放課後のご予定はですね」


「え。あ、はい」


「まず、19時まで、私。穂村さんと千秋と一緒に稽古。

 それから私のお家で夕食です。

 沢山召し上がって下さい。

 腕を振るいますわ」


「え、あ、はい」


「こう見えても、料理の腕を磨いてきましたの!」


「え、あ、はい」


「それでですね! 私は座学の方で秀才な天内さんに訊きたい事があるのです。是非ご教授下さい。勿論二人でお勉強です。夜が更けたらその後は……」


「な、なんですか?」


 彼女は顔を赤らめると。

「秘密です」


「え、あ、はい」

 コピペである。


 俺は人形。

 感情を殺したピエロ。

 それを演じるだけだ。


 ・

 ・

 ・


/3人称視点/


 マリアはルンルン気分であった。

 ようやく自分の手中に彼を納められた事にだ。

 既成事実を作ろうと画策した矢先であった。

 

 マリアの別邸の前で佇む香乃が2人に声を掛けた。

「迎えに来たぞ」


「香乃……」


「香乃さん。一体何をしに」


「今日は用があってね。申し訳ないけど、彼を解放してあげてくれないか? 大事な用なんだ」


「グッジョブすぎるぞ! 香乃」


「え? なんですって?」


「いや、なんでも。くぅ~。残念だぁ~。あったわ用事が。そうだった。そうだった」


「何があるんですの?」


「えっと~」


 香乃は平然と嘘を吐いた。

「前から約束していてね。

 今日は私の父が来るんだ。

 とんぼ返りなんだけどね。

 久々に親戚の顔を見たいと駄々をこねていてね。

 彼に会いたがっていた。

 食事の約束をしていたのを忘れたのか?」


「え? あ。うん。そうだった。そうだった」


「そう言う事なんだ。いいかな?」


「あの。でもこれから私とお食事とお泊りが」


「すまない。君も謝るんだ。予定を伝えてないのは君が悪い」


「お、おう。ごめんねマリアさん。そういう事なんだ」


「ネイ……いや傑。君は先に帰っていなよ。父を待たせすぎだ。先に行って顔を出してあげな。マリアさんにお礼とお詫びをしてから私は帰るから」


「え。お、おう」


「ちょっと。話を勝手に」


「さぁ行きな!」


「お、おう! じゃあ。また明日ね!」


「ちょ、ちょっと!」


「少し私と話さないか? マリアさん」


 マリアは天内を追う姿勢を取るが、香乃がその歩みを遮った。


「大事な話なんだ。いいよね? マリアさん」


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