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急転直下

 

 マリアは右手を腰に置き、左手で髪を(なび)かせた。カフェの丸テーブルで談笑していた千秋と小町に向かって。

「宣言しておきますわ!」


 千秋はビックリ顔で。

「なにを?」

 

 小町はポカンとした表情で。

「唐突ですね」

 

 マリアはオホンと咳払いし、余裕の笑みを浮かべながら。

(わたくし)と天内さんは晴れてお付き合いさせて頂く運びになりました!」


 学生の喧噪のみが辺りに木霊した。

 3人の間合いで沈黙。

 静寂であった。


「ん?」


「は?」


 2人は咄嗟に間抜けな言葉が出た。


 マリアはニヤケ面を隠さず。

「同じ穴の(むじな)……いいえ、(もと)ですかね。

 "(もと)"ライバルの皆さんには、しっかりと!

 そしてキッチリと!

 伝えておかないといけないと思いました」


「何を言ってるんでしょうか?」


「さぁ?」


 マリアは無視して宣言を続ける、拳を握りながら。

「本物の勝者は誰なのかと、悪は決して栄えない! 絶対に正義は勝つと!

 そして……正妻は誰なのかと。

 今後!

 天内さんに話す際、私を通さなければならないと! 

 それにです。敗北を告げに来る事。

 それが礼儀だと思いましたの。

 "(もと)"ライバルの皆さんにはね!」


 マリアらしい少し棘の入った、それでいて、嫌味と挑発の入った遠回しな宣言であった。


 しばしの沈黙。


 呆気に取られた小町と千秋はお互い見つめ合うとヒソヒソ話を始めた。


「マリア先輩は寝ぼけてるんでしょうか?」


「だろうね。可哀そうに」

 千秋はやれやれと肩をすくめた。

「とうとう現実と虚構の区別がつかなくなったんだろう」


「あー。妄想ですか。メンタルおかしいですもんね」


「おかしいなんて言っちゃダメだよ小町ちゃん。いや、現におかしいけど……」


「ああ。すみません。つい……。そのぉ~メンタル病んでますもんね。これでどうです?」


「その方がオブラートに包んでいるね。ボクもそっちの方がいいかな」


「あの……聞こえてますよ」

 マリアは自分の事が貶されている状況にツッコまざるを得なかった。

 

 2人は無視して続ける。

 千秋は怪訝な顔をしながら。

「いつもの事なんだよ。情緒が不安定になるとこういった発言が増えるんだ」


「大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫では……ない!」


「でしょうね」


「あの~」

 マリアは勝利宣言をしたにも関わらず、2人の予想と違った反応に困惑していた。


「いいかい小町ちゃん。メンタルを病んだ人間にやってはいけない事があるんだ」


「なんでしょう?」


「否定」


「そうなんです?」


「そう。否定はご法度なんだよ。まずは肯定してあげる。とて~も優しくね」


「しないとダメなんです? こんな変な先輩に気なんて使いたくないですよ」


「わかる。わかるよ」

 千秋は苦渋の顔を作りながら。

「でもね。こういった配慮を覚えていく事で社会の規律を学んでいくんだよ」


「はぁ~。面倒な先輩しかいないですね。このパーティー」


「すまない。ボクもそう思う。大変なんだよ。ボクも」


「同級生ですもんね」


「そう。運がいいのか悪いのかボクは2人の同級生。2人は変人だ。特に、傑くん。彼の奇人さで霞んでいるが、彼女(マリア)も一般常識から逸脱した奇人変人だ」


「誰が奇人ですか!」


「あー。まぁそうですよね。彩羽先輩。結局、否定はダメでしたっけ?」


「そう。否定してはいけないよ。こういう時はね。優しい笑みを浮かべながら頷いてあげるんだ」


「そんな事でいいんですか?」


「ああ。案外簡単なものさ。マリアはね……」

 ゴホンと咳払いした千秋は主語を変えた。

「人はね。自分の中の虚構妄想を否定されるとヒステリーを起こす可能性があるんだ。彼女は……ヒステリーを起こした人間は、タチの悪い事に立場を利用して暴力の限りを尽くす可能性がある」


「それはマズいですね。まるで子供じゃないですか。あ、子供でしたか」


「ホントにね。傍迷惑な話さ」

 千秋は続けて、小町に問うた。

「小町ちゃん」


「なんでしょう?」


「例えばさ。映画館で映画鑑賞している時に、突然赤ちゃんが泣いたとしよう」


「はい」


「そんな時は怒らないだろう?」


「ええ勿論です。余程器の小さい者は腹を立てるんでしょうが、私は怒りませんね」


「ボクもだ。彼女が妄言を吐いた時。それは赤ちゃんが泣いた時と同じ。そう思えば、(いささ)か気も楽じゃないか?」


「あー。なるほどですねぇ。そういうマインド。心持ちを持てと言う事ですね」


「その通りだ。じゃあ、否定しちゃダメだよ」


「わかりました。肯定ですね」


「そう。優~しくね」


 2人はマリアに向き直った。


 無視され、散々な事を言われていたマリアは青筋を立てながら。

「で? 終わりましたの?」


 小町は笑みを浮かべながら。

「ええっと。なんでしたっけ。とりあえず、おめでとうございます!」


「うんうん凄いねぇ。マリアはホントすごいもんねぇ!」


「ふざけないで下さいましぃ! ホントの事ですもん!」

 

 ・

 ・

 ・


/3人称視点/


 2人は知らない。

 2人は信じていない。


 しかし。

 マリアの言ってる事はホントの事であった。


 左脳の覚醒した男:天内はマリアの犬になったのであった。



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