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ハッ! 笑止。遂に来たか。組織の人間が……


/ユーグリット視点/


 多くの屍の先に奴は居た。

 血だまりの中佇むソレ。

 交戦するのに時間は必要なかった。

 ソレが禍々しいモノだと判断したからだ。



 ッ――

 

     ――ッ

 

 ッ――

 

     ――ッ

   

 ――ッ―― 


 四方八方に風切り音。


 残響―――

 

   ――残像

 

 残痕(ざんこん)――


 至る所に砂埃が舞い散った。

 高速が縦横無尽に粉塵を舞い上げているのだ。


「速いな……」

 

 恐ろしく速い。

 一切姿を捉える事が出来ない。

 目で追いつく事は困難。


 最大の警戒をするしかない。

 術式を展開し相乗魔法で組み上げたオリジナル魔術(オートカウンター)に切り替えている。近づいてこないのはこちらの足元に展開された術式を勘付かれているからだろう。


「どうくる?」

 

 ファントムと名乗る暗躍者。

 仮想敵。いや、魔人と目される存在。

 亡霊とされる魔人だ。幾度となく戦禍に現れたと報告されている。奴は既にマホロ中枢に侵入していた。魔人共はこの島にある核たるダンジョンを狙いに来る。グリッチを引き起こし終末の(とばり)を早める為に。


「ならば」


 見つけた以上。 


「ここで仕留める!」


 間合いに入った瞬間、所持するスキルで特性を盗む。

 相乗魔法で殺傷性の高い魔術に変換し、カウンターで仕留める。

 

 刹那―――虚空―――瞬き。


「まるで手品やな」

  

 目を疑った。悪態を吐き、自身を落ち着かせる為に笑みを浮かべた。なぜなら目の前の虚空にはいつの間にか、取り囲むように無数の切っ先が自身に穂先を向けているのだから。


「で? どう出る? 番人」

 

 それまで姿を失っていた亡霊が視界の端。

 人間の視野角の境界線。

 見切れるように語り掛けてきた。


「大した事はない。全て薙ぎ払う」


 少々驚いたが。

 

「防衛可能や」

 

 ・

 ・

 ・


 俺は昨晩1つの仕事を終えたのでゆっくりと学生タイムを過ごしていた。頬杖を付き雲を眺めながら平和と調和を噛みしめ妄想タイム。

 

 例えばだ。

 学園モノにありがちな学校にテロリストが攻め込んでくる展開。それを妄想した。

 

 滅茶苦茶あり得ない展開だがテンプレだ。

 あるのだ。

 超常の世界ではなぜかテロリストは学校に攻め込むのだ。

 理由は沢山あるがツッコみ所しかない。

 そもそも白昼堂々なぜ攻め込むのか? 

 とか、ターゲットを仕留めるなら暗殺しろよ。

 とか色々言いたい事もある。

 しかしそんなツッコミはご法度である。

 無粋なのだ。

 そんなツッコミ所満載の超イベントはメガシュヴァのストーリーにもある。


 本来は。


 そんな期待感とテンプレを涎を垂らしながら待っている連中も居るのだろうが。超天才である俺はすぐに封じ手を放つ。奥義:テンプレブレイカーである。


 見せ場の少なそうなキャラにスポットを当てがちな展開。

 

 テロリスト侵入イベ。 

 トーナメント戦。

 未知のダンジョン探索。

 

 相場が決まっているのだ。


 そんなテンプレの一つテロリスト侵入イベは俺の神の采配により破綻した。昨晩破綻させてきたのだ。テンプレ通り進むルートを壊す作業。

 

 本来1本道に進むレールを書き換える事。

 結果、未来が劇的に変わる。


 物語の絶妙な歯車を巻き直す作業。

 未来に干渉するという事。

 死ぬべき人間が生き。

 闇堕ちする奴は闇堕ちしない。

 壊れるモノは壊れず……

 

 その逆も然り。

 

 つまりだ。

 何が言いたいのかと言うと。

 予め決められた未来を書き換える事は、予想だにしない展開を引き連れてくるのだ。


 俺は授業を終え、帰り支度をしていると黒服の男女数名が俺の下にズカズカと歩いてきたのだ。

 

 知らない連中だった。

 見た事のない顔。

 アホ面下げた連中は俺を取り囲むと。


 先頭の男が死んだ魚の眼をしながら。


「天内傑くんだね」


「え? あ。はい」


 モブ48手の一つ。『え? あ。はい』がオートで発動した。意味のない羅列を発する事で時間を稼ぐ作業。ポイントは馬鹿なフリをする事。これは演技力が試されるのだ。一朝一夕では発動出来ない声音とタイミング、目線の動かし方と立ち振る舞いが要求される。

 

 モブ力の真髄。

 

 上司にミスを見つけられた時『そんな事ありましたっけ?』と、すっとぼける為の第一手目の言葉なのだ。NPCを装うのだ。


「ふむ、彼で間違いないようですね」

 黒服くん達は2、3会話すると、再度俺に向き合った


 さて、何が起きる?

 こいつらは俺に何の用だ?

 心当たりが多すぎて皆目見当がつかない。

 

「任意同行してもらえるかな?」


 任意同行???

 

「ハッ」

 俺は笑ってしまった。

 

 俺の脳内シナプスが、神経伝達速度が、電気信号が、瞬時に駆け巡ると直感したのだ。両手を上げて天を仰ぐ。


「遂に来たか。貴様ら組織の人間か?」


 それっぽいセリフを捻り出してみた。


 探り作業。


 どうなんだ?

 お前らは何者なんだ?

 ここまでなのか? 

 俺は!?!?

 

 俺の問いに黒服は答えず。


「話は事務所で聞こう。いいかね?」


 ジムショ?


「なるほど……そういう事か」


 冷静。

 表面上では。

 まるで水面は穏やかに波紋を立てぬかのように。

 

 余裕をぶっかました。


 遅刻ギリギリなのに絶対に喫煙所に行くヤニ中のように、留年するかしないかの瀬戸際なのに試験に無勉で挑む強者の(バカな)学生のように、借金で首が回らないのにパチンコに行く債務者かのように……


 余裕をぶっかました。


 そっちの方がかっこいいから。


 大人。

 クールな大人。

 それが俺の理想像。


 しかし!


 内心は天変地異が起きていた。

 遂に年貢の納め時なのか……とな。

 ガタガタと震えていた、


「そうですね。行きましょう」


 余裕の笑みと会釈を交え映画で観たサイコパスっぽい雰囲気を漂わせながら俺は席を立った。クラスの連中は俺が黒服に連行される様を観察していた。


 勿論、白い目で。


「フッ」


 笑うしかなかった。

 全く予想だにしない出来事。

 

「……やりすぎたか」


 院卒になるのか。

 院は院でも少年院の方な。

 全ての悪事が暴かれた時……

 

 院卒にはなれんがな。


 ・

 ・

 ・


/マリア視点/


「一体どうすれば」


 お久しぶりですマリアです。なんだかいつの間にか忘れられた私はボーっとしている日々が続いていました。


 何も進展していないのです!


 なんなら振り出しに戻った所か後退したような気がするのです。


 私と天内さんのラブストーリーが!!


「私の対応がおざなりぃになってませんか!? い、イケない。なんと、はしたない」 

 

 つい叫んでしまいました。天内さんの影響からか、つい1人で叫ぶ癖が私にもついてしまっているのです。あ、ちなみに天内さんがはしたない訳ではありません。

 

「素直。そう、素直なだけですから」

 

 さらにです。天内さんの姿を追う事が以前よりも困難になりました。彼はとても忙しく過ごされています。常に数名の者とコンタクトを取りながらパソコン片手に目まぐるしく動いているのです。

 

 世界を股に掛ける彼の事でしょう。

 きっととても重大な事なのでしょう。


 挨拶すらも困難になりました。


 勿論、暇を作っては私達と共に過ごして頂けますが、お会いする機会はめっきり減りましたの。突発的に行われたダンジョン攻略がつい先日ありましたが、それ以降はメールによる指示のみ。授業終わりや昼休憩の際に彼の下に駆け付けますが、居ないのです。


 千秋さんも穂村さんも同様のようでした。


 そしてついさっき。

 『皆さんの臨界点は間もなくです。これから俺が君達に教えられる事は殆どない。スケジュールを組み直すので、各々自由に過ごして下さい。俺は院卒になる』の一文。


 まるで私達が必要無くなったかのような一文だったのです。落胆し、フラフラと学園を歩いている時でした。


「あ……」

 

 天内さんが居た。


 黒服の男女の集団に囲まれ。

 彼らを引き連れた彼は、携帯を片手に神妙な面持ち。


「とても、とてもお辛そうな顔……」

 

 顔が青ざめ見た事のない表情をなされていたのです。

  

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