表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
240/457

――サトシ・ナカヤマ――


 仮想通貨:ブットコイン。

 創始者とされる人物サトシ・ナカヤマ。

 この人物は闇に包まれている。

 俺の居た世界にも似たような人物が居た。

 国家規模、もしくはそれ以上の権力を持つ者達によってあえて首謀者を隠している恐らく存在しない人物。


 それがこの世界にも居る。

 

 そもそも通貨偽造罪は大罪であり、処刑案件である。それは国民国家の最大の力の一つ通貨発行権を脅かす事に繋がるからだ。

 つまり、経済を崩す事は国を崩す事に繋がる。

 

 暗号通貨(クリプトカレンシー)、身近な制度で言えばポイント制度。

 唯一の抜け道としてポイント制度という新しい通貨制度に代わるシステムを多くの企業が導入してきた。鉱物でも紙幣でもない為、債権としても成り立たないポイント制度。

 

 あれは実は抜け道の一つだったりする。

 かなりグレーなモノだ。

 消費者が得をしているように錯覚させる制度。

 なぜなら現実問題、債権として成り立たない。

 故に見逃されているのだろう。

 さらに突っ込んで言えば、ポイント制度による物々交換は一企業レベルで仮想の経済圏、仮想国家を作っているようなモノであり……

 

 国家侵略と捉えかねない危険なファクターを含んでいる。


 暗号通貨ブットコインは希少金属の代替信用取引物として価値を上げている。初の国民国家の主権から外れた非中央集権(ディーセントラライズ)の仕組み。ブロックチェーンと呼ばれる分散型台帳化された数兆レベル、数十兆レベルの上昇利益(キャピタルゲイン)を一度もトラブらず来ている恐るべきシステム。権力が介入できないデジタライズ化された初の通貨。


 この暗号通貨による送金システムは信用取引において徐々に浸透している。もちろん過去の信用において成り立っているが、それは脅威だ。


 なぜなら、これはやろうと思えば通貨偽造が出来てしまうからだ。


 もし、もしだ。

 

 経済恐慌を意図的に仕組む事が出来れば、戦争の引き金を弾く事は容易だ。金は人を生かすと同時に、金は人を殺せるから。


 居るのだ。

 この世界にはマニアクスが。

 前世では居なかった架空の人物サトシ・ナカヤマ。この世界には金を支配するマニアクスが確かに存在するのだ。


 いや……もしかしたら。 

 前世にも数字の魔人は居るのかもしれないが。


 ・

 ・

 ・


 俺、カッコウ、香乃、翡翠は4人で作戦会議を開始した。


「マズイな……アイツ相当頭がキレるぞ。一気に経済が動き始めた。最終戦に向けて動きが活発になってきた」


 カッコウはわかっていたように。

「希少金属が大量に買い占められた件ですね」


「そうだ。特に魔鋼石やオリハルコンがな」

 

 これらアイテムはメガシュバでも非常に重要アイテム。

 錬金や強化に必須なのだ。

 大量に買い注文が入った。

 市場からは消え、価値が暴騰しているのだ。 


 意図したかのように。

 いや操作された。


 カッコウはヒノモトの鉱石の輸出と輸入を制限するよう根回ししていたようで、最低限確保しているようだが……


 俺ははホワイトボードに1人の男の名を書いた。


「サトシ・ナカヤマ」


 香乃は不思議そうに。

「この人物がなんなんだ?」


 それに答えるように翡翠が。

「仮想通貨ブットコインの創始者とされる者……ですね」


「そうだ」


 今や主流となった仮想通貨。

 暗号通貨と呼ばれる技術と概念体系が出来たのは、ここ10年程度の話だ。


 元の世界にもあった暗号通貨。

 前世の世界でも創始者は正直"謎"である。

 そもそもそんな者は居ないという話もある。

 なんなら国家レベルの捏造という話があるくらいだ。


 疑似通貨とも呼べるそれは、実体のない資産である。


「カッコウくん。この2人に説明してあげなさい」


「わかりました。まず現在、最も価値のある鉱石は何でしょう?」


 翡翠は。

「オリハルコンですか?」


「その通りです翡翠さん。このオリハルコン。毎年一定の採掘量を誇りますが埋蔵量も把握されており、現在でも希少金属に他なりません」


「そうですね」


「総量が把握されているオリハルコンと、発行上限のある仮想通貨ブットコインですが。これは密接に繋がりがあります」


「どういう事でしょうか」


 どういう事なのか俺にもわかりやーすく解説を頼むぞカッコウ。


「まず、簡単な投資の話から」

 カッコウはホワイトボードの前に立ち、文字を書き始める。

「現在、最も高価に取引されている現物のオリハルコンの時価総額は10.5兆ドルが天井と言われてます」


「は、はぁ」


「そして現在最もメジャーな仮想通貨ブットコインの時価総額は0.39兆ドルです」


「そうなんですね」


「余談ですが、仮に100万円をブットコインに投資した場合。『10.5÷0.39』で最大の上げ幅でも精々27倍弱と計算できます。仮に100万を運用してピークを迎えたとしても2700万程度にしかなりません。さらに現在のヒノモトの税率は5割なので、決済を行っても儲けは1350万程度しか手元に残らない状態になっています」


「く、詳しいですね……」


「そんなオリハルコンとブットコインは、市場経済が冷え込んだ際に資産の逃避先と選択される事があります。それはなぜかわかりますか?」


「経済が不安定でも価値が変動し辛いからではないですか?」


「その通りです。オリハルコンは総量が把握されており、ブットコインも同様に発行制限があるという点から価値がある程度担保されている。この2つはあらゆる国で通貨と交換でき。決済が出来ますし。偽造が不可能でもあります。これそのものに経済的価値と言う信用が存在している。その点で非常に似通った金融資産としての効果を持ちます」


 香乃は考え込むように。

「ほう。そんなモノがあるのか」

 

 そうなんだね。俺もよくわかってなかったわ。

 

「そしてこの2つには面白い機能があります。オリハルコンとブットコインは似通っているにも関わらず情勢によって売り買いが変動する逆相関関係にあると言われています」


「は、はぁ」


「市場経済が低迷傾向にあれば、資産の逃避先の側面が強い価値の裏付けがないブットコインよりも現物として価値のあるオリハルコン資産への投資が活発になります」


「なぜですか? どちらも同じ性質を持つならば、経済が冷え込めばどちらにも買いが発生するはずでは?」


「良い質問です。本来似た性質を持つ2つは相関関係があるように思われますが、実は違います」


「どういう事でしょう?」

 

「実は逃避先の資産としてのブットコインの価値が下落した場合、オリハルコンを買うという行動に移るのです」


「どうしてです????」


「これはチャートを見ればわかるのですが、ブットコインの高い信頼性が起因になっていると考えられます。投資家は運用におけるリスクを避ける行動を取っていると思われるのです。逃避資産としてのブットコインを売り、オリハルコンを買うという行動が起きているようなのです。勿論、売り注文が大量に出ればブットコインの価格は下がり、オリハルコンに大量の買いが入れば需要と供給の問題から価値が上がります」


 こ、コイツ。何を言ってるんだ? 

 マジの金融屋じゃん。


「しかし今回、意図的にブットコインの価格を下げた者が居た。ドミノ倒しのように、逃避資産の価値が下落する事を恐れた投資家により、希少金属に買いが大量に入ったんです。ですよね?」


「う、うむ」


「意図的に下げた者ですか?」


「それが……」


「サトシ・ナカヤマか」


「そうです。そしてその人物を天内君は知っている。僕もおおよその想像がつきますが」


 お前の説明の殆どを理解できなかったが。

 俺はその人物が誰なのか知っている。

 だってゲームのシナリオに書いてあったし。


「そう。貧者だ」


「貧者……」


 香乃は。

「マニアクスの一騎か」

 

「ええ。そうなのです。意図的に鉱物資源の買いを世界規模で起こしている。国際規模で狙いのヒノモトを締め付けようとしていると考えられます。そこに莫大な鉱物を、ある国が市場よりも高い値で買えば、兵糧攻めという観点。そして一方的に完全武装の準備が整います。天内くんはそう言いたいのです。ですよね?」


 香乃は怪訝な顔をしながら。

「そうなのか?」


「お、おう。そーいう事」


 俺はシナリオで知っていたが。

 カッコウは頭が良すぎて、的確にマーケティングしているようであった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ