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トウキョウ・D・ランド


 砂糖を焦がした甘い匂いと香ばしい匂いが辺りに充満していた。

 人が入り乱れている。

 家族連れ、カップル、友人同士。

 人、人、人。

 お祭りのようであった。

 いや、お祭りを疑似的に体験できる場所に居た。 


 着ぐるみ姿や仮装をしたキャストの大名行列が遠くの方から見える。


「そろそろ生誕ライブのパレードが目の前を通りますよ。それはそうと、これをどうぞ」

 翡翠が飲料を渡してきた。


 俺は無言で受け取ると。

「あ、そう」


 レジャー施設特有のロゴが印刷された紙コップ。

 中身はテーマパークにありがちな蜂蜜レモネード。

 やけに氷が多いな……ケチ臭い。

 いや、そうじゃない。


 俺の隣のカッコウが。

「どうしたんです? 眉間に皺を寄せて」


「ジャンルがおかしくなったのかもしれない。どこで分岐を間違った?」


「ジャンル?」


 正直。カオスな状況に頭がおかしくなりそうだった。

 視線の先には不服そうな千秋に、にこやかなマリア。

 まつり先輩は小町を気に入ったのか、無理矢理連れまわしているのだ。

 

「う~ん。やばいなぁ」


 俺は唸った。

 色々とおかしな事になった。


「やばい? 何かあるんです?」


「ああ。悪い。身構えるな。少々面を食らったという表現が近い」

 

 今の時期だと、最終戦に向けて下界では徐々に重々しい雰囲気に突入するはずなのだが、俺が早期に攻略をしすぎて未来が大幅に変わった。


 結構な数の主要人物を既に退場に追い込んだ。

 現在進行形で盤面を引っ掻き回している。

 詰ませにかかっているのだ。


 結果。

 街は焼け野原になっていないし。

 金融恐慌も起こっていない。

 魔物は進軍して来てはいないし。

 ヒノモトで戦争は起こっていない。


 故に世間が結構ほのぼのとしているのだ。

 それはいい。望んだ結末だからだ。

 未来が変わるのは想定内ではある。しかし、俺の置かれている状況がここまでジャンルが変わってしまうとやや緊張感に欠ける。 


 そして状況を整理せねばならない。

 

 俺の隣にはカッコウと翡翠。

 視線の先にはマリアと千秋、まつりと小町の姿があった。

 現在、俺達はレジャー施設に来ている。


 チバにあるTDL……でなくTDRランドに来ているのだ。


 そう『トウキョウ・D・ランド』に来ているのだ。

 

 馬鹿みたいな名前だろ。

 

 『LandじゃなくてRandなのかよ!』とか『Dってどういう意味なんだよ!』とか『そもそもTDRってなんなんだよ!』とか色々ツッコミたい。非常にツッコミたい。だが俺はツッコまない。ツッコんだら負けだからだ。いや、言葉を変えようか。名前に関してツッコんだら明確な何かに屈する予感があるからだ。時に人は流れに身を委ねる事も必要なのだ。

 

「なんでこんな事になったんでしたっけ?」


「良い質問だね。カッコウ君。事の始まりは俺が争奪戦に負けた所に戻らねばならないだろう」


「申し訳ない。それは僕の責任でしょう」


「責めている訳ではない」


 部員増加と活動実績を無理矢理こねくり回して部費は微々たるものだが分配された。莫大な富は手に入らなかったが、一般的な部活動の部費は入金されていた。


 話を遡るとだ。

 支援金争奪戦。

 これに俺は敗北したのだ。

 莫大な富を獲得出来なかった。

 TDRの連中もいつの間にか敗北。

 作戦は大いに失敗した。

 俺が先頭で指揮を執っていれば結末は変わったかもしれない。そこが悔やまれる点だろう。

 

 ちなみに莫大な富を築いたのは、漁夫の利を得たクイズ研究会。俺の秘密兵器で殲滅しきれなかった部活だ。こいつら莫大な富を足掛かりにスポンサーを獲得し、動画投稿サイト:ヨーチューブとQ殿なるTV番組で偉そうな顔をしてうんちくを述べているのだ。スターダムを駆け上がりつつある全く忌々しい連中である。


 次点で総宝玉獲得数が多かったのは、お料理研究会の連中。一体どんな権力が動いているのかわからないが、二位に位置付けたこいつらは、彼ら主役のお昼の『6分クッキング』なる帯番組が開始されたのだ。

 

「我々……俺は敗北し、その後園芸部員を募った……いや、部費を少しでも増額して貰う為に知人であるニクブやガリノに入部を頼んだ。しかし知っての通り断れた」


「ですね。彼らは既にコンピューター研究会と鉄道研究会に所属してますもんね」


「そうなのだ。知らなかった。怪しいサークルで違法な事をやっている連中だ。違法アップロードサイト運営に鉄道侵入と迷惑行為の数々。俺はアイツらの違法を当局に通報済みだ。間もなく生徒会によって解体されるはず。まつり先輩にもお願いしてある。徹底的に追い詰めて下さいとな。くっそ金を返せ。ゲロ禿げ共め。忌々しい奴らだ」


「そ、そうですか……なんだか私怨が入っているような」


「俺達は互いに足の引っ張り合いをするのが日常茶飯事だからな」


「で、ですか……」


「ああ。悪い。話を戻そう。

 あのアホ共の事はどうでもいい。

 でだ。千秋はなんだかんだ入る流れにしたが、このままでは部員は少数精鋭という名の人手不足。そこでお前と翡翠を勧誘した訳だ。ここまではいいだろう」


 翡翠と雲雀は俺がヘッジメイズに移籍する前にカッコウに頼んだ裏工作によりこの学園の生徒になっているのだ。


「ですね」


「で、どうして俺は今、夢の国に居るかと言うとだ。翡翠! お前だよ!」

 

 それまで横で黙っていた翡翠は間抜けな顔で。

「はへ?」


「あろうことか。マリアと小町を引き連れてきやがって!」


「どうです? 私の采配は。見事ではありませんか?」


「見事じゃないね。カッコウよ。このテーマパークに来たのは、翡翠主導なんだよ」


「そうだったんです?」


「ああ。そうなのだ。全部コイツの仕業なんだよ。黒幕はコイツ!」

 翡翠の額に人差し指をグリグリと押し付けた。


「痛い。痛い。痛いです」


「まぁ、まぁ落ち着いて下さい天内くん」

 カッコウは俺を引き離すと。

 

「なんで貴重な部費をこんな事に割く羽目に」


「なんのことやら。そもそも部費を使って歓迎会を開くのは天内さん主導の発案。親睦を深めるために学生らしくテーマパークを選んだだけ。お食事会では物足りないでしょ?」


「ああ言えばこう言う。お食事会で十分なんだよ。残飯(三郎ラーメン)でも食わしとけばいいんだよ」

 

「残飯って……それにカウンターのみのラーメン店で歓迎会なんて味気がないじゃないですか。お嬢様たるマリアさんが悲しい顔をしますよ」


「いいや。しないね。庶民の味に咽び泣くね! 美味すぎる! 替え玉くれ大将! って言うね。それにマリアを勝手に呼んだのはお前じゃないか」


「部員を増やすよう頼まれたので一番確度の高い人物を選んだまでですよ」


「数合わせにTDRのアホの中から2、3人連れて来いって頼んだよ。俺は!」


「あら。そうだったんですか。

 言葉が少なくて意図を把握しきれませんでした」


「ぐぬぬ」

 

「それにですよ。私は、そろそろ、だと思っているんですよ」


「なにがそろそろなんだよ」


「そろそろ次のステージに誘導しなくては彼女達が可哀そうではありませんか」

 翡翠は、はしゃぐ女生徒に視線を移す。

 

「次のステージぃぃ?」


「そうです。天内さんはあのお二人を拒絶されましたが、それではダメです。それではおかしくなってしまうのです」


「なにがおかしくなるんだよ?」


「まぁ色々と。おかしくなる前にそろそろ私が舗装整備をしなくてはと思ったまでです」


「はぐらかしやがって。それになんの舗装だよ」


「ヒロインレースの」


「ふざけてんのか」 

 翡翠のこめかみを掴もうとするが、(かわ)される。


「やれやれ。天内さん。古今東西ラブコメで誰も選ばない。そんな男はあり得ません。悪漢、下種男以下。私は彼女達の気持ちの代弁者。もう諦めましょう。ね?」



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