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白亜の竜 『副題:セラフィック・ゲートキーパー』


/3人称視点/


 現在、支援金争奪戦は最終局面に突入しようとしていた。


 局所的に、魔術によって生み出された不自然な雨雲が空を覆っていた。

 夕方にも関わらず、雨雲に覆われた一帯は夜の闇の中のようである。

 その中に一団が佇んでいた。


 カッコウは敗北した。

 だが確かに彼は風音に膝を突かせる事が出来たのだ。

 同様にTDR残党は殆どが壊滅している。

 支援金争奪戦を生き残ったメンバーは数えるほどしか居ない。

 

 残るメンバーは強者揃い。

 システリッサを除くTDR四天王を降した風音パーティー。

 カッコウを降した風音。

 主種雑多な団体が入り乱れるマリアや小町の居る連合軍の実力者達。


 彼らは一様に天を見上げていた。


 1人の生徒は無意識に。

「あれはなんだ?」


 そんな疑問を皮切りに皆一言ずつ言葉を紡ぎ出す。


「禍々しい」


「逆だろう。荘厳で神々しいとも言える」


「何が起ころうとしているんだ?」


「絶望かもしれん」


 連合軍でも指折りの実力者達の視線の先。

 その余りにも隔絶したナニカに口を開けながら、そんな感想を述べる事しか出来ない。


 小町はその眼を以ってしても理解しえないナニカに畏怖を覚えていた。

(視えない。カタチも魔力も視えない。何もない。何も感じない)

「アレは一体……なんでしょう?」


「アレはきっと学園が用意した最後の守護者(ゴーレム)なのではないでしょうか?」


 マリアは常軌を逸したナニカに向けてメイスを振り上げると最大魔力を込めて照準を合わせる。


 アレが敵か味方かはわからないが、地上に向けて攻撃を発しようとしている事だけ皆本能で理解したのだ。

 

 頭上高く。雨渦の中。

 雷鳴轟く天空。

 頭上に浮かぶは一騎の騎士。

 

 白銀に輝く甲冑には雷が帯電していた。

 

 両手を不遜に広げ空を浮かぶ騎士。


 異様なのは騎士の周囲。

 時計の針のように。

 恒星を中心に周回する惑星のように。

 騎士を取り囲むように無数の刃がグルグルと回っていた。


 それらはまるで天の環のように発光していた。



 ―――極光降臨―――



 連合軍から少し離れた位置から風音が一言。

「あれは……以前会った」

 ヘッジメイズにて邂逅したその鎧姿の騎士に見覚えがあった。

「極光の騎士なのか?」

 と、聖剣に語り掛ける。


「……わからない」

 聖剣は記憶にある極光とは違いすぎる雰囲気に懐疑の声。

(見た目は似ている。似ているが……)


「そうか……」

(あれではまるで魔の物だぞ)

  

「風音。鑑定、解析、理解を発動できるか?」


「うん。やってみるよ……」


 ヴァニラ討伐戦により、深淵(アバドン)を覗き覚醒した主人公。

 主人公特有の特権スキル。

 主人公のみが許されたチート。

 "鑑定"、"解析"、"理解"。

 それらが眼前の先に浮遊する一騎の騎士に向けて発動した。


 ――――

 鑑定結果:

 種族:なし 

 属性:天

 生体反応:なし

 魔術:なし

 スキル:なし

 アーツ:なし

 ステータス状態:不明

 

 解析開始:

 実行…検証…再起動します。

 実行…検証…再起動します。

 実行…検証…再起動します。

 D.C.(先頭に戻る)

 

 理解:不能。アクセス権限なし

 ――――


「は?」


 殆ど意味不明な数値しか弾き出してこない。


「どうだ? 何かわかったか?」


「いいや。何も……何もわからない。何も……でもあれは人じゃない」


「……どういう意味だ?」


「わからないんだよ」


(なんだアレは? エラーではない。鑑定不可でもない。

 何らかの妨害が行われている訳でもない。

 いいやそれだけじゃない。

 属性:天? 属性:地でも、人でもない?

 なんだ? 何者だ? 生きていない?

 意味不明だ。それに何をする気だ?)


 そんな彼らの困惑をよそに。


 白銀の甲冑を身に纏う騎士は不穏な雰囲気を醸し出しながら片手を天に掲げ、許諾申請を通す。


(あけぼの)(あかつき)叢雲(むらくも)(いかずち)天霧(あまぎり)白雪(しらゆき)渦潮(うずしお)。申請開始」


 すぐさま申請した解答が届く。


 曙……却下。

 暁……却下。

 叢雲……却下。

 雷……許諾。

 天霧……却下。

 白雪……却下。

 渦潮……却下。


「殲滅兵装雷號(いかずち)……解放完了。充電開始」


 風音は一目でその騎士が極大範囲で地上に攻撃の照準を当てているのを感じ取った。


「まずいぞ」


 風音が現在持ちうる最大火力の奥義。八割以上の魔力を消費する『星の息吹』によって迎え撃つ準備を開始した。


「待て! やるのか!?」


「学園が崩壊するかもしれない。迷っている余地はない! あれは人じゃない。だったらここで!」

 

 聖剣の制止を聴かず、最大火力の必殺を発動した。

 

 甲冑の騎士はエネルギーを充填し始めると口上を述べ始める。

「人類最大災禍。撃滅の一撃を以って、ここに(いかずち)を指し示す。天を切り裂く光の刃。粛清の(いなな)きの前に全てを焼き尽くせ。雷號一閃(サンダーボルト)


 白銀の甲冑が掛け声と共に掲げた腕を振り下ろすと同時に。


星の息吹(アルビオン)!」

 風音もまた最大火力の一撃を放った。


 

 天から降り落ちる撃滅の雷。

 それを迎撃するかように、地上から放たれた星の息吹たる眩い白皙の光の柱。

 

 

 二つの力の塊は衝突した。

 

 

 その光景はまるで。

 白亜の竜(アルビオン)が地上を襲う災厄から人類を守るが如く。


 独特な音を奏でながら。

 その衝突音はグリッチノイズに似た独特な反響音。

 周囲を木霊する轟音。


 皆がその音に顔をしかめる中。

 

 マリアはその光景にデジャブを感じた。

「あれは極光……」

(今まで意識していなかったですが……彼はこの世界の)

 本物の伝説の騎士が風音なんじゃないか。

 という認識を初めてした瞬間でもあった。

 同時に頭上に浮かぶナニカが恐ろしい化け物のようにも感じ取った。

「あれはゴーレムなんじゃないんですの?」 


「なんと凄い」

 小町もまた隔絶した力のぶつかり合いを間近で見て、そんな感想しか出てこなかった。


「これが彼の聖剣の力なのか」

 フィリスは茫然とその光景を目に焼き付ける。


 撃滅の雷を打ち返そうと光の柱は均衡していた。

 

「なんだこの力は!? 魔人をも超えるか!?」

 風音の額に汗が滲む。


(魔力がガンガン減っていく。頭が朦朧としてきた。まだ終わらないのか)


 撃滅の雷撃は一向に力が衰えない。反比例して風音の魔力は恐ろしいスピードで消費されていく。 

 

(時空間魔法で飛ばすしかない。できるのか? 因果返しは彼との戦闘で使ってしまった。日に何度も使える代物じゃない。でも力勝負では互角……いや、やや分がない。このままでは消耗戦)


「ここまで全力を使うなんて思いもよらなかったよ! 因果返し(フェイルバック)!」


 風音は過去未来に対象を吹き飛ばす、時空間魔法を発動した。

 本来、日に一度しか使用できない最大防御・回避の魔法。

 彼は覚醒の次の段階に至ろうとしていた。

 主人公補正という名の最高の力によって臨界値に到達しようとしていたのだ。

 

 遂に2度目の時空間魔法を発動する事に成功する。


 白銀の騎士に向けて発動するが……


「な!? 弾かれた!?」

 

 驚愕。

 時空間魔法が通じなかった。


(なんで? 魔人には通じたのに。クッソ!?)

 

 頭を振るい。

 本日3度目。

 本来、日に回数制限ありのチート魔法をもう一度発動させる。


「いけるか? いややる。やってみせる」


 風音は限界のその先に足を踏み入れた。

 

 撃滅の雷に対象を定め時空間魔法を発動したのであった。

 彼は持ちうる全ての力を使い。


 遂に限界を突破した瞬間でもあった。

 

 ・

 ・

 ・


 ――時は少し遡る――


 間もなく争奪戦終了時刻。

 

 天内はソワソワしていた。

 彼は敗北を悟り始めたのだ。

 事前に探索していたエリアは既にもぬけの殻。

 集めた宝玉の数は10もない。

 単独で集めたにしては十分であるが、対抗戦を勝ち残れる数ではなかった。

 

 彼は時計をちらっと盗み見る。


「もうすぐ、頭上を通過するか。ちょっとだけ、本当にちょっとだけならいいか。10分……いや5分ぐらいなら」


 天内は空を見上げた。


 千秋は天内の肩を叩くと。

「もう諦めなよ。傑くんは頑張ったよ」


「いや、まだだ。俺は絶対に諦めない。諦めてはいかん。諦めなければ……なんて事は言わない。けど、自分の出来得る全力の努力をした者にのみ運は訪れる。その運命を手繰り寄せてみせる!」


「なんか、かっこいい感じの事言ってるけど……なんだかなぁ」


「それに! 俺はレディに金を出させるほど男として終わっちゃいない」


「小町ちゃんからお金(たか)ってたけどね。それに横領は出来ないぞ」


「横領はしない。はっきり言おう。歓迎会の! 会費だから!」

 

「部費で奢って貰ってもなんにも思わないし、なんだか情けないよ」


「だまらっしゃい!」


「……」


「おい。そんな目で見るな。視線が痛いじゃないか」


「明日はボクが出すからラーメンに行こう。今日でもいいけど。もうそれでいいだろ?」


「終了時刻18時まで、あと30分ある。俺以外が全滅すれば、自然と俺が勝つ……」


「そんなのムリだよ」


「いいや。諦めない。その可能性はある!」


「えぇぇ」


(裏工作をし続けている奴は、間もなくここら辺の衛星軌道上を通過する。

 俺が動けない以上、アイツを数分だけ呼び出して、残党を一掃して貰うしかない。

 そしてアイツは必ず動くはず。最大の障壁:主人公。

 さて、現状どこまで育っているのか採点と行こうか風音くんよぉ)


「フフフ」

 

(さぁ。採点の時間だ。お前の本気を見せてみろ。この俺になぁ)


「突然ニヤニヤして大丈夫?」


「モーマンタイ。そんな事よりも。ダンジョンに潜り獲得可能な宝玉を奪取しに行く。手伝ってくれるか?」


「はぁ……まぁいいけど」


 天内と千秋は2人して低層ダンジョンに潜ったのであった。


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