それぞれのバトル展開 と 全然合流しないアイツ
/カッコウ視点/
秘剣を打ち砕かれた。
相手からの切り返し。
桜井の放った斬撃が目の前に迫っていたのだ。
刹那の世界。
それは走馬灯のようなモノなのだろう。
そう直感した。
―――
――
―
それは少し前の話だ。
夢魔界から帰還したての頃の話。
久々にサウナにて彼と会話をしていたのだ。
「え!? 天内くんの切り札がなくなったんですか!?」
「まぁ~ねぇ~。少々火力が落ちた」
彼曰く、終末に対抗する為に収集した切り札が3つあるらしいのだ。手に入れるのに非常に苦労したとは聞いていた。それも命懸けで手に入れた代物。夢魔界にて、その一つ、光剣を彩羽さんの蘇生処置に使ったそうなのだ。
「よかったんですか?」
「まぁいいだろ。大したことじゃないさ」
彼は何とも思ってなさそうだった。
「根絶者討伐に一役買ったものでは……」
にわかには信じがたいが、彼は過去に行き根絶者と呼ばれる終末を彼の光の剣で切り裂いたらしいのだ。
「まぁね。なんとかなるだろ。切り札の切り方ぐらい知ってる」
「そう……ですか」
光剣がもし本当に伝説の極光を宿す物ならば、失われたとなれば、その損失は計り知れない。終末を1騎屠るほどの力を秘めた武具。彼も手に入れた時は嬉々として報告してくれたほどだ。
何よりそれほどの力を秘めたモノならば人1人の命よりも価値があると捉える事ができる。
考えるまでもない。
どう考えても重要だ。
聖剣使いの聖剣がなくなると同義。
簡単に"最強"、"最高の栄誉"を捨てた事に他ならない。
光の剣は世界の遺産であり、決戦兵器の一種だったに違いない。彩羽さんに申し訳ないが、彼女が死ぬのか死なないのかわからない状況であったとしても、決して失っていい代物ではない。
"大"を拾い上げるには、躊躇いなく"小"切り捨てるべき。君はそんな主義ではないのか? 何より……光剣の価値について一番知っているのは君ではないのか?
「本当に良かったんですか?」
彼は言葉で語る事と行動がチグハグだ。
「なに気にするような事じゃないさ。次弾は装填済み。元から全て使い切るつもりだ」
全て使い切る? どういう意味だ?
全て織り込み済み。何かの策が既に発動済みという事か。
では、これでこの話は終わりだろう。
「機会があれば、いずれその片鱗を見せてやるよ。そんな事よりも……おっさんが居なくなったな」
彼は僕ら以外の客が退出するのを確認すると。
サウナ室で腕立て伏せを始めた。
普段服を着ているとわからないが、逆三角形で無駄な脂肪のない引き締まった体躯である。身体中に雷紋のような幾何学的な傷や痣が浮かび上がっていた。
そんな彼に不意に質問したのだ。
「そう言えば、天内くんは多彩なのにずっと鍛えてますよね」
「ああ。最後は肉弾戦だからな。最後はこの拳と足腰が重要になる」
「最後? ですか」
「そう。フィナーレは肉弾戦って相場が決まってるの」
彼は片手のみで腕立て伏せを始める。
次に掌底を地面から離して、指5本のみで身体を支える。
地面への接着点が指5本から4本、3本と減っていく。
指立て伏せである。
最後は指1本で身体を上下させる。
「凄いですね」
「大したことじゃないさ。指先で掴む力も必要だからな」
天内くんは魔術師として1流にも関わらずその戦闘スタイルは剣技や武術主体だ。確かに強い。本来あった固定観念から少々変化したのは事実だ。
しかし。それは彼が特別なだけ。
今でも肉弾戦なんかよりも手の平から業火を生み出せる魔術の方がずっと強いとは思っている。身体を鍛えるよりも魔力やスキルに頼った方が手軽で何よりも便利だ。
世間一般的に考えても、どれほど鍛えてもたった一つの強大な魔術の前では無力。魔術アリと魔術ナシでは大人と赤子ほどの差が産まれるのだから。
「それは君だからこそ言えるかもですね」
「そんな事はないさ。誰でも訓練次第だろ」
「天内君は別としても、他の者……」
例えば僕のような凡夫には。
「強力な武具や魔術を駆使する者には身体を鍛えた所で無意味だと思いますけどね」
「この世に意味のない事なんてない。
それに強力なモノを扱うからこそ、身体を鍛えるべきだ。
心技体は密接に繋がっている。
目に視えない力を過剰に崇拝・期待しすぎれば慢心が生まれる。その油断と驕りが足元を掬う時が必ず来る。お前も本格的に鍛えたらどうだ?」
「そうですねぇ。一応、言われた通り腕立て伏せとかはやってますよ」
「そうか。そのまま継続していけ」
「は、はぁ」
彼は指立て伏せの態勢から逆立ちすると。
「魔法は便利で魅力的だが……アレは破綻している。エネルギー保存の法則から考えてもな」
「エネルギー保存の法則?」
「この世界の当たり前で育ったカッコウには分かり辛いかもしれんな」
「当たり前……ですか」
妙な事を。
「あんなもんなくても多分、人の営みは変わらない。手段が変わるだけ。でも難しいよな。わかるよ。人は結局の所、楽な方、楽な方に逃げるからなぁ」
「どういう意味でしょう?」
「いや、わからなくてもいいさ。単なる妄言だ」
「はぁ……そうですか」
「まぁ、何が言いたいかって言うと……」
―
――
―――
目の前の切り返し。
速いが反応出来ない程ではない。
彼の放つ目にも止まらぬ一閃よりも遥かに遅い。
「ある!」
まだ抗う術はある。
「まだ食い下がるのか!?」
桜井の放った剣閃。
逃げるのではなく、懐に入るように剣戟を受け止める。
目の前に奴の顔があった。
力では勝てない。
剣を離した瞬間、勝負は決まる
長くて残り数秒。
早くて次の一手まで。
だが、まだ王手ではない。
認識阻害はこの男には効かない。
完全に攻略されている。
見切られているのであれば、培った経験のみで、この男を打倒すればいい。
金属の接着点が離れるのを感じた。
・
・
・
「はい。これ」
千秋の奴はビー玉ほどの大きさの宝玉を手渡してきた。
「おう。さんきゅ」
それを摘まんで巾着袋に放り込んだ。
俺達は学園の広すぎるジャングルをお宝集めの為に歩いていた。そんな折であった。遠くから爆発音がエコーしたのだ。
「……風が……騒がしいな」
生暖かい、そよ風が頬を撫でる。
焦げつく臭いが鼻腔を刺激した。
マジで風が騒がしいのだ。
音魔法を発動して、周囲を集音する。
―――索敵開始―――
ずっと遠くみたいだな。
左手からはバチバチと何かが燃える火の粉の音。
右手からは砂嵐のような音。
ずっと先は不自然に曇天。
そこからは激しい雨音も聞こえる。
雨音にかき消されて分かりづらいが、頭上でヘリが飛んでいるようだ。
ヘリ? なんで?
左右から知った声が入り混じっている。
雑音が多くて細かい位置は把握出来ないが……
千秋も何かを勘付いたようで。
「なんか色々とやってるね」
「みたいだな」
そろそろいい頃合いだし奪い合いが始まってると見ていい。そんな事よりもアホ共は宝玉を集めてるんだろうな? 人海戦術で攻略を任せているが、誰一人として接触して来ない。いつになったら俺の下に来るんだ?
はよう俺の下に宝玉を持ってこんかい!?
千秋の方を見て。
「あのさ……さっきから俺の後ろをちょこちょこ連いて来てるけど……なんで来るの?」
「何か問題でもあるの?」
「いや……」
大いにあるに決まってるだろ!
千秋が傍に居るせいで、思うように動けなくなっているのだ。そろそろアホ共の進捗具合を知りたい。千秋が居ると、俺がTDR関係者として認識されてしまう。それは避けねばならない。俺が悪の親玉のボス……ではないと信じたいが、多分、まぁ幹部? 的なポジションだと悟られるのは頂けない。
「ほら、千秋はどこかしらの助っ人として参加してるんだろ? 俺に付き合っててもいいのかなって思って」
千秋は俺の事を手伝ってはくれるが、さっきから一つも自分自身の宝玉を集める素ぶりを見せないのだ。どこの助っ人として援護しに来たんだ?
「生徒会から頼まれてるだけだし」
「へ、へぇ~。なにを任されてるの?」
「監視? なのかなぁ~」
「なにそれ?」
「そのままの意味さ。ボクも乗り気ではないんだが……まぁ色々あってね」
「お、俺のふ、ふ、不正でも監査、す、す、するつもり?」
動揺するな。まだ、不正はしてない。
真面目に雑魚を演じつつ、普通にクリアしているはずだ。
千秋合流前に手に入れた5つ。その後手に入れたのが2つ。
計7つ。これは真っ当に獲得したものだ。
「そんな訳ないじゃない。言ったでしょ? 単なる監視だって。プールの監視とかそういうのと同じだよ。乗り気じゃないからこうやって君と話して時間をつぶしをしてるの」
「ふ、ふ~ん」
くそぉ~。早く誰か暴発してくれ。
なぜか学園にテロリストが乗り込んでる来るみたいな超展開になってくれ! このままでは俺は支援金争奪戦に敗北してしまうぞ。
一体、俺は今どの位置に居るんだ?
クイズ研究会と別れた後、他の団体と遭遇してないという事は数が減っているとは思うが……千秋が居ると俺は『俺の物は俺の物。お前達のモノは俺の物』が出来ないじゃん。
こうなったら、どさくさ紛れに千秋を撒きたいとすら思っている。
「次はどこに行くの?」
「一度スルーしたが、ひたすら穴を掘って埋めるを繰り返すゾーンに向かうかなぁ」
「どういう事? なんかの拷問?」
「俺に聞くなよ。わからないんだから」




