表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
228/457

なにをそんなに生き急いでいるのさ?


 後ろから鋭い眼光が光っていた。

 千秋の奴。どこぞの団体の助っ人として参加してきたようだが。

 厄介だな。コイツを始末せねば。

 俺の詭弁は通じぬ。実に厄介な奴だ。

 しかし、コイツは既にサブリアン。

 三郎ラーメンが食いたくて仕方ない可哀そうな脳みその持ち主。

 

「千秋くん。君は莫大な富に興味はないかな?」


「ない」


「あっそ」


 なかった~。変わりもんじゃんコイツ。

 金に興味がない?

 そんな人類がこの世に居るとはな。

 また一つ賢くなったわ。

 

 いかんいかん。軌道修正せねば。


「さっきも言ったが。俺には金がない」


「納税をしたからな」


「そう。組織に奪われた」


「国民の義務を果たしたの間違いだろ?」


「そう。義務を果たした」


「そうだね」


「千秋君は三郎ラーメンに行きたい? そうだろ?」


「ま……まぁね」


「だが、このままでは行けない」


「君のお金がないからな」


「そう。お金がない」


「借金もして浪費癖があるようだしなぁ~」


「そう。俺は稀代のビジネスマン」


「ただの学生だけどね」


「そう。ただの学生だったわ。しかし間もなく、莫大な富が転がってくる」


「支援金の横領は出来ないぞ」

 

「そんな事は一言も言ってない。千秋くん。君は学生だから知らんだろうが。世の中には交際費という言葉が存在している」


「プライベートの支出は経費として計上できないぞ」


 チッ。面倒な奴だ。

 コイツ、ヒノモトの税法に詳しいのか?

 俺は詳しくない。出来ないの? なんで?

 

「そう。俺は園芸部の天内」


「話が変わったけど??? そうなの?」


「そう。俺は園芸部部員1号にして会計兼広報兼備品管理を兼ねている唯一無二の存在」

 

「さっきから変な喋り方だね。それに園芸部員なんて初めて聞いたけど」


 昨日作ったペーパー部活だからね。

「そうか。そうかもな。秘密にしていたからな」


「……そうなんだ」


「部員獲得の為に使用した会議費……いや。言葉を変えようか。歓迎会を開いた場合、それは部として必要な支出であると……君はそう思わないかね?」


「屁理屈を並べているような気もするけど」


「果たしてそうだろうか? いや、そう思わない。千秋くん。君を園芸部に招待しよう」


「え?」


「そして歓迎会は明日!」


「君はまさか」


「そう! 褒賞金と言う名の支度金は即日手に入る。

 歓迎会に招待しようではないか。

 明日。三郎ラーメンに行こう! 

 それにはこの勝負に勝つ必要があるけど!」


 さっきからちょこちょこ後ろを連いてくる千秋は俺の邪魔をするでもなく。

「どうしてそこまでお金に拘るのさ?」


「俺はお金が大好きだ。お金は心を生活を豊かにするからね」


「でも借金してるんだろう?」


「ま、まぁな」

 莫大な借金が俺の肩にのしかかっている。

 桁がおかしすぎて実感はない。

 額を言ったら多分ボコられる。


「学生らしくバイトなりして真面目に働いたらどう?」


「千秋よ。俺は絶対にバイトをしない!!!」


「なんで!?」


「ヒノモトの最低賃金を知ってるだろうか?」


「……さぁ?」


「1時間850円!」


「だ、だからどうしたのさ?」


「トウキョウ。しかもこのオノゴロの地での最低賃金は1100円!」


「そ、そうなんだね。詳しいね」


「俺の1時間を1100円で売れる訳ないだろ!」


「え、ええぇ……」


「そもそも借金は悪ではない。借金した方がいいに決まってるじゃないか」


「いやいや。借金なんてしない方がいいに決まってるじゃないか!」


「それはプロパガンダだ。国民に借金をさせない為の道徳心のようなモノを植え付ける国の策略なのだ」


「どういう意味だい?」


「そもそも銀行はどこから資金調達してくる?」


「話が飛躍してないかな?」


「いいや。していない」


「そうかなぁ?」


「銀行の資金調達先。

 それは国民だ! 

 国民個人に預金という名目で集金している。

 現在ヒノモトのメガバンに預金した場合。

 年金利は精々0.02パーセント。

 対して銀行の貸付で発生する金利は最大15パーセント。

 あいつらのやってる事は馬鹿でも稼げるトリックなのだよ」


「あ、え?」


「つまりはだ。個人から集金した金には最低利率分しか還元せず、自分たちが貸す側に回れば15パーセントも利子を取る。俺が銀行に100万を預金という名目で貸しても銀行から支払われる利子は年間で200円。対して銀行が俺に100万貸せば15万も利子で奪う事が出来る。馬鹿でも稼げる商売だ。これが前提条件」


 千秋は目を回し始める。


「だがそれはいい。利子とは時間に対して支払った対価と思えばな」


「時間だって?」


「そうだ。借金が悪でない理由。例えば、夢を叶える為に貯金に費やす時間があったとしよう」


「あ、ああ」


「そうだな。仮に10年……いや5年でもいい。

 5年間働いて貯めた金で夢の為に動く。

 借金をしてでも今から夢の為に動く。

 これは圧倒的に後者の方が賢い」


「そうかなぁ? どうせ利子が付くけど」

 

「利子なんて精々15パーが限度だ。

 利子にビビッて動けるうちに動かないと絶対に後悔する。

 利子代なんて5年分の時間を買ったと思えばいい」


「そこそこな金額になりそうな気もするけど……あれって雪だるま式に増えるんじゃないの?」


「千秋くんよ。時間を買う事が出来るとは偉大な事なんだぞ。

 正確には未来を買う事が出来るとも言える。

 そして5年。これは決して少ない数字じゃない。

 5年あれば色々出来る。

 若ければ若いほどいい。

 身体は健康だし、頭も回る。

 若いうちに借金をして色んな事に挑戦すべきだ。

 金があれば色んな事が出来る。

 歩めたかもしれない人生。

 出会えたかもしれない数奇。

 救えたかもしれない命。

 そういったモノに付いて回るのがお金だからな。

 それが俺の人生で学んだ事だ」


「人生って大袈裟な……君は若いだろ」

 

「人は限られた時の中でしか生きられない。人生は有限だから」


「また……時間の話か」


「借金とは人生の時短である。

 夢を叶える為に金が必要ならその金を調達する術が悪な訳がない。

 金を貯めるために使った5年という歳月は金では買えない!」


 という俺独自のメソッドを伝授していると。


 不思議な顔をする千秋は挙手すると。

「一つ訊いていいか?」


「なんだよ」


「何をそんなに生き急いでいるのさ? まるで本当に時間がないように聞こえるんだけど」


 ・

 ・

 ・


/3人称視点/


「貴公は強い!」


 フィリスは目の前の武人を称賛すると最大出力の魔力を込め気候魔法を展開した。

 彼女が巻き起こした紫電纏う竜巻が大地を抉る。

 局所的に発生した自然の猛威を前に一介の騎士に立ち向かう術はなかった。TDR13騎士が放つトライデントの投擲がフィリスの頬を掠めた。

 

 紙一重で避けた彼女はよろけるが。

 勝負は決しようとしていた。

 目の前の13騎士は既に満身創痍。

 彼は退場間近であった。


「さ……すがにやるか……もう少し出来ると思ったのだがな。だが……満足した」

 TDR13騎士ブルーは無念そうに唇を噛みしめるが、頬には笑みがあった。


「なぜ、このような卑怯な事を企てた? 貴公ほどの武人が」


 TDR13騎士が1人。

 フィリスの前に立ち塞がった(ハーフ)エルフのブルーは。

「拙者は貴殿のような高貴な出自ではない」


「なんだ突然?」


「拙者は取るに足らない存在だ。母は娼婦。父は誰なのかすらもわからない」


「……」


「拙者はね。祝福されて生まれた者ではない……だろうな」


「そうか。貴公は」

(スラム出身の者だったか)


 ブルーはその先の言葉に答えず。

「では、初めの問いに答えよう。

 なぜこのような事をするのか? とな。

 簡単な事さ。これは存在証明だ」


「存在証明……だと?」


「そうだ。我が槍術の師であり、圧倒的な武の極地にいる男。たった一人の男は語った」


「男?」

(何者だ? ここまでの槍術使いを凌ぐ存在居るのか)


「彼はこの世に不要な存在は居ないと言い切ったのだ。

 そして人の生きる時間は有限であるともな。


 刹那の(とき)を生きる者は、時に人生で立ち止まり、迷う時間は必要であるが、最低限にせねばならないと語っていた。卑屈になっている暇などないともな。そんなものは無駄な思考だと。

 

 流れゆく時は待ってはくれない。

 故に今、自分に出来る事を出来る範囲で精一杯行えと。

 運命と言う名の因果に抗ってみせよと。

 一隅を照らす人になれ、とな」


「一隅を照らす人。初めて聞いたな」


「彼曰く、

 世界の片隅で目立たず取るに足らない存在であろうとも、

 その片隅で己が光を照らす存在になれと言っていたかな」


貴族(わたし)への当てつけか?」


「違う。これは存在証明と言っただろう? 

 己の実力を強者へ……いいや違うな。

 貴殿のような才ある貴人に見せたかったのさ。

 そして貴殿は拙者を認めた。

 認めて頂いた。

 姑息な手であろうとも、天鎮の巫女と手合わせして認められたかった。

 ただそれだけだ。故に。満足した」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ